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小さな地域と小さな学校 離島、廃校、移住者受け入れから考える

16面記事

書評

中島 勝住・中島 智子 編著
学校の存続と向き合う地域を丁寧に描写

 「小さな地域」や「小さな学校」からノスタルジックな原風景のイメージが喚起されるかもしれない。だが、それらは歴史的、文化的、そしてきわめて政治的な概念でもある。「小さな地域」の多くは昭和の大合併までは独立した村であり、小学校はこの行政村のもとで、一定の権威と位置を獲得していた。
 新制中学校を設置する単位とされた昭和の基礎自治体もまた平成の大合併で再々編され、独自の文化や歴史を持つ集落や地域はさらに翻弄されることになった。
 少子化により子どもが見えなくなった、声が聞こえなくなっただけでなく、学校の統廃合による「学校の喪失」で、子どもが遠くなった、分からなくなったという地域。執筆者たちは、こうした地域に足しげく通い、地域の物語を丁寧に紡いでいる。始まりは偶然ということだが、まったく異なる3事例が日本の中山間地や離島・へき地の地域や学校が置かれている現状を典型的に描写している。
 他方、学校の側から、こうした地域がどのように見えているのか、学校と地域の<距離>の検討など教育学的な分析も面白い。
 補論として韓国の事例も取り上げている。「小さな学校」を標榜する教育連帯は政府の統廃合政策に対峙するカウンター的な住民運動であり、理想の地域づくりを希求する教職員のネットワークの存在は日本の教育界には刺激的・示唆的である。
(2970円 明石書店)
(元兼 正浩・九州大学大学院教授)

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