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共通テスト向け 授業づくり探る 第8回 夏の教育セミナー(8月9~15日)報告

10面記事

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日本教育新聞社・(株)ナガセ主催

 8回目を迎えた「夏の教育セミナー」(主催=日本教育新聞社、ナガセ)が8月9日からオンラインで開かれた。今年1月に初めて実施された大学入学共通テストについての講演や授業づくりの発表があった。好評のため受講期間を22日まで延長して開催した。

基調講演
思考力重視の出題に一定評価
前田 幸宣 文科省高等教育局大学振興課大学入試室長

 文科省の前田幸宣・大学入試室長は、今年1月に初めて実施された共通テストの振り返りと今後の入試の動向を、豊富な資料を基に解説した。講演後には、参加希望者から事前に寄せられた質問に答えた。転換期にある入試改革の現在地を確認できる内容となった。
 共通テストの振り返りでは、大学入試センター試験からの変更点や、新型コロナウイルス対応で第2日程も設けた本試験と特例追試験の結果概要を報告した。問題作成については、知識の理解の質や思考力を重視した出題内容が外部の評価委員会から一定の評価を受けたことを紹介した。
 本年度の試験は、従来通りに本試験と追試験で実施することを明らかにしている。ただ感染拡大が続いていることから、追試験会場を47都道府県に置くかどうかを検討し、秋ごろをめどに判断するという。
 一方、昨年度の個別選抜では、感染拡大を理由に急きょ学力試験を中止する大学が出た。そのため、文科省は7月の入試要項の公表後に「受験生に不利益を与える恐れのある変更は行わない」とする通知を出した。前田氏は現在のような緊急事態宣言下でも各大学に入試要項通りの実施を求める考えを明らかにした。
 また共通テストへの導入見送りを決めた記述式問題や英語4技能の評価は、各大学の個別試験で実施を促していく方針を説明し、引き続き重視していく姿勢を強調した。
 講演後にあった質問への回答では、約20分かけて、寄せられた質問に答えていた。

国語
「学びに向かう力」育成が鍵
齋藤 祐 中央大学附属中学校・高校(東京・小金井市)教諭

 中央大学附属中学校・高校の齋藤祐教諭は、「学びに向かう力を育む『現代の国語』」と題して日々の授業実践を発信した。齋藤教諭は、共通テストの基盤にあるのは新学習指導要領であるとし、学校現場が大事にするべきは、授業を通じ「学びに向かう力(目には見えない・見えにくい学力)」を育てることと明言。インドネシアから、日本語を教えている教員を同校に招いた時、生徒たちが前のめりになって話に聞き入っていた場面の写真を示し、生徒が「もっと知りたい」「理解を深めたい」と実感できるような授業づくりの必要性を説いた。
 高校1年生の国語総合の現代文分野では、「導入」で主観と客観が異なることや、客観=絶対ではないことなどを実感させるワークショップを展開。その後の授業では、ワークシートを使って、テキストから得た学びや気付きの振り返りを常態化させ、積み重ねの中で深い思考を促した。定期考査では、授業で読解したテキストに関わる小論文を出題し、自らの問いを論証させるようにした。
 齋藤教諭はまとめで、「共通テストに立ち向かうための特効薬はない。地道に一コマ一コマを丁寧に積み重ねていくしかない」と語った。

数学
現と新、両指導要領押さえる
鶴迫 貴司 東山中学校・高校(京都市)教諭

 数学を担当した鶴迫貴司・東山中学校・高校教諭は、現行と新学習指導要領の内容を踏まえ、今年1月の大学入学共通テストで出題された問題を詳しく解説した。新学習指導要領に沿った形の授業実践例も紹介し、そこではベクトルの内容を中心に取り上げた。
 鶴迫教諭は、発表画面の説明を

