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震災と学校のエスノグラフィー 近代教育システムの慣性と摩擦

14面記事

書評

清水 睦美・妹尾 渉・日下田 岳史・堀 健志・松田 洋介・山本 宏樹 著
継続調査から浮かぶ教師の模索・内面

 東日本大震災時の津波による被災地の一つ、岩手県陸前高田市に焦点を当て、被災中学校を対象に発災後の1~2年間を研究した成果を「『復興』と学校―被災地のエスノグラフィー」(2013<平成25>年10月)として刊行。本書はその続編に位置付き、発災後3~8年にわたる中学校などでのフィールドワークの結果をまとめた労作と言えよう。
 三つの中学校が統合した新中学校の授業、部活動、学校行事などを参与観察調査し、生徒らの「震災作文」の変化を分析、教師、高校やハローワークなどへのインタビューなどを、陸前高田市の概況、学校エスノグラフィー、震災と教師、震災と進路―の4部に、全10章として再構成した。
 震災体験が残した生徒らの心の傷を、さまざまな教育活動によって払拭する「震災からの自由」と、震災体験をあえて問い直す「震災への自由」の視点を通し、東日本大震災を経験した学校が、従前の学校と同じように営まれるのか否かを問い直す。考察の先には「近代教育システム」そのものを見据えた。
 被災地の学校に異動した教師や、震災による被災経験のある教師の内面が「被災地の学校に異動する」(第5章)や「教師の震災経験の意味づけ」(第7章)、「教師の震災経験が学校にもたらすもの」(第8章)などから伝わり、学校の民族誌(エスノグラフィー)の一隅を照射する。
(4180円 勁草書房)
(吹)

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