道徳教育はいかにあるべきか 歴史・理論・実践
18面記事道徳教育学フロンティア研究会 編
学際的な研究踏まえた充実説く
楽しい。明るい。分かる。面白い。目指すべき道徳の在り方だ。依然として、そうした実践は少ないのが実情である。戦後の道徳教育の歴史的な経緯にも影響され、学問的研究が十分に進んでおらず、学習指導要領の解説と教室での指導法が中心になっていて、それらの根拠となる理論の考察や構築ができていないと本書は指摘している。そのために倫理学、哲学、歴史学、心理学などの学際的な連携が必須として活動してきた研究会の議論をまとめたものである。歴史的視座7章、理論的視座5章、実践的視座4章で構成されている。
フロンティアが論議しただけあって、どの章も視点がはっきりしていて読み進めるごとに「道徳教育学」として積み上げられていく感覚を覚える。すなわち体系化されていく見事な構成になっている。それは大学のテキストとしても活用できるものであり、かなりの成果が期待できると確信させる。
見えない道徳性の「伸び」を抽象的に表現するのではなく、教科の目標や授業の「ねらい」に準拠しながら行動変容を可能な限り可視化して「測定」し、「資料化」していく発想が求められると指摘する。また、物語様式の読み物資料の活用による授業スタイルを踏まえて研究課題を現実的、抜本的に提案している点が興味深い。道徳の時間60年の歴史、教材という視座はもとより、多面的・多角的に検証する時期到来と結んでいるところに本書に込めた意思が伝わってくる。
(5500円 ミネルヴァ書房)
(大久保 俊輝・亜細亜大学特任教授)