コロナ禍における学校の暑さ対策
10面記事熱中症と感染症両方の対応が求められる学校現場
学校現場では新型コロナウイルスの感染拡大予防として、マスクの着用やこまめな換気など「新しい生活様式」への対応が求められている。また、夏季に向けて子どもを熱中症から守る工夫も併せて求められている。そこで、こうしたコロナ禍の「暑さ対策」に効果的な取り組みや設備機器を紹介する。
外出自粛で教訓になった暑さに体を慣らす大切さ
2020年夏季における東日本の平均気温は、6月と8月ともに統計開始以来1位、東京の猛暑日は最多の11日となるなど記録的な高温だった。その結果、全国の熱中症救急搬送者数は前年に比べ6月は約1・5倍(2185人増)、8月は約1・2倍(6305人増)となった。また、例年よりも屋内での発生件数が多いのが特徴だった。
昨年は新型コロナの感染拡大で外出自粛の期間が長かったことに加えて、7月は東日本や西日本を中心に気温の低い日が続いた。そのため、例年に比べて体を暑さに慣らすこと(暑熱順化)が不十分だった可能性があると考えられる。したがって、本格的に暑くなる前から適度な運動やバランスのよい食事、睡眠をしっかり取るなどして、丈夫な体づくりを心がけることが大切になる。
さらに、感染予防のためにマスクを着用し続けたことも要因の1つと指摘されている。なぜなら、気温が高い中でのマスクの着用は心拍数や呼吸数、血中二酸化炭素濃度、体感温度が上昇するからだ。今年も新型コロナの勢いが続く中で、学校現場ではできるだけマスクを着用し、集団感染を防ぐことが求められている。長時間着用すれば体に熱がこもりやすくなったり、息苦しくなったりして熱中症のリスクがより一層高まることを踏まえ、教員には子どもの健康と安全に配慮した柔軟な対応が必要になる。
夏の学校生活で気をつけること
こうした中、日本気象協会の「熱中症ゼロへ」プロジェクトでは、夏の学校生活における熱中症の予防・対策のポイントを紹介している。まず、校庭など日かげが少ない環境での長時間の活動は控えるとともに、背の低い子どもは地面の照り返し(輻射熱)を受けやすいため、地面からの熱にも注意を払う必要がある。また、プールは水の中にいるため油断しがちだが、運動によって水分が失われるため、こまめな水分補給を忘れないことが大切になる。
風通しの悪い体育館や武道場での運動は、気温がそれほど高くなくても湿度が高い場合には熱中症の危険性が高まる。とりわけ、防具をつける競技を行う場合には注意が必要だ。エアコンが整備されていない教室・特別教室は高温・多湿になりやすいほか、窓際に座っている場合は直射日光の差し込みにも注意することを挙げている。特に、子どもは年齢が低いほど体温調節機能が未熟で発汗量も少ない傾向にあるため、熱中症の要因となる高温多湿な室内の環境にも気を配る必要がある。
一方、登下校中は次のことに注意したい。外出時には通気性の良い衣服や吸水性、速乾性に優れた下着などを着用する。バス停で待っているときや徒歩での移動時は直射日光を避け、こまめに水分を摂ること。帽子や日傘、クールネックなどの暑さ対策グッズを上手に利用し、体を冷やすことも効果的だ。また、学校や自宅に着いてから熱中症の症状が出る場合もあるため、周囲の大人が子どもの様子を確認し、熱中症の症状が出ていないか気にかけることも大事だとしている。
スポーツ活動中は水分+塩分補給を
学校の熱中症対策としては、気温、湿度、輻射熱の3つを取り入れた暑さ指標(WBGT)を基準として運動量を制限することなどに留意するとともに、こまめな水分補給が大切になる。そのため、子どもたちに水筒を持参させて休み時間ごとに水分を摂らせたり、夏場でも冷たい水が大量に供給できる冷水機を設置したりして、子どもの水分補給の常習化につなげる学校も多くなっている。
