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子ども一人ひとりの力を伸ばし未来へつなぐ~ICTの活用~【座談会】

10面記事

企画特集

1人1台教育PC配備後に求められること

 社会の変化が加速度を増し、複雑で予測困難な時代にあって、子ども一人ひとりの力を伸ばし、未来へつなぐために、どのような学校教育を構築すべきか。そして、GIGAスクール構想で配備された1人1台端末をはじめとするICT(情報通信技術)をどのように生かしていくべきか。ICT活用の経験豊富な企業、学校教育のオピニオンリーダーが一堂に会し、産官学それぞれの立場から現状と課題を語り合った。(司会=高橋純・東京学芸大学准教授、文中敬称略)

高橋 純 東京学芸大学教育学部准教授

田中 康雄 東京都台東区立上野小学校校長

鈴木 国正 インテル株式会社代表取締役社長

戸ヶ崎 勤 埼玉県戸田市教育委員会教育長

テーマ1「未来の子どもたちと学校教育への期待」
鈴木「世界に追いつくカギは「人材」」

 高橋 インテルは世界の情報化や、グローバル化の中心を担う重要な企業です。海外のご経験も長い鈴木社長から見て、将来活躍する人材や学校に対して何を期待していますか。

 鈴木 インテルは創業以来、コンピューターを作るハードウエアメーカーに半導体を供給し「PCの民主化」の役割を果たしてきました。社会課題がほぼデジタル化の課題に直結する現代においては、インテルのミッションも社会課題の解決に重なる部分が多くを占めています。
 インターネット前夜の1991年に渡米したとき、日本はあらゆる分野で世界を席巻しており、日本人というだけで「教育レベルが高い」と、リスペクトされました。しかし、現在では先進国の中で最もデジタル化が遅れた国という立場に甘んじています。
 私は、このギャップを残念に思うと同時に、解決のカギとなるのは「人材」しかない、という思いで教育界の方々と対話を始めました。日本の教育が抱えるデジタル化の遅れという社会課題に対し、グローバル企業であるインテルの知見を利用しながら、解決に向け貢献したいと考えています。そして、日本らしい21世紀型スキル育成のため、その一助となりたいと考えています。

 戸ヶ崎 胸に響く御指摘です。21世紀型スキル育成のためには、教育委員会も学校も相応の意識改革が必要となりますが、「教育村」や「学校村」の意識改革は難しいとよく言われています。私が教育委員会として学校へ依頼し続けているのは、「変化する社会の動きを教室の中に入れて欲しい」ということです。「子どもたちが出ていく社会を知る努力と、学年や教科等を横断して根本にさかのぼった議論を」と繰り返してきました。そして、教育改革を進めるためには産官学と積極的に連携し、最先端の質の高いさまざまなリソースを導入することが必要と考え、その第一歩が、インテル社との連携だったのです。産官学の連携とICTの活用はそこから広がっていきました。本市では2016年頃から端末の配備を進め、1人1台端末のマストアイテム化を目指してきたので、GIGAスクール後は「待っていました!」とばかりに現場で活用が進んでいます。
 また、基礎自治体の教育長としては、学校に「いかに元気に自走してもらうか」を心掛けています。教育委員会というと管理的なイメージを持たれがちですが、学校の取り組みを支援し、伴走するのが本来の役割です。

田中「校務と学習、両方の情報化が急務」
戸ヶ崎「教師心理を捉えスイッチを入れる」

コロナ前の助走が活用の推進力に
 鈴木 各校が活用するまでは順風満帆でしたか?あるいは、コロナ禍において企業のニューノーマル対応が加速したように、激変を経験されたのでしょうか。以前はICT活用に抵抗感のある先生もいた、という話を聞きましたが。

