「共通テスト」いよいよ本番へ 第7回 夏の教育セミナー報告
10面記事初のオンライン、受講しやすく
大学入学共通テストの開始まで半年を切る中、日本教育新聞社とナガセが主催する「夏の教育セミナー」が今年はオンラインで開かれた。過去最多の全国25大学の担当者がアドミッションポリシー(入学者受け入れ方針)や、入試の変更点について講演。その充実した発表内容の中から、紙面では入試の変更点を中心に紹介する。また、各教科の授業実践を指導経験豊富な教員が発表した。視聴期間は8月10~16日の予定を、好評により23日まで延長。約8千人の高校教員らが視聴した。
4技能活用・記述式 来夏までに結論
前田 幸宣 文科省高等教育局大学振興課大学入試室長
文科省からは前田幸宣・大学入試室長が講演し、新型コロナウイルスの影響を踏まえた令和3年度入学者選抜の変更点を解説。新学習指導要領に対応した大学入試に向けてのスケジュールも説明した。入試改革が暗礁に乗り上げ、高校現場に不安感が広がる中、講演後には参加者から事前に寄せられた疑問に丹念に回答した。
大学入学共通テストの実施日程や配慮事項は、文科省が入学者選抜実施要項で定める。6月19日付で通知した実施要項では、来年の共通テストは予定通り1月16、17日に実施するが、追試を例年より1週間遅い1月30、31日に実施することにした。また、高校の臨時休業で学習に遅れのある受験生は、出願時に追試を選択できるようにした。
これまでの追試は2会場に限られていたが、来年は会場を47都道府県に設置し、多くの受験生が受けられるようにする。さらに新型コロナウイルスに感染した場合など、病気を理由にした「特例追試」を2月13、14日に設けた。
追試の在り方を巡っては「試験の難易度を調整できるのか」「2週間後の実施で学習の遅れに配慮したといえるのか」などと厳しい指摘も上がっている。講演の中で前田室長は、共通テストを今回の日程に決めた理由を説明。毎年開いている高校・大学の関係者による協議が背景にあったと話した。
全国高等学校長協会が実施したアンケートでは、共通テストについて「予定通りの実施」を7割の高校が求めていたが、3割は「後ろ倒し」を希望した。そのうち、遅らせる期間については最も多い6割が「2週間程度」だったことを踏まえて決定したと説明した。
各試験日の受験規模については、文科省が受験生に実施した意向調査によると、約43万人(93%)が当初の予定通りの1月16、17日を選んだ。前田室長は、申し込み者数に応じて高校会場の提供が必要になった場合、教育委員会などに依頼することになると協力を求めた。
休校による学習の遅れに配慮して要請している出題範囲についても説明した。共通テストで利用する科目で2科目指定を1科目に減らすことや、指定した科目以外への変更を認めるよう各大学に要請した。各大学の出題範囲などの配慮状況は、文科省のホームページで公表している。
寄せられた質問には来年より後の入試改革に関する内容が目立った。
英語4技能試験や記述式問題の導入について結論の時期を尋ねた質問に「当初、年内をめどに会議をしてきたが、ポストコロナの在り方を検討する声も上がっている」などとして延期を示唆。「新学習指導要領を踏まえた令和6年度の試験には検討結果を反映させる必要がある」として、遅くても来年夏には結論を得る必要があると述べた。
主体性の評価についての質問もあった。文科省は、債務超過を理由に「ジャパンe―ポートフォリオ」(JeP)を開発した教育情報管理機構の運営許可を停止することを決めた。ただ、前田室長は「JePの取り消しと主体性評価をやめることとは別の話だ」として、大学が独自に活用している主体性評価の仕組みを支援する考えを示した。
全国25大学が多彩な入試改革を解説
総合力重視、面接や論述も
一般選抜
来年から始まる大学入学共通テストを機に、各大学では一般選抜を大きく見直す動きが出ている。
「入試のやり方を変えることで、大学の中身を変えていく。入学者のトータルな心意気を変えることに挑戦する」
