スクールソーシャルワーカーの役割。児童・生徒の問題解決に必要なこととは
トレンドいじめや暴力行為、問題行動を起こす児童・生徒の背景には、心の問題だけでなく、家庭や生活環境もかかわっていると考えられます。
そういった複雑に絡まる問題の解決を学校のみで目指すのは容易なことではありません。子どもたちの環境と直接関わり合いながら問題の解決を目指すスクールソーシャルワーカーが担う役割についての理解が必要です。
ここでは、スクールソーシャルワーカーの役割や配置の目的、学校に求められることなどを、活動事例とともに紹介します。
スクールソーシャルワーカー(SSW)とは
スクールソーシャルワーカーとは、問題を抱える児童・生徒を取り巻く環境へ働きかけたり、関係機関等との連携・調整を行ったりする人を指します。
スクールソーシャルワーカーに該当する人物例
・社会福祉士や精神保健福祉士等の資格
・教育と福祉の両面に関して専門的な知識・技術を有する人
・過去に教育や福祉の分野において活動経験の実績等がある人
スクールソーシャルワークの取り組みの背景には、第二次世界大戦後のアメリカで子どもたちが教育を受けることができるよう支援する訪問教師の活動があげられます。現在は、アメリカやカナダ、北欧諸国・東欧諸国などで取り入れられています。
日本では、昭和56年に埼玉県所沢市でスクールソーシャルワークを明確に打ち出した取り組みが初めてです。その後、平成20年に文部科学省はスクールソーシャルワーカー(SSW)活用事業を導入しました。
スクールソーシャルワーカー活用事業導入のねらいとスクールカウンセラーとの違い
スクールソーシャルワーカー活用事業導入の大きなねらいは、児童・生徒一人ひとりの生活の質(QOL)の向上と、それを支える学校や地域をつくることです。その達成には、教育現場ならびに家庭環境の安心・安全の向上が欠かせません。
児童・生徒の抱える悩みや問題を解決する役割を持つ意味で、スクールソーシャルワーカーとスクールカウンセラーは混同されがちですが、両者は似て非なるものであり、それぞれに専門性を有する役割を持っています。
たとえば、スクールソーシャルワーカーが家庭や学校、友人、地域社会など、児童・生徒を取り巻く環境への働きかけによって問題の解決を目指すのに対して、スクールカウンセラーは、心の専門家として主に児童・生徒の心の問題を解決するために配置されています。
スクールソーシャルワーカーとスクールカウンセラーが互いの専門性の違いや機能について理解し、役割を分担しながら課題解決に取り組むことが大切です。
スクールソーシャルワーカーの役割
スクールソーシャルワーカーの役割は、大きく直接的支援と間接的支援に分けられます。
直接的支援では、児童・生徒や家庭への訪問、自ら関係機関と児童・生徒の家庭をつなぐといった援助を行います。一方、間接的支援で行うのは学校に対する支援体制づくりや専門的な助言、関係機関等との連携の仲介などです。
取り組み例
・問題を抱える児童生徒が置かれた環境への働きかけ
・関係機関等とのネットワークの構築、連携・調整
・学校内におけるチーム体制の構築、支援
・保護者、教職員等に対する支援・相談・情報提供
・教職員等への研修活動等
スクールソーシャルワーカーの体制づくりと活動事例
スクールソーシャルワーカーを効果的に機能させるためには、スクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラー、養護教諭の持つ役割の明確化、そして教職員の理解が重要です。
文部科学省は、令和元年に同年度のスクールソーシャルワーカーの実践活動事例集を公開しました。この事例集では貧困対策や児童虐待、いじめなど9つの分野に分類して活動内容を紹介しています。ここでは、学校側で必要となる体制づくり、さらに宮城県教育委員会の事例を見てみましょう。
学校における体制づくり
学校にスクールソーシャルワーカーを配置するにあたって、避けなければならないのが問題の解決の全てをスクールソーシャルワーカーに委ねてしまうことです。
そのために、スクールソーシャルワーカーの専門性や役割、配置するねらいについて全ての教員が理解すること、そして学校長の指揮のもとケース会議を日常的に行うといった教育相談体制を整備・充実させることが求められます。
さらに、管理職の職員とスクールソーシャルワーカーは、学校が抱える課題を洗い出し、協働ビジョンを作成、生徒指導主事や養護教諭、教育支援コーディネーターの役割を明確化することも重要です。
宮城県教育委員会の活動事例と課題
宮城県教育委員会では、県教育委員会や希望する県立高等学校などに配置し、スクールソーシャルワーカーを配置しました。
生徒の一人は、家庭内暴力の影響で精神的に不安定な母親による過剰なしつけを受け、引きこもりや家出、暴れるなどの行動を繰り返していました。
スクールソーシャルワーカーが問題の解決を目指し、当該生徒の母親のもとを繰り返し訪問して面談を行い、警察や児童相談所と連携して父親へ介入。その後、スクールソーシャルワーカーと学級担任が月1で家庭訪問を実施したところ、家庭でのかかわりに変化が見られ、当該生徒の生活リズムが改善。学習意欲につながり、別室登校を始めました。
スクールソーシャルワーカーの働きかけによる成果が見られ、スクールソーシャルワーカーへの期待が高まる一方で、環境が複雑化・多様化することにより支援が難しいケースが増えているという課題も残されています。今後、スクールソーシャルワーカーの人材確保や育成、さらなる資質向上が必要となることはいうまでもありません。
スクールソーシャルワーカーの役割を理解したうえでの連携が必要
近年、子どもたちを取り巻く環境が多様化するとともに、一人ひとりが抱える問題も複雑化しています。問題の解決には子どもたちの心と悩みに加え、家庭や友人関係を含めた環境へのアプローチが求められます。
同時に、スクールソーシャルワーカーに児童・生徒の問題を全て委ねるのではなく、学校や関係機関との協力によって問題の解決を目指すことを忘れてはなりません。スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラー、養護教諭が担う役割を明確化し、それぞれの強みを活かしながら協働して問題解決に取り組むことが重要です。