 戸ヶ崎 2020年3月の学校の臨時休業の際には、すでにコンピューターは日常使いのツールとして定着していました。普段使っているものを、休業中に使わないのはもったいない、という発想から、家庭への持ち帰りやオンライン学習は各学校で自然発生的に行われました。
 確かに、端末の導入当初はICT活用の必要感が弱く、抵抗感もありました。何より、「ICTを活用しなくとも十分授業ができる」「正しい使い方がわからなければ使えない」という意識が多くあったのです。そのような中、まずは「Just do it」で実践すること、そしてもう一つ、「Learn from Children」は、子どもを信じて、子どもに聞くことのできる謙虚さがあれば教師のICT活用スキルは自ずと高まる、ということをあらゆる場で伝えながら、チャレンジ第一のICT活用を進めてきました。合わせて、各学校のパソコン室をなくすことや、小黒板、各種教具のデジタル化、最近ではプリント学習の廃止にも取り組み始めています。こうした取り組みの過程で、子どもたちの意欲的な姿などから徐々に抵抗感は薄らいでいきました。その際、ベテランの先生方がPC活用に積極的に取り組んでくれたのが大きく、これは各学校長のマネジメントのおかげでもあります。

 高橋 田中先生は、教育委員会でのご経験が豊富で、デジタル化の推進にあたってこられました。東京都はコロナ休業中の2020年5月に、都立学校の生徒にアカウントを付与しました。そのスピード感を評価する声がネット上ではありましたが、実は1年以上前から検討を始めていたことが、タイミングとして合致したのだと見ています。当時、東京都教育委員会で情報教育の推進担当を任されていた田中先生には、どのような「読み」があったのでしょう。

 田中 教育の情報化には、これまでのキャリアの中でターニングポイント的にかかわってきました。平成20年代には、指導主事として教員用PCの配置計画に、その後、別の教育委員会で児童生徒用の1人1台計画の推進に携わりました。都のGIGAスクール構想が完了した今年4月からは、都教委から、再び校長として学校現場に戻っています。
 都立学校は、2018(平成30)年度段階で電子黒板は配備されていましたが、ICT活用は進んでいるとは言えない状況でした。私は、これまでの経験から、校務系のデジタル化と学習系のデジタル化を並行的に進めていくことが必要だと考え、庁内で組織横断的に検討を始めていました。その過程で、デジタル化による教育データの利活用に向けて、生徒端末の在り方や、生徒アカウント付与の重要性なども部署間で共有していました。そこにコロナ禍が重なり、インフラ整備を所管する部署の努力により、まれにみるスピードで一気に完了したというのが実情です。

 鈴木 やはり、現場を牽引する人がいなければ、学校のデジタル化は進みづらいのでしょうか。今でも地域の格差が大きいと言われていますよね。

 戸ヶ崎 ICT活用を定着させるときには、デジタル化のよさを口で強調するだけでは、教師には簡単に受け入れてもらえません。その代わり、一度体験して「いいな」と実感を伴って理解してもらえれば、黙っていても積極的に活用してくれます。そうした教師心理を捉えて、いかにわくわく感に火を付けるような仕掛けをしていくかも必要ではないでしょうか。「鍋ぶた式」と呼ばれる比較的フラットな組織の学校においては、ピンポイントでのモチベーションアップが上手にできると、一気に共有が進み自然に走り出すものです。

テーマ2「ICT環境が教育に果たす役割」

 高橋 皆さんのお話をうかがっていると、どなたも、情報化社会への時代の転換点を経験されています。デジタル後進国への危機感を持っている鈴木社長、地域の教育資源が小さくなる中で産官学の連携に活路を見出した戸ヶ崎教育長、田中校長は教育委員会でデジタル環境のインフラ整備にかかわってこられました。
 情報活用能力が、読み書きそろばんに近いイメージにまで認識されるようになった今、1人1台端末に代表されるICT環境は、学校教育の発展に向けて、どのような役割を果たすことが期待されているでしょうか。

 戸ヶ崎 先ほど都立学校のアカウント付与の話が出ましたが、私も以前から同じことを考えていました。クラウドサービスを前提にデジタル環境を構築する「クラウド・バイ・デフォルト」を実現するには、1人1台環境と同時に、クラウド接続のアカウントを児童生徒個人に付与することが必要です。それを2018(平成30)年度あたりから構想し、2019(令和元)年度は教員研修が終わったころでした。一斉休業期間にはそのアカウントで、個人端末でも学校端末でも、どこからでもクラウドに接続できる環境が提供できました。