ただし、30分を超えるスポーツ活動中などは水分だけを補給していると、かえって症状を悪化させることもあるので注意する必要がある。高温多湿の環境下で汗を大量にかくと、体内の水分とともに塩分やミネラルも奪われる。そこに水分補給だけを行うと、血液中の塩分・ミネラル濃度が低くなり、さまざまな熱中症の症状が出現してしまうからだ。
したがって、熱中症が疑われるときは、ただ水分を補給するのではなく、塩分(1リットルの水に1~2gの食塩)も一緒に補給することが重要になる。さらに、長時間のスポーツなどで失われた糖分を補い、エネルギーを補給するために砂糖などを加えると、水分や塩分の吸収が良くなり、疲労回復にもつながるので、より効果的なスポーツドリンクや経口補水液を上手に活用したい。なかでも、経口補水液は身体が失った体液を補う水として、軽度から中等度までの脱水症への使用に効果があり、点滴治療よりも安全かつ簡便に扱えるメリットがある。そのため、近年では保健室や運動部の部室などへの常備が進んでいる。
熱中症対策と同時に換気対策も重要
学校現場では、このような熱中症予防の基本的な対策を講じると同時に、昨年に引き続きコロナ禍の感染症対策にも取り組む必要がある。具体的には「3つの密」を避ける、「人との間隔が十分とれない場合のマスクの着用」及び「手洗いなどの手指衛生」といった「新しい生活様式」を導入しつつ授業や部活動を継続し、子どもの健やかな学びを保障していくことが求められている。
たとえば、熱中症予防となる教室のエアコン使用では窓開放によって定期的に換気して「密閉」を防ぐことが大事になるが、それによって室内温度が上昇してしまうため、エアコンの設定温度もこまめに変える配慮が必要になる。最近の教室はエアコンと併せて換気設備も整備している学校もあるが、教員が意識して併用しているケースは意外と少なく、せっかくの機能が生かされていないことも多い。
また、学校管理下における熱中症事故の多くは運動部活動で起きているが、そのほとんどが体育の授業でなく、部活動中のものである。夏休み期間も含めて、もっとも熱中症が発生しやすい時期に運動部活動が積極的に行われる傾向にあるからだ。
そうした点でもエアコンが設置されていない体育館では、熱中症対策として大型扇風機や水の気化熱を利用した大型冷風扇、スポットクーラーなどを導入している学校が多くなっている。これらの機器は換気対策としても効果的なため、それほど気温が高くないときでも意識して活用することを心がけたい。特に風通しが悪く、熱気がこもりやすい構造の体育館では、たとえエアコンが整備されていても換気対策として活用することが重要といえる。
気象データやIoTを活用した事前予防
学校管理下の熱中症対策における課題は、多数の子どもを目視で察知することは難しいこと。また、熱中症になった本人も自覚症状がないまま体調を崩してしまうことが多いため、事前予防に課題があることが挙げられる。したがって、その日の気象条件をデータ等で目に見える形で掲示し、注意喚起に充てることが効果的といえる。
環境省と気象庁は昨年6月に、国民への熱中症予防行動を効果的に促すため、関東甲信越地方の1都8県で「熱中症警戒アラート」を試行として実施したが、今年は全国で本格運用する予定だ。アラートは各都県内の翌日の日最高「暑さ指数」が33度以上と予想される場合、17時頃に「第1号」として発表されるため、学校現場でもこれを参考にして翌日のスポーツ活動等を調整することができる。
また、近年は無線式の熱中症指標計を校庭と体育館に設置し、運動部活動時の環境条件を職員室からモニターする、リストバンド型のウエアラブル端末で運動中の子どもの心拍数等を計測する、室内の二酸化炭素濃度を計測できる機器で環境条件を常に把握するといったIoTを活用した暑熱対策も注目されている。