「隠す」心理を科学する 人の嘘から動物のあざむきまで
19面記事太幡 直也・佐藤 拓・菊地 史倫 編著
子どもの嘘も取り上げ人間探究
「嘘つきは泥棒の始まり」というように「隠す」のは「悪いこと」なので、私は隠していることなんかないと信じていたのだが、本書を読んでその自信が揺らいだ。「『隠す』ことが、私たちの社会生活において不可欠であること、ひいては人間の本質に関わる心のはたらきであることがうかがえる」。「本書は、『隠す』心理を探究し、人間の特徴をより深く理解すること」が狙いだと序文にある。なるほど、そういう人間探究策もあるかと強く心引かれた。
「隠す」心理に関わる「対人コミュニケーション」「発達論」「子どもの嘘」「記憶の変容」など五つの観点について、「研究の第一人者」が執筆している。引用文献索引が40ページにもわたるが、そのほとんどが欧米の論文であることにびっくりした。私は「隠す心理」については全くの門外漢で、最先端の専門的論考部分はおいても、「隠す」ということや「嘘をつく」ということが、「悪いことである一方で、状況によっては役に立つという認識」も成り立つという論には心打たれた。
さらには、「嘘も方便」とか「冷たい本当と温かい嘘」などというように、教育に関わる者として、杓子定規な考え方だけにとらわれることには警戒が必要ということにも改めて気付かされた。人間存在の実相を「無限多面体」と考える私にとっては誠に楽しく読めた学術書でありがたかった。
(3850円 北大路書房)
(野口 芳宏・植草学園大学名誉教授)