 高橋 コロナでICT化は加速したけれども、やはり前提となる準備段階があったのですね。もう少し具体的に流れを教えてください。

 戸ヶ崎 私は教育長就任とともに、教育改革のコンセプトを4つ掲げました。1つめは、AI(人工知能)では代替できない能力の育成と、AIを活用できる力を育成すること。2つめは産官学連携による最先端の知のリソースの活用により効率的に質の高い教育を提供すること。3つめは、「経験・勘・気合い」という3Kから脱して、客観的な根拠に基づいた教育政策の立案、EBPM(Evidence―based Policy Making)を重視すること。4つめは、子どもの学びの過程や優れた教師の指導技術などを、言語化、可視化、定量化する「教室や授業を科学する」ことです。
 これらを実現するためには、ICTの活用が不可欠であり、そのために早期から端末とネットワークの整備を進めました。1人1台端末の活用にあたっては、教師主導の「指導と管理」のもと「教具的」に使うのではなく、学習者が主体となり「学びと愛用」による「文具的活用」へ移行することが必要です。そして、先ほども申したように、まずは使ってみることを大切にしながら、プログラミング教育やPBL(Project Based Learning)などICTの活用がマストになる学びの推進もセットで行ってきました。
 現在は、それらを統合する形で、SEEPプロジェクト(Subject、EBPM、EdTech、PBL)の推進を掲げ、デジタル・デバイドへの対応、デジタル・シチズンシップ教育、快適なネットワーク環境の構築、学校と家庭をつなぐシームレスな学びなどに取り組んでいます。また、学習データの利活用に向け「教育政策シンクタンク」を教育委員会に設けるなど、教室や授業を科学することやEBPMの推進に向けて多様な知見を取り入れる組織改革にも着手しています。 
 いずれにしても、ただ「ICTを授業で使え」の号令だけでは活用は進みません。活用せざるを得ない学びや取り組みとのセットや校務や保護者との連絡など、学習以外のことでもデジタル化を進めていくことが必要だと思います。

 高橋 あらゆる学校の業務、学校の課題をデジタルで解決する戸田市の取り組みが、大変広範囲なことがわかりました。

高橋「日常使いがICT普及のポイント」

好事例を全国に広めるカギは
 鈴木 戸田市の取り組みは、インパクトが大きいのですから、ぜひ多くの方に知ってほしいですね。経営者としては自社の強みを広げていくこと、つまり技術を標準化し、競争してシェアを拡大する発想は自然なのですが、教育の世界にはなじまない考え方なのでしょうか。

 田中 先進的な取り組みは、中教審の会議などで事例として紹介されることも多いですから、参考にしている教育関係者は大勢いると思います。しかしながら、施策を方向付けるために自治体が共通の仕様書を用いたり、それを自治体間で共有したりすることは、地方分権の観点からは、なかなか難しいことではないかと思います。

 高橋 それに、教育改革構想を目の前にドンと提示されると、引いてしまう現場もあります。私も「ICT活用の第一歩は実物投影機から」と提言したことがありました。小さなことのように感じられるかもしれませんが、現場は壮大なICT、ICTのかけ声にうんざりしている側面もあるのです。
 戸ヶ崎教育長は、1人1台端末を導入したときに「学力向上」ではなく、「日常使いをする」ことを提唱しました。小さな一歩を「てこ」にする手法には感服しました。
 今、学校では、端末の持ち帰りをどのようにさせるかが課題となっていますが、いきなり家庭学習と結び付けるから停滞してしまうのです。例えば、連絡帳をデジタル化すれば、自然に1人1台活用が進むし、自動的に家庭に端末を持ち帰る、クラウド活用の出発点になるはずです。
 自治体間の情報共有に関しては、これまでも独立行政法人教職員支援機構が主催する研修が役割を果たしてきたと思います。全国から中心的な役割を担う教育人材が集まりますから、情報交換だけでなく、研修後のネットワークも維持され、そこから各地で教育改革が始まることも少なくありません。

 鈴木 人と人とのつながりに触発されることは、とても大切なことですが、戸田市のようにEBPMを導入し、取り組みや成果が客観的に測れるようになってくると、そうは言ってはいられないのではないですか? よい意味での競争を促進するために、教育の取り組みや成果を測定する方向に意識は向いていかないのでしょうか。

