自家発電設備など停電時に備えた安全対策の強化を 学校の防災機能を高める施策と課題
11面記事学校施設は子どもたちが一日の大半を過ごし、災害時は地域の避難所を兼ねることから、防災機能の強化を図ることが急務になっている。そのため、国が7兆円をかけて重要インフラの防災対策を進める「防災・減災、国土強靱化のための 3カ年緊急対策」の中でも、重点プログラムの1つになっている。そこで、災害に強い学校施設に変えるために必要な取り組みを課題とともに紹介する。
耐震化に続くステップとして
東日本大震災では、学校施設の防災拠点としての重要性が改めて見直されたとともに、発災直後から教育活動再開までの間において防災機能に関するさまざまな課題が顕在化した。こうしたことから、いつ、どこで起きても不思議のない次の災害への備えとして、まずは耐震化を優先課題に取り組んできた経緯がある。その上で、現在は天井材など非構造部材の落下防止対策や、ライフラインを維持する避難所機能の強化へとシフトしている段階だ。
一方で、学校施設は昭和40年代から50年代の児童生徒急増期(15年間)で建築された校舎が公立学校施設面積の半数以上を占めており、一般的に改修が必要となる経年25年以上の建物が全体の7割に達しているという、新たな課題も浮上。ICT化や現代の教育にマッチした多様なカリキュラムに応える施設の高度化への改修も含め、これまでの建替えから長寿命化への転換を図らなければならない事情も抱えている。
したがって、文部科学省は「学校施設の長寿命化計画策定に係る手引」を取りまとめ、設置者となる教育行政に個別施設ごとの長寿命化計画を早期に策定することを求めているところだ。
学校施設の改善に3917億円
このような2つの課題に対処するため、文部科学省は2020年度の概算要求で、計画的・効率的な長寿命化を図る整備を中心とした学校施設の改善等に、前年度を1千億円超える3917億円を計上。また、昨年末発表された今年度の補正予算でも、学校施設の防災機能強化等に1170億円が追加されるとともに、国も学校施設の耐震化・防災機能強化として964億円+電源設備等に50億円を盛り込むなど、これまでにない大規模な投資を打ち出している。
さらに、環境省も災害時の避難施設に対し、エネルギー供給の機能発揮が可能な再生可能エネルギー設備を整備する予算として、2020年度の概算要求で「地域の防災・減災と低炭素化を同時実現する自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業」に116億円を計上した。具体的な設備の内容は、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギー、排熱を利用する未利用エネルギー、ガスヒートポンプなどのコジェネレーションシステム、蓄電池、電力または熱の供給を受けて稼働する高効率空調になる。
災害時の避難所における電気・熱源供給にはエネルギーの多重化による安全対策が不可欠のため、たとえば太陽光発電と蓄電池を組み合わせた非常用発電設備や、都市ガスとLPガスを組み合わせた熱源確保など、いざという時に機能を維持する工夫が望まれている。
ライフラインの確保に電力は不可欠
このように避難所施設への自家発電設備の整備を急ぐ背景には、非常時における電源設備対策が遅れているからにほかならない。自然災害によって電気・ガス・水道といったライフラインが損壊した際、もっとも復旧が速いのは電力とされるが、過去の災害の教訓からは人命救助の観点から重視される「72時間の壁」を越えて電力供給がストップする可能性は高い。したがって、電力が復旧するまでや移動電源車が到着するまでの間、可搬型発電設備、非常用電源、可搬式ポンプなどを活用してライフラインを確保することや、それら設備の運転を継続できる燃料を備蓄することが重要になる。
こうしたことから、国の「防災・減災、国土強靱化のための3カ年緊急対策」では、代替エネルギーシステムの活用を含めて自家発電設備の整備を図り、十分な期間の発電が可能となる準備をするよう各自治体に呼びかけている。その目安となるのが、外部からの供給なしで非常用電源を稼働させる時間「72時間」と、災害対応に支障がでないよう停電の長期化に備える「1週間程度」になる。
エネルギーの多重化による備えを
災害時の停電に備えて自家発電設備を備えている学校施設は、昨年4月時点の調査で56%となっているが、どれくらいの期間に、どれだけの発電量が確保できるか。あるいは、災害時に本当に活用できるのかといったことを含めて不透明な部分が多いのが実態だ。これまでの災害でも、せっかく自家発電設備を備えていたにも関わらず故障していたり、豪雨による浸水で使用が不可能になったりするケースがあった。
今や生活に関わるほとんどの機能が電力によって支えられており、災害時の指揮系統を維持し、避難者の生活・健康を守ることを考えても、避難所における自家発電設備の整備をより一層進めなければならない。しかし、そのためには設置場所、用途と発電量、燃料備蓄などに気を配る必要があるほか、何よりも普段から使い慣れている設備であることがポイントになる。昨年9月に起きた台風15号による千葉県内の大規模停電では、小学校に設置した太陽光発電システムが非常用電源として活用されたという成功事例もあり、平時から非常時にスムーズに切り替えられる運用方法をしっかりと確立しておくことが大切だ。
また、自家発電設備だけでなく、非常時に電力を供給するさまざまな手段も考える必要がある。たとえば、長野市の災害では地元企業が無停電電源システムを無償貸与し、情報資源の収集活動など復旧活動を手助けした。さらには、近年普及しているEV・PHVなどの車を移動電源として活用することも視野に入れるべきだ。
また、災害時の避難各所では安否確認などの情報手段としてスマートフォンが欠かせなくなっていることから、ガソリン・軽油・重油などを燃料とする小型の発電機を活用するケースも増えている。最近ではより手軽なカセットボンベ式の発電機も登場しており、蓄電池等の導入と併せて、電力・エネルギーを供給する手段を多重化しておくことが重要になる。
GIGAスクール構想の予算を活用して
もう1つ、避難所となる学校施設の課題は災害時の通信手段の確保である。そのため、総務省では学校などの防災拠点における公衆無線LAN(Wi―Fi)環境の整備を行う地方公共団体等に対し、その費用の一部を補助する「公衆無線LAN環境整備支援事業」を実施。スマートフォンやタブレット端末が急速に普及する中で、災害が発生したときに通信回線の輻輳による影響の少ないWi―Fiを誰でも利用できるようフリーに開放し、避難者など不特定多数の人が安否確認の連絡手段や情報収集をスムーズに行うことを目指している。すでに熊本地震では公衆Wi―Fiを開放し、通信手段の確保に大きな効果をもたらしている。
さらに現在、教育界にとってのビックニュースになっているのが、総理の一声で2318億円の投入が決定した「GIGAスクール構想」だ。本事業による学校施設の高速大容量通信ネットワークの整備は校内の教室が主体になるが、授業で使うことを想定すれば屋内運動場まで整備を広げることも可能になる。 各自治体における予算化の際はぜひ、避難所施設の防災機能を強化する観点からも検討し、このまたとない機会を活用してほしい。