 (1) 共通テストで見えた特徴的な事項
 (2) 新学習指導要領での新しい事項や文言
 (3) 現と新の指導要領に共通する事項や文言

 ―によって3色に分類し、視覚的に伝えた。色付けした部分に考察を加え、大事な点では少し間を空けるなど、緩急を付けた口調も受聴者を飽きさせない工夫の一つだった。
 ベクトルを中心に扱った授業実践例の紹介については、黒板を使った模擬授業形式で実施。共通テストで出題された図形に関わる「形状決定問題」や「位置情報決定問題」を基に、現行と新学習指導要領の内容が両方とも含まれていることを確認し、新学習指導要領の観点だけでとらわれない部分も大切であることを強調した。また、普段の授業でも幅広く活用できる国立・私立の問題を使った授業実践例も紹介していた。

日本史
時代区分意識し「問い」作成
高橋 哲 渋谷教育学園幕張中学校・高校(千葉市)教諭

 日本史担当の渋谷教育学園幕張中学校・高校の高橋哲教諭が強調したのは授業での教師の「問い」を磨き上げることだ。
 入試問題を分析して「問い」を用意しているという高橋教諭。共通テストだけでなく、私立大学の入試問題や国立大学の論述問題も分析の対象にすることが大切だという。授業で用意する「問い」の数を精選しながら「時期区分や各期、現代的諸課題とどう結び付けるか、他の時代と対比したり推移や転換を見たりする(『トリの目』で俯瞰する)授業をどうつくるかを模索している」と語った。また共通テストや私立大学入試に共通する正誤を問う問題について、正答率の低い問題の共通点を「文章自体に矛盾はないが、時期の異なっている内容が選択肢に紛れ込んでいる」と分析した。具体的な入試問題を示しながら「時代区分を意識した授業づくりや『問い』の作成が必要になる」と改めて訴えた。
 その上で、1学期に実施した授業から「史料から読み解く問いの作成(自由民権運動、立憲国家など)」「グラフから読み解く問いの作成(産業革命の成立)」などの実践事例を紹介した。

化学
暗記より知識活用型の学び
吉村 大介 茨城県立並木中等学校(つくば市)教諭

 「暗記型よりも知識活用型の学びが求められた」
 茨城県立並木中等教育学校の吉村大介教諭は、今年の共通テストの問題の印象をそう話す。
 例えば、今年出題された鉄の錯イオンの配位子にシュウ酸イオンを用いた問題は「受験生には見慣れない反応の出題だった」。頭の中につくったデータベースの中から解き方を検索して、それに当てはめようとしても解けない「知識活用型の問題」と指摘する。
 吉村教諭は、こうした問題を解く力を付けるための指導について授業の動画を紹介しながら解説した。
 その一つが「なぜそのような反応や現象が起こるのか」を生徒が自分の言葉で相手に説明する「AさんBさんペアワーク」。口に出してアウトプットすることにより、自分が本当に理解できているかを明確化することができるという。
 他にも、学習単元の最初に行い、「なぜ」と疑問を生み出す力を育成する「問いストーミング」や、問題演習時に行い一人一人のつまずきに対応しながら他者と学び合う力を育成する「ミニ学び合い」などの手法を紹介した。

英語
多様な文章読める教材選ぶ
武田 誠 東北学院中学校・高校(仙台市)教諭

 東北学院中学校・高校の武田誠教諭は、使用した教材などを紹介しながら自身の授業実践を語った。
 最も意識しているのは、授業自体を英語だけで進めることだという武田教諭。ワークシートも英語のみで表記した。教材選びには「コラムやグラフ、ニュースなどさまざまな文章が読める」「総合型選抜対策や小論文の練習などにも使える」「リアルな英語が使われている」ことに注意するよう指摘。自身は、生徒に1年生からまとまった量の英語に触れさせようと、海外の出版社のテキストや、英語圏のニュースを取り上げた冊子を使った。
 リスニングの指導では、これまでは授業の冒頭などに10分程度の聞き取りの時間を設けていたものの、授業の本題の内容とつながっていないことが多かった。そこで、問題を聞き(リスニング)、トピックについて生徒同士の意見交換を行い(スピーキング)、一定の分量で意見を書く(ライティング)―というサイクルで1単位の授業を展開した。
 「共通テストはあくまでも通過点。生きる道具としての英語を生徒に身に付けさせることを重視してほしい」と受講者に伝えた。