 田中 成果指標を各学校が作って提出し、教育委員会が取りまとめる制度はありますが、自己評価、自己点検の文脈で捉えることが多いのが実情です。自治体間の情報共有が組織だって進まないのは、データが可視化されていないことにも原因があると思います。

 戸ヶ崎 行政同士を比較できる標準化されたデータがあり、それぞれの取り組みが定量化できる「オープンデータ」の発想や仕組みが、教育界の中にまだないのです。文科省では2020年7月から教育データの効果的な利活用を促進するために必要な方策について具体的な検討を行う「教育データの利活用に関する有識者会議」が発足しました。高橋先生も私も委員を務めています。

テーマ3「高度人材育成に貢献するインテル」
ICT活用の実現のために今、すべき取り組みは

 高橋 教育委員会の仕事はICT化だけでなく多岐にわたります。森羅万象といってもいいほどなのです。それぞれに評価指標を作り、自己評価・自己点検する取り組みは、各地で行われ始めています。その意味では教育界も少しずつ進んできていると思います。
 それよりも、今回のGIGAスクール構想で1人1台端末が行き渡り、日々、子どもの名前と紐づいたさまざまなデータが、整理されないまま蓄積されているのがもったいないと思います。戸田市の第二フェーズは、そこにチャレンジするものだと言えます。教育データの利活用の成否が、コンピューターが便利な道具だと人々が思うか、思わないかの分岐点になるのではないでしょうか。

 鈴木 教育データの利活用において、我々は2つの側面から、戸田市のチャレンジに貢献していきたいと考えているところです。1つは思考支援型授業のための教員研修プログラム「Intel(R) Teach」。2つめは次世代の理科室「STEAMラボ」の導入支援です。
 Intel(R) Teachは、児童生徒が自ら考え、自走する力を育むため、インテルが20年前から取り組んでいる無償の研修プログラムです。世界70カ国で1500万人以上の教育関係者が受講しています。このプログラムは戸田市をはじめ、いくつもの自治体で採用されていて、先生方の授業設計・指導力やICT活用指導力を地域全体で向上させる効果をもたらしています。
 なぜ、無償なのかといいますと、それはインテルのミッションと深くかかわっています。我々の目的は「世界を変革するテクノロジーを生み出すことで、地球上のあらゆる人々の生活を豊かにする」ことにあります。そして、インテルのブランド力、そして「中立性」「おおらかさ」は、Intel(R) Teachが世界で受け入れられている理由にもなっています。インテルの持つ世界規模の教育分野での知見や情報を、幅広く提供し、日本の教育全体が、デジタル化に向けて盛り上がること。これこそが私たちの望んでいることなのです。
 「STEAMラボ」は、21世紀型スキルを育成する、新しい学習空間のニックネームです。最新のテクノロジーを使用したアプリケーションやコンテンツを、高性能PCで体験できるスペースを、今後、パートナーや自治体と協力しながら学校に普及させていきたいと考えています。
 STEAM教育は、従来の教科の枠にとらわれず、科学・技術・工学・芸術・数学を統合的に学び、課題解決能力や創造性を育む教育手法として、世界で注目されています。そのためには、1人1台のPC環境のみならず、先端テクノロジーを生かし、端末やクラウドと紐づけた学びを展開して、真に創造的な人材を育成しなくてはなりません。
 戸田市は教育改革のコンセプトのひとつに「AIでは代替できない能力の育成と、AIを活用できる力の育成」を掲げています。課題解決学習により思考力・判断力・表現力を育成するだけでなく、AIによる機械学習やデータ解析、そしてプログラミングやデジタルコンテンツ制作などのスキルも高めようとしています。
 STEAMラボでは、まず、デジタルコンテンツの制作やテクノロジー体験から楽しく始め、そして、一歩ずつ、日本が必要とする高度技術人材育成を育む「ゆりかご」のような場所へと発展させていくことを目指します。

