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直前 新共通テスト 実用文や文学で言語活動の質問われる

15面記事

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渡邉 久暢 福井県立若狭高校教諭(左)と遠藤 祐也 山梨県立甲府東高校教諭(右)

授業提案 国語

 共通テストの国語は論説や文学、古典、実用的文章を題材に「言語活動」の過程を重視する。一つの大問の中に、異なる種類の複数の文章を組み合わせた問題が出される見通しだ。

初見文章、教科書と組み合わせ出題
遠藤 祐也 山梨県立甲府東高校教諭

 私が指導している高校3年生は昨年来、大学入試に係る制度設計見直しの影響を少なからず受けてきた。そしていまだ影響が続く新型コロナウイルスである。約半年後に大学入学共通テストを控えている3年生を指導する立場として、今そしてこれから生徒たちにできる指導は何か、昨年度やコロナ禍に伴う休校期間中の取り組みを踏まえながら考えたい。
 本校の国語科は学年を担当する国語科の教員がそれぞれ現代文分野、古典分野を担当して単元観に基づいた指導案を作成し、統一した教材を用いて指導を行っている。

類似題材を読み比べ
 私は現代文の授業計画の立案と教材開発を担当しているが、現任校に赴任した昨年度から「読むこと」領域に係る定期考査では、生徒にとって初見の文章(随想や対話文も含む)を提示し、教科書教材と組み合わせて出題している。
 初見の文章で抽象的な内容を具体的な例を援用して説明する力や、情景描写から登場人物の心情を読み取る力など、授業で扱った資質・能力が身に付いているかを測れる出題を心掛けた。
 その際、教科書教材と類似するテーマに基づいた複数の文章を出題し、読み比べをさせながら、多角的に文章を読む力を問うことができるように留意している。
 初見の題材を探すことが負担にならないかという質問を受けることがあるが、教科書で紹介されている関連書籍や指導書の参考資料などは利用価値が高い。学校図書館の司書と連携を取りながら関連書籍をリファレンスしてもらうという方法も一つである。

図表の読み方、動画で
 休校期間中、本校ではインターネット上の動画投稿サイトを利用して学習動画を配信することとしたため「統計資料を読む力を身につけよう」という単元名で、図表を題材にした「読むこと」の単元を計画し、学習動画と対面での授業とを組み合わせて実施した。
 具体的には、表の数値やグラフの傾きの大きさに注目したり、複数資料の脈絡を読み取ったりするといった図表を読み取る際の留意点について解説する動画を作成した。
 動画はプレゼンテーションソフトで作成したスライドに声を吹き込む形式であったが、カラーの図やグラフを用いて注目すべきところを拡大したり、アニメーションを付けたりして図表を読み取る際のポイントを指摘できたため、モノクロの学習プリントを用いて説明する従来型の授業よりも説明しやすい。生徒にとっては見やすく好評であった。
 単元の途中で休校が解除されたため、反転授業の形式を取ることとし、図表の読み取りに係る基本事項は動画で学習し、対面の授業ではペアワークでの演習からスタートした。生徒は既に学習動画で図表を読み取る際の基本事項について習得していたため、感染予防の観点から十分な時間が取れないペアワークではあったものの、平時と遜色ない協議ができた。
 行番号や文で指摘できる連続型テキストとは異なり、こちらが注目させたいところを説明しにくい非連続型テキストを題材にする単元の指導の在り方として、プレゼンテーションソフトを使用して視認性を高め、事前に図表の読み取りのポイントを動画で学習させて、生徒同士で協議をさせる反転授業は有効だった。
 複数の文章や図表を分析的に読む授業を通して、生徒からは「日頃から、さまざまなことに疑問や関心を持ったり、想像力を働かせたりすることが必要だと思った」といった学習感想が寄せられている。
 今回紹介した取り組みは、共通テストの問題作成方針の観点から見て有効だと思われるが、共通テスト対策そのものを目的にせず、その先にある生徒に身に付けさせたい資質・能力を見失うことなく、指導に当たっていきたい。