講演の中でそう強調したのは金沢大学の青木健一副学長だ。
国際社会の中核的リーダーとなって困難に立ち向かう能力を育成する。そうした独自のスタンダードをアドミッションポリシーに掲げる金沢大学。後期試験を廃止し、第1志望の受験生をより多く受け入れるようにする。
また学類ごとで「総合問題」など新しい受験科目を課し、文系型でも数学を新たに必修にすることで、「総合力」のある学生を求める方針を打ち出した。
早稲田大学は、共通テストと学部の独自試験を2本柱にした選抜を取り入れる。政治経済、国際教養、スポーツ科学では従来の「3教科方式」を取りやめ、共通テストと独自試験の合計で選抜する。独自試験は、日本語と英語の長文に答える記述式を含んだ問題で、論理的思考力を評価する。
また、政治経済学部では共通テストの数学受験を必須にし、経済学を学ぶために必要な能力を測る。英語4技能テストの利用も広げ、国際教養学部や商学部では加点方式を導入する。
大学独自の英語の試験の出題をやめるのは立教大学。文学部の一部日程を除き、共通テストか民間試験を合否判定に利用する。試験日程を増やし、受験機会も拡大する。これまでは一学部2回までだったが、文学部で6回、その他文系学部で5回まで増やす。
国立大学の変更は全体的に一部にとどまる。
名古屋大学は、医学部の前期日程の学力試験で出題範囲を変更する。受験生に総合的な学力を求めるために理系学部にも国語を出題してきたが、来年の入試、医学科で国語総合・現代文Bから古文・漢文を除外する。保健学科では新たに国語総合・現代文B(古文・漢文は除く)を課す。
また医学科のみで実施している後期日程では共通テストへの変更に伴い、従来行ってきたセンター試験の得点との2段階選抜を廃止する。学力検査ではなく英語の課題に基づく面接で選抜する。
埼玉大学は理学部を中心に試験を見直す。基礎科学科と分子生物学科の前期日程で総合問題を廃止。分子生物学科では新たに面接試験を行う。生体制御学科の後期日程では個別試験の理科を廃止し、小論文を課す。
国内の大学で初めて学部と大学院を統一し、学士課程と大学院課程の教育を継ぎ目なしに一体化した東京工業大学。受験生には、科学技術への好奇心や探究心と社会に貢献する志を求めてきた。来年度入試の変更として生命理工学院で実施していた後期日程を廃止し、一般選抜を前期日程に一本化する。第1段階選抜はこれまで、大学入試センター試験に基準点を設けて選抜してきたが、今回は志願者数が一定数を超えた場合に、共通テストの成績で選抜するとした。引き続き、合否判定は個別試験だけで行う。
一橋大学では各学部で配点の比重は異なるが、これまで通り個別学力検査の入試科目とする英語、数学、国語、社会の総合力を見る。論述問題を多く出題するのも特徴だ。アドミッションポリシーなどを基に「社会に関する関心と責任感を持って解決すべき課題を自ら設定する」などとする人材像を掲げる。講演した三隅隆司学長補佐は「高校時代に幅広く、しっかり学んだ勤勉さが重要。共通テストによる一定の知識を前提とした上で、論述を出題することに意義がある」と試験の意図を説明した。
文科省が進める主体性の評価と歩調を合わせるような動きも出ている。慶應義塾大学や早稲田大学、明治大学、法政大学などではウェブ出願時、受験生に500字以下で「主体性」に関する経験などの記入を求める。合否判定に利用しないながらも、今後の活用を探る見通しだ。
英語の配点に独自色
共通テスト利用
大学入学共通テストの利用を巡っては、大学ごとに英語のリーディングとリスニングの配点比率に独自色が見られる。入試センターはリーディングとリスニングの配点を各100点と均等にしたが、国立大学では従来通りリーディングを重視する傾向が強い。