 戸ヶ崎 本市の教師がICTを活用したPBLの授業に積極的に取り組むようになったのは、2016(平成28)年にIntel(R) Teach Programを導入したことが転機となっています。その時、研修を受けた教師が各校でメンターとなり、PBLの推進役になっています。
 今後、インテル社が提唱される「Skills for Innovation」の実現に向けて、STEAMラボの活用を通した共同研究に取り組ませていただきます。子どもたちの「もっとデジタルでいろいろなことをしてみたい」「タブレットだけでなく、より高スペックの最新鋭のコンピューターにふれてみたい」などという、知的好奇心に応えてくれるものと大いに期待しています。本物を与えて子どもたちのわくわく感をふくらませ、今後の新たな学びやそのための教室のモデルを示すサンプルになればと思います。

どの子にも好奇心を伸ばす教育を

時代の変わり目に問われる姿勢
 高橋 時代は今、大きな「変わり目」を迎えています。新型コロナの世界的流行で、コミュニケーションや働き方、学び方のパラダイムシフトが起きようとしています。そしてICTも高度化し、私たちの生活や身の周りにより近いところで活用されはじめています。
 鈴木社長は、テクノロジーの世界に身を置いていて何度も時代の「変わり目」を経験されてきたと思います。そういうときのためご自身は、どんな対処法をお持ちですか。

 鈴木 自分で自分の「好奇心」をかき立てるように癖づけて、実行することです。これまでグローバルレベルでさまざまな人と接してきましたが、おおざっぱに言うと、人は生まれながらに好奇心の強い天才的なタイプと、そうではない普通の好奇心の人とがいます。アップル社のスティーブ・ジョブズ氏をはじめとするシリコンバレーの人材は前者です。好奇心の塊で強烈な個性を放ち、次々とイノベーションを起こしていきました。
 私は後者の「普通の好奇心の人」なのですが、それでもいろいろな経験を積むうちに、好奇心を持って自ら動かなければ、人と一緒に働くことはできないと知りました。
 ですから、これからの日本では、どのような子にも、好奇心をかき立てるような教育が必要だと思います。21世紀型教育とは、つまるところ好奇心を持たせる教育であり、生きる力につながっていくのだと思います。ジョブズ氏のような天才でなくとも、すべての子どもたちに対して好奇心を刺激する教育方法はあるはずで、実現すれば日本にも、もっと面白い人が生まれてくると思います。

 田中 子どもは元々、豊かな好奇心を持った存在です。でも、成長過程でそれが失われてしまってはいないでしょうか。就学前の子どもたちの活動を見ていると、その好奇心を持ち続けさせてあげたいなと思いますね。

 戸ヶ崎 校長会議などで、「リスクがなく凡庸な90点の取り組みよりも、60点でも夢のある挑戦が教育改革を推進させる。最大の敵は改革に反対する人ではなく今のままでいいんじゃないかという人である」と述べています。好奇心いっぱいの、攻めの姿勢が大切です。アンテナが高くなれば感度も磨かれ、自走できるようになりますから楽しさも倍増するのです。

 田中 校長として先生方には、「教えたつもりからの脱却」をお願いしています。45分間で教科書内容を段取りよく教えられたという実感は、教師都合でしかありません。子どもが学んでいなければ意味がないわけです。
 子どもが学んだかどうかを知るには、ICTを利用した活動で蓄積される学習履歴を使うことができます。さらに、子ども自身が学習履歴を活用しながら「学ぶことや自分を高めることは楽しい」と感じられれば、外部要因が変わっても、学びの価値や楽しさを生涯、持ち続けられる人に育つのではないでしょうか。そんな教育が、これからの学校には求められていると強く感じています。

 戸ヶ崎 同感です。「努力は夢中に勝てず、義務は無邪気に勝てない」と言う言葉がありますが、まさにそのような子どもたちであってほしいと思います。そのためには、教師自身の教育観、指導観の転換が必要なのです。好奇心をベースに課題解決のスキルを教師が持つことが、子どもたちの21世紀型スキルを育んでいくことに直結するのです。本市では、「脱・正解主義、脱・自前主義、脱・予定調和」をキーワードとして、未来の教室を創っていきたいと考えています。

