「9月入学」案は重要な論点が欠落している 元ICU教授の町田さん寄稿
NEWS新型コロナウイルス対策の学校休業が長引き、政府・与党内で9月入学制度への移行について検討作業が進む中、元国際基督教大学教授の町田健一さん(教育学)から「『9月入学制度提案』の目的と時期の再吟味を:重要な論点の欠落について」と題する論考が届いた。その全文は次の通り。
論点
1 今回の「9月入学制度提案」は、コロナ禍の学習の遅れを取り返す策か?
今回の「9月入学制度提案」は、そもそもコロナ問題で3月から5月まで小中高大の学校閉鎖・授業停止に伴う遅れた学習を、どう補うかの問題解決として浮上した提案であった。
従来の9月入学制度改革提案理由とは異なる。はじめ多くの人が今回の学習の遅れを解決する妙案と受け取った。しかし、検討されている政府・文科省の3案、あるいは2案等は、いずれも、実施するにしても当然ながら今年の9月ではなく、来年9月以降の実施である。今年の児童・生徒・学生のためになるものでない。
5月22日付の日本教育学会「9月入学・始業制」問題検討特別委員会の提言「9月入学よりも、今本当に必要な取り組みを(概要)」に真摯に耳を傾けたい。9月入学制度改革には、様々なすぐには解決できない問題点があり、このコロナ禍で、強引に推し進めるには明らかな無理がある。まずは全力で現在苦しんでいる学校現場の救済を、人的・物的、経済的に考えたい。
2 日本の子どもたちは小学校入学から大学卒まで、アメリカの子どもたちより1年も遅れる!!
政府・文科省が、(コロナ禍のこの機会にと)9月入学制度改革の導入に踏み込むのであれば、あまり議論されていない以下の重要な問題点に注視して欲しい。
9月入学制度を敷く国で、小学校入学年齢が5~6歳と1年早いイギリスは別にして、同じ6~7歳のアメリカと比較してみる必要がある。生年月日によるが、子どもたちの学習の機会に1年間の大きな差が出る点である。
日本で来年小学校1年生に入学する子どもたちのうち、今年の8月までに6歳になる子どもたちは、アメリカでは今年の9月に1年生になれる。すなわち、半年早く1年生になるのである(現在でも日本はすでに半年遅れ)。
ところが、日本が来年9月から9月入学制度を実施する案では、来年4月に小学校入学するはずの子どもたちが来年9月に1年生にすることになるので、今年の8月までに6歳になる子どもたちは、アメリカの子どもたちより1年遅れることになる。
9月入学制度導入は、少なくとも来年9月の導入は性急過ぎて、導入するにしても入学・進学を半年遅らすのではなく、幼児教育の在り方の研究と相まってアメリカ的に半年早める議論も必要で、コロナ禍で議論できる課題ではない。