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複数免許の取得でキャリアアップを~働きながら学べる大学通信教育で~

12面記事

企画特集

 9年間を通じた教育課程の編成で教育の質向上を図る小中一貫校へのシフトや、子どもの学びを深める専科教員の拡充が進む中で、異なる学校種や複数免許を取得している教員のニーズが高まっている。その中で、こうした時代の要請に応え、教員自らのスキルアップを実現する場として期待されているのが、働きながら多様な教科・校種の免許を無理なく取得できる「大学通信教育」や「通信制大学院」だ。

通信制教育で取得できる免許状
 働きながら学べる大学通信教育は、現在、44大学、27大学院、11短期大学が門戸を開放しており、全国でおよそ24万人がそれぞれの学習動機に合わせて学んでいる。通信教育課程で取得できる教員免許は普通免許状で、小、中、高、特別支援学校、幼稚園教諭、養護教諭、栄養教諭の免許状があり、それぞれ専修、1種、2種に分かれている。免許状取得の代表的なものとしては、

 (1) 新たに教員免許状を取得する場合
 (2) 現在持っている免許状を上位の免許状に上進させる場合
 (3) 現在持っている免許状を基にして同校種の他の教科の免許状を取得する場合
 (4) 教職経験を有する者が隣接校種免許状を取得する場合

 ―の4つがある。
 学習方法は印刷教材による授業が中心で、大学から送付されたテキストなどで学習し、与えられた課題に沿って学習成果をリポートして添削指導と評価を受ける。また、足りない部分を面接授業(スクーリング)や放送授業、インターネットなどを活用したメディア授業で補うとともに、学習指導(教育・学習上の指導)が行われるのが特色で、これらの学びを通して科目ごとの試験に合格することで、単位を取得できる仕組みだ。

より幅広い知識、高い専門性が求められる中で
 こうした中、大学通信教育では、現職の教員が異なる学校種や複数免許の取得を目指して受講するケースが増えている。その理由としては、Society5・0時代を生き抜く人材を育成するためには、より一層各教科の特性に応じた授業改善が不可欠になっており、教員には豊かな知識や識見、高い専門性を備えた指導力などの向上が求められていることが挙げられる。
 また、そのための対応として、文部科学省では義務教育期間の系統性を確保する小中一貫校の設置を推進することで、個々の特性に応じた指導や資質・能力を最大限に伸ばすことを目指している。加えて、新学習指導要領でも、校種間の円滑な接続・連携の観点が特に重視され改善が図られており、この趣旨を十分に踏まえつつ小・中学校は9年間を見通した教育課程を編成する必要があるとしている。
 すなわち、これからの教員には「教科の専門性を持った小学校教員」や「小学校教育を熟知した中学校教員」の養成が求められているのだ。したがって、文部科学省では小・中学校の両免許取得の推奨、人事異動による小・中学校教職員の交流促進、教職員の兼務発令、専科教員の加配措置などについて力を入れていくことを示唆している。

大学でも進む複数免許の取得
 このような状況から、教員が幅広い知識や専門性を高める手段として複数免許を取得することが期待されているのであり、それは今後の学校教育のあり方を見通せば、自分自身のキャリアアップにとっても有利に働くことになる。
 事実、こうした複数免許取得の流れは教育学部を持つ大学にも表れており、在学中に複数免許を取得できる制度を設けるところが増えている。千葉大学教育学部は2019年度から5つあった教員養成課程を一本化し、学生に複数の校種や教科の免許取得を促している。たとえば、小中専門教科コースや英語教育コースでは、小学校と中学校の両方の教諭免許状を取得することが卒業要件だ。
 また、大分大学教育学部は今年度から、小学校教育コースを初等中等教育コースに改組。小学校の教員免許に加え、学校種を越えて幼稚園または中学校の教員免許も取得することを卒業要件とした。
 すでに自治体によっては複数免許を取得している志願者には加点を行っているケースもあるなど、小・中両校種の免許を取得していたり、専門科目の免許を取得していたりする方が学校にとっては柔軟な編成がしやすくなり、免許外教科担任を解消することにもつながることから、採用に向けては有利な条件の1つになるからだ。