 鈴木 子どもも自走、先生も自走ですね。デジタル化の底上げが、現場の改善や改革につながるのは学校も企業も同じです。自走の力を高めるために、具体的なステップを踏むことが問われているとわかりました。

 高橋 どうも日本人は、自走のスイッチが入るのが遅いのかもしれません。ただ、いったんオンになれば、勢いをもって走れるのも特長かと思います。戸田市も簡単にスイッチが入ったわけではなく、長い時間がかかっています。今回のGIGAスクール構想が、自治体や学校のよいスイッチのきっかけになると思います。本日はありがとうございました。

<略歴>

(司会)たかはし・じゅん
 東京学芸大学教育学部・准教授 博士(工学)
 教育工学、教育方法学、教育の情報化に関する研究に従事。中央教育審議会臨時委員(初等中等教育分科会)(2019年~)、文部科学省「教育の情報化に関する手引」作成検討会委員(2019年)、文部科学省「教育データの利活用に関する有識者会議」委員(2020年)、文部科学省「学校業務改善アドバイザー」(2017~2019年)等を歴任。第17回日本教育工学会研究奨励賞受賞.日本教育工学会理事、日本教育工学協会副会長など。

たなか・やすお
 東京都台東区立上野小学校校長
 東京都墨田区教育委員会統括指導主事、東京都江東区立亀高小学校校長等を経て、前東京都教育庁 指導部主任指導主事(情報教育担当)。

すずき・くにまさ
 インテル株式会社代表取締役社長
 横浜国立大学経済学部卒業後、ソニーに入社。2009年にソニー・コンピュータエンタテインメント代表取締役副社長を経て、2013年にソニーモバイルコミュニケーションズ代表取締役社長に就任。2018年からインテル代表取締役社長に就任。

とがさき・つとむ
 戸田市教育委員会教育長
 文部科学省中央教育審議会教育課程部会委員、教育データの利活用に関する有識者会議委員、経済産業省「未来の教室」とEdTech研究会委員。

ICT先端技術で学校の情報化の未来を見せる
インテルが提案するデモンストレーション

先端技術の教室で次世代の教育を体感
 インテルは、さまざまな物がインターネットに接続され相互にデータをやりとりするIoT(Internet of Things)や、AI(人工知能)、VR(Virtual Reality=仮想現実)など最新のコンピューター技術の研究に、世界に先駆けて取り組んできた。
 その利用モデルやコンセプトを積極的に社会に発信し、新たなビジネスモデルの創出とグローバルな展開を目指すためのデモンストレーションを行っている。教育分野では高品質なリモート授業を実現する、最先端の機器と設備を備えたモデルルームを提案しその様子を動画配信している。
 政府の「GIGAスクール構想」実現のため、同社はハードウエアメーカーや団体とのパートナーシップのもと、1人1台PCの早期供給に力を尽くした。
 そして、PC環境が整ったいま、個別最適化された学びや、エビデンスにもとづく指導、教育データを利活用した政策立案など「令和の日本型教育」が目指す未来の教育の姿を、目に見える形で提案するのが狙いだ。

高品質でスムーズなリモート授業をデモ
 そのひとつが、高品質なリモート授業の提案だ。コロナ禍による学校臨時休業中、リモート授業の必要性は認識されながら、実行に移せた公立学校は2020年4月時点でわずか5%にすぎなかった。秋以降、1人1台のPC配備が急速に進み、環境が整ったので、試行的にリモート授業に取り組み始めた学校も少なくない。
 単にPCをインターネットにつなげるだけでなく、これからは、子どもたちの学びを変えていくようなPCの利用、ICT活用の実践が求められている。
 同社の提案するデモンストレーションでは、学校の教室を模したモデルスペースに、最新テクノロジーを内蔵したICT機器を展示。教育関係者を未来の教室へと誘う。
 木の床に児童用の机といすが置かれているのは、標準的な教室のイメージと同じだ。だが、ここで体験できる授業は、従来の黒板とチョーク、教科書やノートを使うものではない。机上にはノートPCが置かれ、前方には大型タッチパネルモニターが3台。天井には教室全体を撮影できる、ウェブカメラが設置されている。
 実際の黒板より大きな、3台連携のモニターは、その大きさと使い勝手の良さがポイントだ。まず、デジタル教科書を大きく提示でき、教室のどの位置からもはっきり見ることができる。拡大や縮小も指1本でできるので、児童生徒の注意を引きやすい。
 手書き文字で提示する必要がある情報は、デジタル教科書の横に、黒板アプリを起動させてタッチペンで書く。さらには、デジタル教科書や黒板アプリを表示したまま、インターネットブラウザを立ち上げて、用語や画像を検索する「調べ学習」もできる。
 その授業の様子はリモートカメラで撮影し、ビデオ通話アプリZoomで双方向の授業を行うことができる。天井のカメラは視野角が大きく、教師用のコントロールパネルから操作可能で、話し手へのフォーカスも自由自在だ。リモートで受講する児童生徒も教室にいるような臨場感で授業を受けることが可能になる。児童生徒用PCにはZoomの画面共有機能を使い、タッチパネルモニターに映った内容を表示することができるので、理解も進みやすい。

