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課題山積の放課後児童クラブ。施設不足や保育の質低下をどうする?

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 共働き世帯の増加とともに放課後児童クラブの必要性が高まっていますが、施設不足や保育の質低下など放課後児童クラブが抱える課題は少なくありません。共働き世代にとって放課後児童クラブに入れるかどうかは、保育園入園と並ぶ大きな難関で「小1の壁」と呼ばれています。施設数は増えていますが、決して順風満帆といえないのが現状です。

待機児童問題は保育園と変わらない実態

 正式には「放課後児童健全育成事業」と呼ばれ、共働きなどを理由に昼間に様子を見られない子どもたちに対して、放課後児童クラブは健全に遊べる場所を提供しています。厚生労働省によると、放課後児童クラブに通う小学生は2019年、全国で約130万人に上ります。この20年間で実に3.6倍に増えました。施設の数も2019年に約2万6000カ所に達し、20年前の2.6倍です。

・待機児童も増え続けている

 ところが、放課後児童クラブが増え続けているにもかかわらず、約1万7000人もの待機児童が発生しています。10年前と比べ約7,000人も多く、全体の4割程度を首都圏の1都4県が占めています。保育園の待機児童問題は度々ニュースや国会審議で取り上げられましたが、それとさほど変わらない厳しい状況が続いています。

・小1の壁によって保護者の働き方が変わる

 大企業では子どもが小学校へ上がるまで時短勤務を認めてくれるところが増えてきました。しかし、子どもが小学校へ入学すると時短勤務を打ち切られるケースが一般的です。

 放課後児童クラブに入れなかった場合、父母のいずれかがキャリアをあきらめざるを得ないことも考えられ、小1の壁を理由に転職など働き方を変えたといった声もあります。

・定員を設けて受け入れを拒む自治体も

 小学生を受け入れる地方自治体の対応もまちまちです。東京都江戸川区のように放課後児童クラブに定員を設けず、希望者をすべて受け入れているところがあれば、定員を設けてそれ以上の受け入れを拒む自治体も存在します。自治体の姿勢によって小1の壁が高くなったり、低くなったりしているのが現実です。

職員配置基準、わずか4年で事実上の撤廃

 もう1つの大きな課題が保育の質をどのように担保するかです。厚労省は2015年に改正施行された児童福祉法で職員配置に関する全国一律の基準として以下を明示しています。

(1)1教室に職員2人以上を置く
(2)そのうちの1人を保育士や社会福祉士などとする

 この基準は放課後児童クラブに一定の質を保つのが狙いです。ところが、政府は2019年、児童福祉法など13の関連法をまとめて見直す第9次地方分権一括法を国会に提出、成立させました。

 この中で職員配置基準は「従うべき基準」から「参酌すべき(参考にすべき)基準」に改めました。わずか4年で事実上、基準を撤廃したことになります。方針転換の理由は全国知事会から「職員の人材確保が難しく、現状では待機児童の解消が困難」との要望を受け、これに対して全国福祉保育労働組合など福祉団体や労組は「保育の質が低下する」と強く反発しました。

・大都市圏では子どもがすし詰め状態に

 大都市圏の放課後児童クラブは以前から子どもがすし詰め状態となり、職員の目が行き届かないことが問題になっていました。特に定員を設けていない自治体の放課後児童クラブはこの課題を解消できないでいますが、その背景に潜むのは深刻な職員不足です。

 全国放課後児童クラブ連絡協議会の2014年調査では、職員の7割弱が年収150万円以下でした。これでは人材確保ができないとして厚労省は処遇改善の補助事業を始めましたが、財政難から手を出せない自治体が半数以上に上りました。

・放課後子ども総合プランに逆効果の側面も

 政府が2014年に打ち出した「放課後子ども総合プラン」では、厚労省事業の放課後児童クラブと文部科学省事業の放課後子ども教室を一体化または連携して運営する方針が示されました。

 しかし、本来の放課後児童クラブに求められる定員40人以下、子ども1人当たりの広さ1.65平方メートルという基準が守られなくなっています。放課後児童クラブは共働き世帯などの児童を対象に放課後に適切な遊びの場や生活の場を提供し、放課後子ども教室はすべての子どもを対象に学習やスポーツの場を設けることが主目的ですが、垣根をあいまいにして運営していることが伺えます。

保育時間の延長も今後の大きな課題に

 小1の壁を高くする要素としては保育時間の問題を忘れてはなりません。公設の放課後児童クラブは放課後の開設時間を下校時刻から午後5時または6時までとしているところが多くなっています。保育園時代よりお迎えの時間が早くなり、これでは残業はおろか定時退社でも間に合わない可能性があります。

 延長保育もおおむね午後7時か8時まで。民設の放課後児童クラブならもう少し遅い時間まで対応してくれるところがありますが、公設の利用時間が預ける側の事情に合っていないことは間違いありません。ただ、この課題解決にも人員確保が必要不可欠なので、一朝一夕に解決できる問題ではなさそうです。

社会全体から改革を求める声が必要

 保育園の待機児童問題は「保育園落ちた、日本死ね」が流行語となり、全国の目が向きましたが、放課後児童クラブの問題はまだ保育園ほど知られていません。だれでも利用しやすい放課後児童クラブに変えるため、社会全体が政府や自治体に改革を求めていかなければならないでしょう。

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