大久保俊輝の「休み中に考えたい学校問題」【第71回】
NEWS近所づきあいを学ぶには
「ハッとするほどに艶やかなツツジの花に驚いたわ」と、外出を控えていた老婦人が手押し車を押しながら語りかけて来られた。挨拶で済まそうと思ったが、さらに言葉を投げ掛けて来られた。
「この前はタケノコを有り難う御座いました。新鮮で柔らかくて」と本当に嬉しかった事が満面の笑顔から伝わっていた。よいことが出来たと嬉しくなった。
「自生している三つ葉も食べませんか」と促した。「あら、いいんですか」と不自由な足を運びながら、「おひたしや吸い物にすると美味しいのよね」と、暫くしてわざわざ冷たい缶コーヒーを1つ持って来られた。実に嬉しいやりとりであった。
こうした習慣を私は母から学んだ。ご近所付き合いは親しか示せない。今回は、ドア越しのノブに掛けたタケノコから始まった。
娘さんに知的障害があり、気分が優れないと大声が聴こえてくる。それが原因で離婚し、母ひとりで2人の娘を育てた老婦人なのである。その笑顔は様々な試練を乗り越えた深みが感じられて教えられる事が多い。
老い先の不安もあるだろうが、何気ないやり取りの中に環境に縛られない強さと豊かさを私は感じている。こうした閉塞感の中でも、心は変わらず、花に感動し、人や自然に感謝して生きる自分を老婦人が教えてくれた。
(おおくぼ・としき 千葉県内で公立小学校の教諭、教頭、校長を経て定年退職。再任用で新任校長育成担当。元千葉県教委任用室長、元主席指導主事)