安全で快適な教育環境に欠かせないトイレ改修
12面記事耐震化の次はトイレ改修を進める自治体が増えている
トイレの洋式化が最優先課題
学校施設の老朽化対策が進められる中で、耐震化の次に最優先課題として取り組む自治体が増えているのが、トイレの改修だ。文部科学省が2016年に行った調査によれば、公立小中学校施設における和式トイレの割合は56・7%だが、老朽化した校舎のほとんどは和式便器がそのまま使用されている。また、暗くて不衛生に感じるトイレも多く、家庭や公共施設のトイレが洋式化した中で、そのギャップが問題になっている。
事実、住宅設備機器大手のリクシルが昨年小中学生に実施したアンケートでも、学校トイレの印象を、「汚い」「暗い」「臭い」「怖い」と答えた声がいずれも4割を超える結果になっている。
学校のトイレを快適な環境に造り変えることは、子どもたちの精神面や健康面にとって有益であり、それは学習に取り組む姿勢にも直結する。また、日常的に使う設備だからこそ、効果も実感しやすい。だからこそ、予算を有益に使いたい自治体としては、次のステップとしてトイレの洋式化や多機能トイレ、床のドライ化などのリニューアルを選択するケースが増えているのだ。
子どもたちの憩いの場にする工夫も
文部科学省でも学校トイレの改修をより速やかに進めていくため、トイレ改修やエレベータ設置等のニーズの高い予算を別枠で確保し、優先的に整備するモデルケースを実施している。その1つ、川崎市では安全で快適な教育環境整備としてトイレ改修を実施。基本的な改修に加え、壁タイル、ブースの色彩などに児童生徒のデザインを採用し、全身鏡やベンチも設置することで憩いの場となるよう配慮した。
また、小中学校におけるトイレ改修を、2017年までに完了したのが町田市だ。主な内容は、和式のトイレを洋式化、手洗い用の蛇口を自動式に交換、内装(床、壁、照明等)の更新、給排水管の交換になる。期待される効果としては、衛生環境の改善や節水効果の向上、災害時の避難所機能強化を挙げる。床材を湿式から乾式に変更したことで衛生面を向上し、LED照明や人感センサーを設置することで節電につなげている。また、給排水管を交換することで、臭いなども改善されたという。
豊かな教育環境のシンボルとなるように
一方、トイレなど部分的な改修だけを優先してしまうと、建物全体を長寿命化する上では、この先のコストが膨らんでしまう可能性がある。トイレ改修には配管や天井・壁など本体以外の工事も多いことからも、民間企業によるプロポーザルなどを取り入れて建物全体の最適な事業方式を検討し、財政負担の平準化・効率化を図ることも1つの手段といえる。
また、今後のトイレ改修においては複合化が進む施設環境に応じた設備のあり方や、LGBT対応としての男女共用トイレ、教職員の働く場としての機能向上も視野に入れる必要がある。さらに、9割の学校施設が避難所に指定されている中では、これまでの災害時に指摘されたように、避難者のライフラインとなるトイレの機能強化も大きなテーマになっている。そのため、バリアフリー型トイレやマンホールトイレなどを設置すること、あるいは、その必要個数についてもトイレを改修する上では計画的に整備することが不可欠になっている。
このようにトイレ改修といっても、時代に合わせたさまざまな課題や検討材料が存在する。しかし、学校施設の老朽化に伴い、ようやく陽の目を浴びるようになったのも事実だ。それだけに、これからトイレ改修を計画する自治体には、豊かな教育環境のシンボルとなるような魅力的な設備に生まれ変わらせてほしいと期待する。