35人学級、中学校でも実現目指す 萩生田 光一 文科相インタビュー(動画あり)
3面記事萩生田光一文科相が1月、日本教育新聞の取材に応じた。来年度から段階的に進める少人数学級や1人1台の情報端末を活用した「個別最適な学び」の実現などについて話を聞いた。少人数学級化を巡り、萩生田氏は、中学校でも小学校と同様に35人学級としていきたい考えを示した。
教職の魅力高めて人材確保へ
―小学校の35人学級を制度化するため、義務標準法を改正する考えを示しました。来年度から5年かけて実施する計画です。財源をどう確保するのか、現在の加配定数に影響は出ないか、そして優秀な教師をいかに確保するかを教えてください。
「現在、自治体独自の少人数学級を実施するために、小学3~6年までの35人学級に活用されている加配定数3千人程度を段階的に財源として振り替えていきます。それ以外の加配定数については、5年間における児童・生徒数の減少などに伴う教職員定数の減を考慮し、毎年度の予算編成過程で検討することにしていますが、必要な加配定数は引き続き確保していきます」
「教師の確保については、学校の働き方改革を進めて教職の魅力向上を図り、教職志願者を増やしたいと考えています。また民間企業経験者など外部人材の積極的な活用を教育委員会に促しています。教師の数と質の両立のため、中央教育審議会では免許更新制や研修制度の包括的な検証に取り組んでいます。教職課程を取っている学生は多くいますが、学校は大変な職場だというイメージが染みついてしまっています。働き方改革、ICTの活用、35人学級など、環境をトータルで変えて、教職の魅力を改めて高めたいと考えています」
―中学校の少人数体制について、その必要性や学級規模についてはどのように考えていますか。
「中学校でも少人数学級の必要性は変わりません。小学校の35人学級を中学校にも続けていきたいというのが現段階の思いです。何人がふさわしいのかということを言うのは難しいのですが、1クラスの人数が少ない方が手厚い対応はできます。少人数学級の効果に対するエビデンス(科学的根拠)を求める声がありましたが、少人数学級や少人数指導の加配定数を活用している自治体で、この加配定数を返した例はありません。現場では肌感覚で効果を実感しているはずです」
―GIGAスクール構想が前倒しで実施されますが、教師のICT活用指導力を今後どう高めていきますか。また、教師の端末整備など、学校のデジタル化の必要性をどう感じますか。
「GIGAスクール構想を実現するには、教師がICTを活用して指導する力を身に付けることと、それを支える体制をつくることが必要です。文科省は教職員支援機構と連携して、各地域での指導者養成研修を実施したり、ICTを効果的に活用するための参考資料や解説動画を作ったりしています。今後も全国の教育委員会や学校の参考となるような情報を発信していきます。世間にはGIGAスクールに対する過大な期待があるように思いますが、今年がICT元年です。先頭を駆け抜けていくようなことを全ての学校でいきなり行おうとするより、スモールステップで着実に進んでいこうと呼び掛けていきます。もちろん一方で好事例は、どんどん横展開をしていきたいと思います。オンラインでつながる時代なので、全国の上手な授業を遠隔で見られるような仕組みがあったらよいのではないかと考えています」
「教師の端末整備について、児童・生徒が1人1台の環境の下で学習を行うためには教師の使用する端末は不可欠です。教師用の端末は学校設置者が地方財政措置や私学助成の財源を使って整備していて、公立小・中学校では7割まできています。教師の端末整備は後回し、というわけにはいきません。全国で整備していただきたいと考えていますし、必要であれば追加の支援も考えていきたいと思います」
個別最適な学び ICT活用の好事例 共有を
―文科省が目指す「個別最適な学び」を進めるに当たってICT活用とともに指導体制の改善も必要です。小学校での教科担任制をどのように推進しますか。
「教科担任制については、中教審で令和4年度をめどに本格的に導入することが示されています。現在は新たに専科指導の対象とする教科や学校規模、地理的条件に応じた教職員配置の在り方など、専門的・技術的な検討をしているところです。教科担任制は持ちコマ数の軽減により一日の中で空き時間ができて、授業準備がしやすくなるなどのメリットがあり、極めて有効な手段です。教職の魅力向上のためにもぜひ進めていきたいと思います」
―中教審で提言された義務教育段階での履修主義と修得主義の組み合わせについては具体的にどのように進めますか。
「中教審では義務教育段階で原級留置を行うことは今後も難しいとされていますが、それぞれの長所を取り入れた教育課程を目指す方向性が示されているところです。多様な子どもたちを誰一人取り残すことなく、全ての子どもの可能性を引き出す個別最適な学びと協働的な学びを実現できるように取り組みます」
―日本は年齢主義・学年制の仕組みの中で、一人一人の能力に応じた教育が進められませんでした。
「学習が遅れている子の進度に合わせるだけの授業をして、先を進む子どもたちが勉強する意欲をなくすようなことがあってはいけません。一方で学習が遅れている子をそのまま置いていくわけにもいきません。これまでは、真ん中を取って集団的に指導するスタイルでした。しかし、ICTを活用することで、授業時間内に先に進める子にはさらなる内容を見ておいてもらい、遅れそうな子にはフォローするといったことが、同じ教室内でできるようになる。つまり一律の学びではなく、オーダーメードの教育が公教育の場でも十分できると思っています。そのためには教師のマインドを変えていただいて、子どもたちの学ぶ意欲をさらに高めるようにしていただくことが大切です。ただ、大人数を担当する先生方のご苦労も理解しています。そこは、ICTを活用して全国的に好事例の横展開を行い、それを共有することで、日本中の授業の質を上げていければと思っています」
―大学入試改革を巡っては、検討会議で英語民間試験の活用や記述式問題の導入をどうするのかが議論されています。どのように議論を聞いていますか。
「それについては私なりの考えもありますが、あらかじめ方向付けをすることになってはいけないので言及するのは控えます。ただ、英語4技能試験を取りやめ、記述式問題の導入も一度中断し、見直しをしているわけですが、昨年末に公表した大学へのアンケート結果を見ると、いずれも『必要性は共有しているが、やらない、できない』といった回答が目立ちました。大学は自らのアドミッション・ポリシーに照らして、個別試験の中でしっかり見極めてもらうことが大事だと思います。また対面授業ではなく、オンライン授業にこれだけこだわるのであれば、主体性の評価についても、オンラインで面接を実施してはいかがでしょうか。対面と違って時間を自由に選べるのですから」
―コロナ禍でも学校は続いています。現場に立つ教師にメッセージはありますか。
「子どもたちの学びを守っている先生たちにまずは感謝を申し上げます。緊急事態宣言が各地に出ていますが、昨年の経験を踏まえ、今回は文科省から学校の一斉休業を求めることはしませんでした。感染拡大区域では設置者の判断を尊重したいと思いますが、子どもの学びを止めないというのは極めて重要なミッションです。多くの若い人が教師を目指す、そんな憧れの職業であるために学校の環境を変えていきたいと思います」