本年度入試からリスニングの利用を始める東京大学はリーディングとリスニングを7対3、京都大学と大阪大学は3対1で利用する。神戸大学の岡田章宏副学長は講演の中で、民間試験の活用見送りなど受験生にとって負担となる環境の変化があったことを踏まえ、「これまでと配点は変えない」と述べ、引き続き4対1とすることを説明した。広島大学は、指定する英語民間試験でCEFRがB2(英検準1~1級)以上の場合、共通テストの外国語(英語)を「みなし満点」にする。
私立大学の利用方法は多彩だ。大学入試センターによると、本年度の入試では534の私立大学(3月31日時点)が共通テストを使う。英語の配点比率では、国立大学と異なり1対1とするところもある。
法政大学では、アドミッションポリシーに照らして、さまざまな選抜方法を取り入れることで多様な学生が集まり学習・研究する場となっていると強調した。
上智大学は、これまでセンター試験を使わなかったが、本年度入試から共通テストを利用する。共通テストのみで合否を判定する方式と個別試験の結果を合わせて合否判定する方式を設ける。英検協会と共同開発した英語試験「TEAP」スコアの利用方式も続ける。
青山学院大学も従来、一般選抜は個別試験のみだったが、共通テスト利用方式を取り入れる。
関西大学は法学部で共通テスト300点満点、小論文150点満点の入試を導入する。
明治大学は共通テスト利用入試で、商学部の3科目方式を4科目方式へ、4科目方式を5科目方式へ変更し、数学を必須化する。入学後、七つの専門コースに分かれ、特定の専門分野のスペシャリストとしての知識を養うためにも数学の力を求める。
立命館大学は共通テストが開始されても変更はないと公表した。今後も少数科目入試を基本的に行わず、多科目を出題する。高校での授業で学んだことの評価を重視する姿勢を強調した。
募集枠拡大、新方式も導入
総合型・推薦型
令和3年度入試で実施する総合型選抜(旧AO入試)や学校推薦型選抜(旧推薦入試)では、募集人数を拡大したり新方式を導入したりする動きが広がっている。
東京大学は、学校推薦型選抜で高校1校当たりの推薦可能な生徒の人数を、これまでの最大2人から4人に増やす。男女は各1人だったが、各3人以内にする。
東大は学生構成の多様化を目的に学校推薦型選抜を平成28年度から始めたが、「推薦の条件が厳しい」とされ、出願者は低迷していた。「学校推薦型選抜の基本方針」では、求める学生像に「卓越した能力」「極めて強い関心」「学ぶ意欲」を掲げてきたが、講演した福田裕穂副学長(入試担当)は「全てを備えているという意味ではなく、いずれかを持った志願者を求めている」と述べ、応募を呼び掛けた。
国内で初めてAO入試を導入した慶應義塾大学。総合政策学部と環境情報学部では、総合型選抜の募集定員を100人から150人に増員する。また、入学時期の条件を緩和し、学生構成のグローバル化を図る。夏秋冬春4回の選抜全てで出願時に4月入学と9月入学を選択できるようにすることで、海外の高校や国内インターナショナルスクールからの出願者拡大を狙う。
金沢大学では、総合型選抜や学校推薦型選抜などを新たに「KUGS(金沢大学<グローバル>スタンダード)特別入試」と名付け、合計で172人を募集する。一般選抜との併願も可能だ。
志願者には二つのリポートを課す。一つは「KUGS高大接続プログラム」の受講後、考えたことを「大学での学び」としてまとめてもらうもの。さらに、高校の探究活動や部活動などを振り返り、課題意識を持って解決に取り組んだことを「高校での学び」として作成してもらう。提出期限は8月末までで、評価を経て基準を満たした場合に出願資格を与える。
理工学部を再編して理、工、生命環境、建築の4学部を新設する関西学院大学では、既存の学部を含めて新たな方式を導入する。「総合選抜」「探究(課題研究)評価型」「文化芸術活動・ボランティア活動を評価」など5類型を加えた9類型とする。
九州大学は、主体的に問いを持ち、学び続ける姿勢を育てる「基幹教育」を軸に据えてきた。本年度の入試から新たに工学部の11学科と経済学部経済・経営学科で総合型選抜を導入する。