英語
リスニング「言い換え」重視
武藤 一也 東進ハイスクール・東進衛星予備校講師

 英語では東進ハイスクール講師の武藤一也氏も講演した。
 冒頭、オンライン授業のポイントを「重要な話ほどカメラ目線」「普段より大きな声」「適度な問い掛け」「大事なことは繰り返す」などと挙げて、今回の講演でそれを実践。目の前で話しているような臨場感が伝わってきた。
 昨年度の共通テストについて「リスニングの平均点が低く、苦労した生徒が多かったのではないか」と武藤氏。リスニングでは代名詞の指す内容を問う問題や、話者が後から分かる問題の正答率が低かった。出題内容を、一度のみの読み上げやスクリプトの長文化など、より実生活に即したものになったと分析した。
 武藤氏は、リスニングで重要な要素に「発音」や「パラフレーズ(言い換え)」などを指摘する。発音は、似た音の言葉を知ること、単語単体ではなく「会話文の中での聞こえ方」を意識することが大切だと強調した。
 一方、パラフレーズは、単語の定義や類義語と併せて教えるのが効果的だと言い、教材の自作には英英辞典が役立つなどと紹介した。

受講者の声
入試の検討事項がよく分かる
コロナ下、勉強の場に

【基調講演】
 大学入試の検討事項の変遷が分かりやすく説明されていた。調査書の書式や移行措置などに関してもよく分かった(兵庫県立・男性)

【英語】
 授業で使うハンドアウトなど具体例を惜しげなく示していただき、かつその意図がはっきり分かったのが良かった(宮城県私立・女性)

【数学】
 コロナ禍で情報交換する機会がほとんどないので、今回のセミナーは大変勉強になった(奈良県私立・男性)

【国語】
 毎回のリフレクションなどで、学んだことを自分の中に落とし込む機会をつくるだけでも、より深い学びにつながるのだと感じられた(埼玉県立・女性)

【化学】
 「ミニ学び合い」にいろいろなパターンがあることを知り、有益だった(東京都私立・男性)

【英語】
 軽妙かつ熱のこもった話に引き込まれた。文中のパラフレーズを理解し、自ら使えるようになることの大切さは普段の授業でも痛感している(愛知県立・男性)

次回WEBセミナーは9月18~26日開催
テーマは「新指導要領と観点別評価」
石田・教育課程企画室長が講演

 2回目のウェブ方式での開催となった今年の「夏の教育セミナー」は9月18日から、テーマを変えて後編を開催します。テーマは、来年度から高校で始まる「新学習指導要領と観点別学習状況の評価」です。
 観点別学習状況の評価は、小・中学校では既に取り組んでいますが、高校ではこれまで指導要録の様式に記載欄がなかったこともあり、学校や教員によって取り組みに温度差がありました。
 新たに整理された3観点のうち、特に「思考力・判断力・表現力」と「主体的に学習に取り組む態度」をどのように評価したらよいか。指導の参考資料は国や教育委員会などによって作られていますが、実際の授業計画との関連付けは悩ましいところです。
 そこでセミナーでは国語、数学、英語、情報、総合的な探究の時間を取り上げ、それぞれのエキスパートの教師が解説。内容の変更点と指導のコツ、観点別学習状況の評価の考え方をお伝えします。
 さらに文科省からは初等中等教育局の石田有記・教育課程企画室長が講演します。講演では、新しい学習指導要領の趣旨や改善の要点、その下での観点別学習状況の評価の考え方などについてお話しします。
 ぜひ18日から始まる後編もご視聴ください。後編からの参加ももちろん可能です。

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