1人1台PC配備後におけるハイスペックCPU導入とPC教室のあり方
9面記事GIGAスクール構想により小中学生に1人1台PCが配備された今、新学習指導要領では自由な発想で日常的にICTを活用できる環境の整備、「個」に応じた指導体制が求められている。そこでカギとなるのが、ハイスペックCPUの導入とPC教室だ。1人1台PCに加え2つのPC教室で生徒の学びをサポートしている東京都立三鷹中等教育学校の能城茂雄主幹教諭に話を聞いた。
ハイスペックPCで想像力を高める
―新入生一人ひとりにIDとパスワードを付与し、下校時までPC教室への自由な出入りを許可しているという三鷹中等教育学校が、1人1台PCとして高性能モデルを導入した経緯は?
能城(以下敬称略)コンピュータ教室(CALL教室)は、基本的に自由に利用できるように開放しています。トラブルを懸念して規制するのではなく、自己責任でインターネットを活用するためのモラル教育を入学時にしっかり行いながら使わせています。PCをよき道具として使ってほしいのです。
本校はGIGAスクール構想以前の2016年に、1人1台PCで生徒の学びがどう変わるかを実証実験する「ICTパイロット校」に指定されました。堅牢性を重視して中1~3年生に文教モデルの端末を480台配備しましたが、処理速度が遅く授業の流れを止めたり、ストレスで生徒の思考を妨げたりしていることがわかりました。2018年にはビジネスユースと比べても遜色がない高性能CPU「インテル(R)Core(TM)i5 プロセッサー」搭載PCを新入生分として導入、2020年には「Society5・0に向けた学習方法研究校」に指定され、1人1台PCとしてSurface Go2 LTEモデルを新入生に渡すことができました。
―高性能PCの感触は?
能城 1人1台PCのスペックが向上したことで、使い勝手が良くなり、1人1台PCの利用率が上がり「授業」でのPC教室の利用者は減少しました。逆に「休み時間・放課後」などの自由な時間に利用者が増えました。生徒たちは大きな画面による作業効率のよさ、グループでの共同作業のしやすさなどデスクトップPCの快適さを再認識したのでしょう。個人のノートPCとPC教室のデスクトップPCをうまく使い分け、自由な発想で学びを深め創造性を発揮する生徒たちを見て、時代に合った高スペックPCをPC教室に置いて子どもたちの成長をサポートすることの大切さを痛感しました。
将来につながるようなよりハイエンドなPCを求めていたところ、アドビ株式会社とインテル株式会社の共同研究により開設された「メディアラボ」の実証実験に参加できることになりました。今年1月にインテル社から、動画制作にも十分対応可能なマウスコンピューター製PC8台と31・5型の4Kモニターなどの機材を提供いただき、既存のPC教室に追加する形で設置しました。またアドビ社からCreativeCloudユーザー指定ライセンスが提供され、プロ仕様のクリエイティブツールを使える環境を整えていただきました。
―使い勝手はいかがですか。
能城 特に4Kモニターに生徒は釘づけです。マウスコンピューターさんのPCはハードウエアのスペックはもちろん、機材の取り回しがよくとても扱いやすい。コストパフォーマンスと性能が両立していると思います。
「本物」が、将来につながる気づきや経験を与える
―メディアラボ開設後、生徒たちに変化は見られますか。
能城 アドビ社が主催した動画制作オンラインワークショップには、土日にもかかわらず20数名が来てくれました。ワークショップに参加し、メディアラボにも足繫く通う生徒からは「PC技能はどの業界でも活かせる。大学ではプログラミングと同時にデザインも学んで“伝える仕事”に結びつけたい」(小西姫奈・高3)、「動画制作の道に進みたい。動画の作り手側の視点にまで興味を広げられた経験はとても大きい」(加藤壮真・高2)との声が上がっています。
―ICT企業への期待はありますか。
能城 2022年度には全ての都立高校入学生に1人1台PCが配備されます。「情報Ⅰ・情報Ⅱ」でプログラムやデータサイエンスの基礎を学ぶようになり、共通テストの科目にもなります。教材を提示する中間モニターが重要となり、ハイエンドデスクトップPCを配備したPC教室のメリットがますます発揮されるでしょう。今回のメディアラボは、学校が社会とつながり開かれた場所となる大きな試みになりました。ICT企業の方々には、高校生が本物に触れ、リアルな経験を通して本物の素晴らしさ、その製品・企業のファンを増やす活動やモデル展開をしていただけたらうれしいです。
能城 茂雄 東京都立三鷹中等教育学校主幹教諭
文部科学省学習指導要領等の改善に係る検討に必要な専門的作業等協力者(共通教科情報)、文部科学省高等学校情報科「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」教員研修用教材検討委員、同WG委員。
インタビューに答えてくれた小西さん(左)と加藤さん(右)
将来につながる学びの環境を整え、高校生の創造性を支援していきたい
小池 晴子 アドビ株式会社デジタライゼーションマーケティング本部長
弊社はこれまでAdobe CreativeCloud・小中高向け特別価格のライセンスや教育機関向け無料のAdobe Sparkなどを通して、教育現場のICT化のお手伝いをしてきました。「メディアラボ」は、高校生の1人1台PC導入を見据えて昨冬から始まったインテル社との共同研究。充分なICT環境を整えたPC教室があれば、高校生が創造性をどれほど自在に発揮できるかを実証しています。三鷹中等教育学校様では動画制作ワークショップ以来、部活動紹介の動画制作などにも生徒の興味が広がり、質の高い作品が生まれていると聞き、とてもうれしく思っています。
子どもたちには、実社会で使われているツールを使いこなし、大人世代を軽々と乗り超える活躍をしてほしい、自身の創造性で身の回りや社会の課題を解決して活躍してほしいと願っています。そのためには高校生の成長発達段階にあった教育ICT環境と社会とつながる学びが必要です。今後も子どもたちの創造的問題解決能力の育成につながる学習環境整備に微力ながら尽力してまいります。