選抜は調査書や志望理由書による一次と小論文・面接・共通テストの二次を実施。学部のアドミッションポリシーに沿って知識・技能や思考力、主体性を総合的に評価する。それに伴い、経済・経営学科では一般選抜の募集人数を前期後期ともに10人程度減らす見通しだ。また九州大では学校推薦型選抜を、文理横断的な「共創学部」に続き、芸術工学部の一部のコースでも新たに実施する。
他にも中央大学は法学部で、埼玉大学は理学部生体制御学科で本年度から総合型選抜を新たに実施する。
受験生の移動、学習遅れに配慮
例年、受験生の半数以上を県外者が占める横浜国立大学。受験生の県をまたいだ移動をなくそうと、同大は来年の一般選抜はキャンパスでの個別学力検査をしないことを決めた。代わりに全学部で自己推薦書の提出を求める。経済・経営・理工・都市科学部の個別学力検査については、大学入学共通テストの点数を活用する。
感染リスクを下げるために、オンラインで行うのが広島大学。文学部人文学科の総合型選抜(旧AO入試)で実施する。例年、小論文と面接を行っているが、本年度は小論文を行わず、オンラインによる口頭試問と面接で選考する。
コロナ禍で中止になった民間検定試験などへの対応も広がる。関西学院大学は救済措置として、高校から英語検定試験のスコアと同等の能力があることの証明を受ければよいとした。同志社大学の推薦入試では、自宅で受験できるTOEFLiBTの結果を出願資格として認めるという。名古屋大学では取り組みに向けた「過程」を評価する。
臨時休校による学習の遅れに配慮し、教科書の発展的な学習内容を出題しないことを公表する大学も相次いだ。
東京理科大学は、北海道にある全寮制の長万部キャンパスの来年度利用を取りやめることを決めた。
参加大学(五十音順)
<国立>
大阪大学
金沢大学
九州大学
京都大学
神戸大学
埼玉大学
東京大学
東京工業大学
名古屋大学
一橋大学
広島大学
横浜国立大学
<私立>
青山学院大学
関西大学
関西学院大学
慶應義塾大学
上智大学
中央大学
東京理科大学
同志社大学
法政大学
明治大学
立教大学
立命館大学
早稲田大学
授業実践 英語
ネーティブまね、音読を「細かく聴き取る力」育む
安河内 哲也 東進ハイスクール・東進衛星予備校講師
大学入学共通テストの解説で、安河内哲也・東進ハイスクール講師はリスニング力を高める勉強法を中心に解説した。試験ではリスニングの配点が増え、読解の語数は増加する。こうした点を踏まえ、安河内氏は「まずリスニング、それからリーディング力を伸ばすことが大事」と語った。聞き取りレベルを上げれば、読み取りはできるようになるといわれるためだ。
「なぜ日本人の耳は英語を認識できないのか」。軽快な語り口で視聴者を引き付け、そう投げ掛けた安河内氏。そこで取り上げたのが「pearl」「ring」の2語だ。音声だけを5回流し、小学生でも知っているような単語を高校生が聞き取れない理由について触れた。「照れや恥ずかしさ、周りの同調圧力による日本語英語が耳を壊している」と、独特な表現で語った安河内氏。恥ずかしさを払拭する上で、「教師が率先して発音し、一緒に行うことが大切」と語った。
リスニングの勉強を通して育てたい力の一つが「音を細かく聴き取る力」(聴解力)。着実に力を付けるために、ネーティブの音を模写して行う音読が重要だ。例えば、英語の音声に合わせて自分も発声するオーバーラッピングなどの勉強法がある。スマートフォンに取り込んだ洋楽などを聴き、継続して取り組むことが効果的と説明した。
もう一つは「大まかに情報をつかむ力」(検索力)。YouTubeなどの動画を活用し、日常的に多聴し英語の耳を育てることが欠かせない。そこで重要なのはレベルに合った素材を選ぶこと。既習長文を音声などで楽しく継続して聴いた方がリスニング力は伸びるためだ。
最後の一つは「正確に英文を理解する力」(語彙力・文法力)。英文を話したり書いたりすることを目標に、例文の意味の違いに留意しながら学ぶことが重要だという。この他、リーディング(読解)の勉強法や、長年の授業実践を基にしたオンライン授業のコツなどについても触れていた。