デモンストレーション環境設定例

高性能小型PC NUCの将来性
 PC端末やクラウド接続、モニターやビデオカメラなどを駆使する、高品質なリモート授業を実現するには、機器をスムーズに動かせるPCが高性能でなければならない。この教室での高負荷な処理を一手に引き受けるのが、「インテルNUC(ナック)」と呼ばれる、小型デスクトップPCだ。第11世代インテル(R) Core(TM) プロセッサーをはじめ最新のテクノロジーを詰め込んだ、パワフルな性能を持ち、ストレスのないリモート授業を実現してくれる。
 ICT機器を心地よく使う環境が整ってこそ、教師の工夫が編み出され、子どもたちの学びも、よりいきいきとしたものに変化する。「現状では、1人1台のPC活用がスタートしたばかりの学校も多いと思う。デモではあえて尖った、先進的な環境を作り、次世代の教育が可能になる環境を知っていただきたかった」と担当者は言う。

インテルNUC(ナック)

GIGA後を見据えた教室空間を提示
 将来的には、学校においても、一人ひとりのデスクトップ環境をサーバー上に集約して動かし、どのようなPCからでもアクセスできる「VDI(仮想デスクトップ)」の可能性が開けているという。リモートワークの普及で導入する企業が増えているといい、Optane(TM)パーシステント・メモリーを活用したVDIソリューションもインテルの得意とするところだという。これが学校や地域に普及すれば、1人1台という枠も飛び越えて、いつでもどこでも、子どもたちが学べる、豊かな学習環境を構築することも夢ではない。
 1人1台PCの「活用元年」と呼ばれる2021年度は、自治体や学校が、PC利用で「何ができるようになるか」を模索する1年となるだろう。そうした時に、登るべき「山」、目指すべき未来の教室の姿を示すことは、インテルならではの次世代教育支援の形であり、グローバル企業としてのスケール感あふれる教育貢献といえるのだ。

設置PC、モニタ―等

日本の未来を担うデジタル人材育成は学校から
インテルの教員向けICT活用力向上研修 Intel(R) Teachプログラム

インテルが世界規模で展開する教員向け研修です
 インテルは20年以上前から、オンライン教育の推進や先生方のICT活用スキル向上のための研修開発と提供に力を入れてきました。Intel(R) Teachプログラムは、児童生徒が自ら考える力を育てる、探求・課題解決を目指した思考支援型授業のための教員研修パッケージです。世界70カ国で1500万人以上の教育関係者が受講、日本でも2001年から4万人の教員と教員養成課程の学生が受講しています。

プロジェクト型学習を想定したICT活用術を学べます
 これからの時代を生きる子どもたちには、コミュニケーションや協働して学習する力、情報活用能力、創造性といった「21世紀型スキル」が不可欠です。Intel(R) Teachプログラムでは、プロジェクト型学習をベースにした探求・課題解決型学習のための授業設計の方法や、指導・評価の方法、効果的なICT活用法を、ワークショップ形式で学べます。採用する自治体や学校の実情に合わせてプログラムをカスタマイズできるのも特徴です。

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