反転授業で使用した「非連続型テキスト」の題材例。題材の選定にあたっては統計局のホームページや各大学の小論文の過去問などを参考にした。

 ・南海トラフ地震の認知度に係る資料(静岡県南海トラフ地震の新たな防災対応に関する県民アンケート結果=資料2

 ・訪日外国人旅行者数の推移や訪問先に係る資料(三井住友銀行 コーポレート・アドバイザリー本部企業調査部資料)=資料3

 ・労働力率の男女間の違いに係る資料(平成11年版男女共同参画白書)
(※資料1は省略しました)

相関図作り登場人物の見方捉える
渡邉 久暢 福井県立若狭高校教諭

 新共通テストでは「問題作成方針」に示されている通り、言語活動を通して育まれた国語学力が試される。言語活動とは「グループディスカッション」「ペアトーク」といった一般的な学習活動を指すのではない。単元全体を通して取り組む課題解決的な活動を指す。
 例えば、現行学習指導要領古典Bでは「古典に表れた人間の生き方や考え方などについて、文章中の表現を根拠にして話し合う」である。

紙面で級と「対話」

 写真は、若狭高校普通科3年生が学校休業中の遠隔授業時に提出したノートである。この授業では単元目標を「登場人物の言動に表れたものの見方・考え方を評価する力を獲得する」と設定し、『大鏡』を題材として「文中の表現に基づき、登場人物を評価する」という言語活動を組織した。
 登場人物のものの見方・考え方を捉えるには、登場人物の特徴を踏まえた相関図を作成することが有効である。生徒には相関図をノートに書き、それを写真に撮って教師にメールで提出するよう指示した。
 生徒から提出された写真は一つのフォルダに集め、グーグルドライブ等のクラウドサービスで生徒全員と共有する。そこでクラスメートが書いた相関図と自身の図を比較・検討しながら、再度文章中の表現を根拠に登場人物への理解を深め、評価へとつなげていく。生徒は対面での対話を行わずとも、クラス全体での「紙面対話」を通して登場人物の言動に表れたものの見方・考え方を評価する力を培った。
 2018(平成30)年度試行調査第四問(古文)は、問一で登場人物の心情を尋ねた。問三では登場人物の相互の関係を踏まえ、言動の意味を問うている。問五は傍線部の解釈として複数の意見から適当なものを二つ選ばせた。どれも文章中に書かれていることを把握・精査・解釈することが求められる設問である。
 問三の正答率は28・2%と古文分野の設問中最低であり、問五も30・8%と低い。単に単語や文法の知識を知っているだけでは解けない設問だった。受験技術的な対策ではなく、言語活動を通して主体的に知識を活用し、考えを深めさせることが授業者には求められている。
 言語活動を充実させるためには、まず単元の目標を明確化することが重要である。「活動あって学びなし」となってはいけない。その上で、その目標を達成するためのより良い活動を組織する。

解釈の多様性を考察
 同じく遠隔授業で行った太宰治『トカトントン』の現代文Bの単元では「自身の読みを相対化し、解釈の多様性について考察する力」の育成を目的とし「クラスメートの考えを読んで、さらに本文を再読した上で考えたことを書く」という活動を組織した。
 考えを集約・整理し、シェアするためのツールとして本単元ではグーグルフォームを用いた。読後に考えたことを入力させ、エクセルでリスト化し、グーグルドライブでクラス全体に共有する。
 さらにはZoomの「ブレイクアウトセッション」の機能を使い、本文の解釈についても交流を行った。いずれも自身の読みを相対化し、解釈の多様性について考察するための活動である。
 自身の読みを相対化するためには、新学習指導要領に「文学国語」の言語活動事例として示されている「作品の内容や形式に対する評価について、評論や解説を参考にしながら、論述したり討論したりする活動」も有効である。
 本単元では『トカトントン』に言及した奥野健男、磯田光一らの所論を提示し、解釈の多様性について考察を深めることを促した。本文とそれに関連する資料とを見比べることで新たな発見が生まれる。複数の情報の共通点や相違点を判断する力も獲得できる活動として組織した。
 コロナ禍の影響で演習量の不足を嘆く声も聞くが、重要なのは質的に高い授業の実践である。

 ※ 「直前 新共通テスト」では、「夏の教育セミナー」と連動して大学入学共通テストに向けた授業提案や最新情報を掲載します。次号は英語の授業提案です。

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