セミナー後、視聴者からは「できそうな点から実践したい」「一番大切なのは生徒のやる気。安河内先生からやる気を引き出す方法を学べた」などの声が多く好評だった。
授業実践 英語
問いを作る・図解・要約・答え書く…文章読解へノート4分割
山本 崇雄 新渡戸文化小中学校・高校(東京・中野区)教諭
山本崇雄・新渡戸文化小中学校・高校教諭は、同校で指導する生徒の様子などを例にしつつ、学習と実生活のつながりを意識させる手だてや、学びを深めるノート作りなど、本質的かつ先進的な英語の実践を紹介した。
山本教諭は初めに、学校教育の方向性など、全国の高校が休業期間中に直面した課題に触れた。対応策としてオンライン授業の実施など具体的な手だてを挙げ、新しい教育の必要性を語った。
授業では、生徒に英語を学ぶ目的を持つよう働き掛けている山本教諭。なりたい自分や英語で作りたい世の中を生徒に問い、学習の道筋となる「学びのデザインマップ」を作成することで、生徒が実現に向けて必要な学びに主体的に取り組むことにつながるという。
大学入学共通テストの試行問題でも、大学のオープンキャンパスのポスターから情報を読み取るなど、実社会につながった内容の問題が多いと指摘。実践的な英文に慣れるため、海外の大学のホームページや映画のレビューサイトを見るなど、ネットの活用を挙げた。
また、文章を読み取り要点をまとめる能力の育成のために山本教諭が取り上げたのは、ノート作りの指導。見開きページを4分割して「問いを立てる」「わかったことを図解する」「わかったことを要約する」「問いの答えを書く」の項目を立て、問題文を読んでそれぞれ書き込ませる。
「問いの答えを書く」では、自分の考えとその理由、裏付ける例や説明を示し、最後に考えを再確認してまとめる意見文の型を提示。これを基に意見文を書いて他者と話し合う練習を重ねると、生徒が文中の「事実」と「意見」を明確に意識できるようになるという。
これらを踏まえ、共通テストの試行調査の筆記から第2問を解説。店のレビューを読み、複数の項目から事実のみを選ぶ問題で、文中の「意見」と「事実」を指す単語から判断する方法を示した。
また、ノートを使ったプレゼン活動も紹介。他者に話すことを目標にすると、単語の発音に気を付けたり、伝える内容を工夫したりして、さまざまな観点から生徒の学びが深まるとした。
授業実践 数学
「共通テスト」向けの指導 教科書軸に、日常への応用も
鶴迫 貴司 東山中学校・高校(京都市)教諭
鶴迫貴司・東山中学校・高校教諭は、大学入学共通テストに向けた授業実践例を紹介した。
鶴迫教諭は、今年実施された大学入試センター試験や同追試験について、共通テストのモデル問題や試行調査の問題に近い出題があったと指摘。センター試験は将来を見据え、共通テストに近い問題を導入してきたのではないかと語った。
今後の共通テスト対策については、センター試験と比べると特有かつ異質な問われ方になる可能性があり、部分的な対策は必要になるかもしれないが、「授業の抜本的な改革が急務となるわけではなく、教科書を基軸(根幹)にしながら、数学的な事象を通して、ものの見方・捉え方を習得させる、日常生活に応用できないかを模索する、ことが大事」と強調した。さらに、今後の高校数学は、共通テストに合わせた授業を目指すのではなく、教員個々の数学観をベースに実践し、結果として共通テストや他の入試対応になることが理想であり、「幅のある数学の面白さ、良さを伝える工夫が欠かせない」と続けた。
授業の実践例では、模擬授業を交えながら、
(1) 「余弦定理の証明」
(2) 「角の二等分線」の問題サンプルと授業での展開方法
(3) 学習内容ごとの関連を持たせる
(4) 新学習指導要領の解説からの出題
―について話をした。(1)(2)は過去のモデル問題や試行調査を踏まえて今後出題されると予想してサンプルを提示した。