小学校の教科担任制も視野に
 さらに、文部科学省では2022年度から、教科指導の専門性を高めるため、小学校5~6年で教科担任制が本格導入される見込みだ。そうなれば、理科や英語、算数などより専門性の高い技能を持った教員が優遇されることになるだろう。質の高い授業を実現して子どもの学力を向上するためには、専科教員の加配は今後の学校教育においては避けて通れないものであるとともに、新教育課程で授業時数が増加する中での教員の効率的な配置や、働き方改革を円滑に進める上でも不可欠といえる。
 また、アクティブ・ラーニングの視点から学習・指導方法を改善していく力が求められている中で、幅広い知識の習得や校種を跨いだ経験は教員を成長させる大きな力となる。その意味でも、小中の連携や交流を積極的に行っていく必要があり、こうしたニーズに応える教員が望まれることになる。だからこそ、教員のスキルアップとして、大学通信教育を利用した異なる学校種や複数免許の取得が注目されているのだ。

高校「情報科」専任教員が足りない
 もう1つ、大学通信教育による複数免許取得が期待されている背景には、そもそも中学校・高等学校の技術科や情報科のような特定教科の免許状を保有する教員が足りていないという現状がある。特に2003年に新設された高等学校の情報科は、必修科目であるにもかかわらず専任教員を配置している学校が極めて少なく、「免許外教科担任」を充てているところが大半だ。
 この理由としては、主要教科に比べると単位数が少なく、一般的な公立校では情報科の専任教員を配置するのが難しいこと。また、教員採用試験においても、情報科に限っては「情報」に加えて「数学」や「理科」など他教科の免許所持も要件となっている教育委員会が多いことから、敷居が高いことが伺える。
 高等学校では2022年から始まる新学習指導要領で、教科「情報」を「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」に再編し、全員がプログラミングを学ぶことになるため、教育の質を確保するためにも切実な課題になる。そのための対策の1つが、教員の教職経験を考慮した免許状併有の促進だ。
 ある学校に一定年数以上の勤務経験のある教員が、他の学校種の普通免許状を取得しようとする場合、勤務経験年数を考慮して軽減された単位数で普通免許状を取得することが可能となっている。その場合に必要な単位は大学における通常の講義のみならず、大学や教育委員会等が文部科学大臣の認定を受けて開設する講習や公開講座においても取得可能とされている。すなわち、大学通信教育はこうした教員を要請する受け皿としても期待されているのだ。

これからの教員に必要な「学び続ける力」
先端技術を活用し、個別に最適化された教育を実現するために

「学びのあり方の変革」への対応が課題
 これからの学校教育の課題は、IoTやAI技術の進展によって社会構造が大きく変化する中でも力強く生き抜いていける力を育んでいくことにある。とりわけ、さまざまな分野においてAIやデータの力を最大限活用し展開できる人材を育成する必要があるが、日本の多くの学生は十分な情報科学のトレーニングを受けられていないのが実態だ。したがって、学生が情報科学の素養を身につけるための受皿となる情報科学系教育体制の充実は喫緊の課題である。
 また、そうした意味では、これからの教員も新しい時代に対応して学び続ける力を持たなければならない。学校のEdTech活用が進んでエビデンスに基づいた教育が進めば、子どもたちだけでなく、自身の指導・評価も他教員との比較がはっきりと数値化されるようになるからだ。すなわち、教員免許を持っていれば教員として安心していられる時代ではなくなる。
 だからこそ、教員には「学びのあり方の変革」に向けて先端技術を駆使し、自らの指導力をアップデートしていくことが求められるようになる。具体的には、スタディ・ログを学びのポートフォリオとして活用し、1人ひとりの能力や適性に応じて個別最適化された学びを実現する力を身につける必要がある。

教員養成のためのフラッグシップ大学創設も
 それゆえ、文部科学省では小中高を通じてデータ・サイエンスや統計教育を充実するため、小学校高学年における専科教員の配置など学校の指導体制を確立すること。加えて、中学校・高等学校でも技術科、情報科など特定教科免許状を保有する教員が少ないことを踏まえ、複数の校種、教科の免許状取得を弾力化すること、経験年数や専門分野などに応じ特定教科の免許状を弾力的に取得できるようにするなどの免許制度の見直しを図っている。
 さらに、教員養成においても、産業界と連携したSociety5・0に対応した人材を育成するフラッグシップ大学を創設し、STEAM教育や、児童生徒がICTを道具として活用することを前提とした高い指導力を有する教員の育成を進めていく意向だ。

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