キー・コンピテンシーの定義と学校での育成におけるポイント
トレンド学校教育では育成しなければならない資質や能力はさまざまありますが、なかでも「キー・コンピテンシー」という言葉をよく耳にする教育関係者の方も多いのではないでしょうか。
キー・コンピテンシーは効果的な学習指導案の作成において非常に重要です。今回はOECDが提言するキー・コンピテンシーの定義や世界の教育改革の潮流、国内の学校での取り組みを例に育成のポイントを紹介します。
キー・コンピテンシーの定義と3つのカテゴリー、9つの能力
キー・コンピテンシーはOECD(経済協力開発機構)が行う国際学力調査(PISA)の枠組みの基本です。文部科学省ではこのキー・コンピテンシーを3つのカテゴリーに分け、さらに9つの能力に分類しました。
1.社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力
A 言語、シンボル、テクストを相互作用的に活用する能力
B 知識や情報を相互作用的に活用する能力
C テクノロジーを相互作用的に活用する能力
2.多様な社会グループにおける人間関係形成能力
A 他人と円滑に人間関係を構築する能力
B 協調する能力
C 利害の対立を御し、解決する能力
3.自律的に行動する能力
A 大局的に行動する能力
B 人生設計や個人の計画を作り実行する能力
C 権利、利害、責任、限界、ニーズを表明する能力
出典:「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ 補足資料」
思慮深く考える力が核に
コンピテンシーとは、日本語で資質や能力を指します。能力といっても単なる知識や技能だけではありません。技能や態度を含む、さまざまなリソースを活用しながら複雑な要求に対応し、グローバル化や近代化により多様化する世界を生き抜く実践的な能力です。
大きく3つのカテゴリーに分類されるキー・コンピテンシーですが、それらの核となっているのは「思慮深く考える力」です。思慮深く考えるには特定の方法を反復継続的に当てはめる力だけでなく、変化に対応したり、批判的な立場で考えたり、行動する力が求められます。
世界における教育の潮流と日本の学習指導要領の見直し
近年、世界的な潮流としてあるのが必要な教育の在り方に対して、はじめから育成すべき能力を定義しておく流れです。OECDのキー・コンピテンシーは、その概念がPISA学習到達度調査に取り入れられていることから世界の教育シーンに大きな影響を与えています。
また、キー・コンピテンシー以外にもアメリカを中心とした21世紀型スキルやイギリスのキー・スキル、オーストラリアの汎用的能力など、各国が育成すべき能力を明確にしています。
もちろん日本の教育も例外ではありません。文部科学省は比較的早い時期に、幼児教育・義務教育・高校教育にかかわる理念として「生きる力」を学習指導要領に提示しています。生きる力の考え方はキー・コンピテンシーと重なる部分もありますが、より効果的な教育課程へ改善するためには学習指導要領の見直しや改善が欠かせません。
コンピテンシーの育成ポイント
これからの時代を生き抜くために子どもたちに必要とされるコンピテンシーは、学校教育においてどのように育成すれば良いのでしょうか。
たとえば、東京学芸大学ではキー・コンピテンシーを育成するために、教科指導のコンピテンシー要素を明らかにしたうえで指導案を工夫するという取り組みが行われています。
また、既に国内の学校教育で行われている取り組みを見直してみることも育成のヒントになるはずです。実際に日本の学校教育における総合的な学習の時間で育成を目指す「個別の知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「人間性や学びに向かう力等」といった能力や態度、視点はOECDのキー・コンピテンシーと一致しています。
意図した学習指導案の作成と教員同士の協力がカギに
コンピテンシーの育成において重要となるのは育みたい能力を明確化することです。
東京学芸大学では、問題解決力や伝える力、メタ認知力などの「汎用的能力」、協力する心やより良い社会への意識、向上心といった「態度・価値」の2グループにカテゴリー分け、相互関係を整理することで各教科の位置付けや意義を明確化しました。
各教科で育成可能なスキルや教科同士の影響力を考慮したうえで学習指導案を作成し、教員同士が協力しながらさまざまな教科において複数のコンピテンシー育成を目指すことが重要です。
広島県立広高等学校の取り組み
コンピテンシーの育成は教員だけが頑張れば良いというものではありません。
広島県立広高等学校では、学校全体でコンピテンシーの育成を目指したシステム構築と運用が行われており、校長を中心として育成・評価の委員会が運営を行っています。教科を超えた教員同士の授業参観や評価が行われていることも特徴の一つです。
授業参観では、核となる知識・技能・態度を明記した全教科共通の簡易指導案をもとに評価や改善点の指摘を行うなど、各教科の授業がより主体的かつ、協同的な深い学びになるような取り組みが行われています。
さらに、学期ごとに全生徒を対象として行われる「コンピテンシー活用自己評価」は、授業や総合的な学習の時間で活用したコンピテンシーの定着度を生徒自身が評価するというものです。教員だけでなく生徒を巻き込んだ育成方法は参考にすべき取り組みといえます。
必要な能力を整理してコンピテンシーの育成を目指す
グローバル化や近代化が進むなか、必要な能力を明確にし、カリキュラムや指導方法、評価方法の在り方を決めるのが世界の教育改革の流れです。
しかし生きる力や人間力、自ら学ぶ力など育成すべき能力や視点が多様化し、教育を行ううえで混乱しやすくなっていることも事実といえます。
各自治体や学校で必要と考える能力を明確かつ具体的に提示し、それらに基づいた学習指導案を作成することで授業の目的や指導・評価の方法がよりクリアになり、学校での効果的なコンピテンシーの育成につながるのではないでしょうか。