(1)については、サンプルの定理・証明問題について、普段の日常生活に当てはめて考えさせる具体策を提示。例えば、「貴司くん」が歩いていると目の前に大きな木が現れる。その木に最も近づいた場はどこか、木のてっぺんまでの高さは―などと生徒に問い掛け、式に表し、証明に導かせる方法を伝えた。
(3)では、生徒に学習内容同士のつながりを説明し、振り返りをさせる重要性を指摘。そうした取り組みは、思考力・判断力・表現力の育成につながり、教科書で扱われていない事項や性質に触れる第一歩になるのではないかと投げ掛けた。
参加者からは「問題選択が素晴らしく、研究が深い」など称賛の声が多数寄せられた。
授業実践 国語
基本に戻り「話す練習」ディベートなど繰り返す
河口 竜行 渋谷教育学園渋谷中学高校(東京・渋谷区)教諭
「生徒の主体性を伸ばす長期戦略『急がばまわれ』で共通テストを乗りこえる」をテーマに、大学入学共通テスト「国語」で求められる学力へとつながる実践例を報告した、河口竜行・渋谷教育学園渋谷中学高校教諭。主体性を伸ばす授業実践を写真とともに数多く紹介しながら、態度や意欲の変化やスキル向上などの成果を伝えた。
河口教諭は最初に、自身が考える問いを提示。その上で「生徒たちが『主体的に学ぶ楽しさを知り、主体的に学び主体的に生きること』が国語を学ぶ意味と楽しさの理解につながる。それが『読む・書く・聞く・話す』ことに関する態度や意欲を変化させ、スキルを上げる。そして、共通テストの高得点と希望の大学合格に結び付く」と、目標・到達点を語った。
その後、生徒の目指す状態として「どんな学習が必要なのかを自分の頭で考えて対応する」「本文や設問に対してクラスメートと率直に議論する」「読む意志を持って読む」などを示し、そこに到達するには「よく聞き、よく話す練習をする」「授業中にためらわず発言し、質問する」という基本に立ち返って積み重ねる必要があると述べた。
そうしたことに基づく授業実践として、第一にスピーチ、プレゼンテーション、ディベートなどの「話す練習」を挙げた。繰り返し対話の練習をすることが生徒の国語力向上とともに、自由に意見を言い合える安心感が担保された授業づくりにもつながるとした。
小説を題材にした授業については、ペアワークやグループワークを中心にして多様な読みを体験し、学びを深めていくという形を取っていることを説明した。授業中の生徒たちを紹介する写真からは、主体的・対話的に深く、楽しく学んでいる様子が伝わってきた。
他にも、数多くの実践例を説明。最後に「今の時代の教員には『コーチング』が求められており、生徒たちへの勇気付けが必要となる。そして、生徒の主体性を増やすだけで余裕が増え、自分で考え、課題を解決する力も伸びていく。そうしたことを国語で実践、実行したい」と、強く訴えた。
「細かな説明、良かった」「指導に生かせる」
視聴者の声
参加者へのアンケートによると、初のオンラインセミナーは好意的に受け止められた。
最も多く視聴された文科省の前田入試室長の講演には「学校現場が抱く疑問点について知ることができた」「ニュースなどでも知り得ない細かな説明が聞けて良かった」といった声が寄せられた。新型コロナウイルスの影響を受けながらの新テスト開始という異例の状況。現場の疑問に答える質疑応答を評価するコメントが目立った。
授業実践に対しては「新テスト対策として授業で実際に使用できる活動例のヒントを多くもらえて良かった」「今後の授業づくりや生徒指導でも念頭に置きたい内容。改めて自分の役割を整理する機会になった」と自身の指導に反映したいとするコメントがあった。過去最多25大学の講演には、本年度の入試日程やアドミッションポリシーを知ることができたという声があった。
一方、オンライン形式によるセミナーは「自分の都合に合わせて視聴できるのでありがたい」「受講しやすく他の先生とも情報共有しやすい」と好評だった。配信期間中も仕事や大会で視聴できない先生のために、「期間をもっと長くしてほしい」と求める声も寄せられた。