ランチルーム・多目的室を「不燃膜天井」に改修
9面記事余呉小中学校のランチルーム(改修後)
船底型の天井に沿って張られた「膜天井」の白さが際立つ
体育館だけとは限らない、学校施設における「特定天井」の落下防止対策に
滋賀県・長浜市教育委員会
地震によって屋内運動場など大規模空間の天井等が崩落した場合、人的被害を生じるおそれがある。そのため、全国の学校では構造体の耐震化と併せて天井材や照明器具、内・外装材など、いわゆる「非構造部材」の落下防止対策が進められている。こうしたなか、長浜市教育委員会では昨年、市内小・中学校3カ所のランチルームと多目的室の吊り天井を、リフォジュール(株)の「不燃膜天井システム」に改修した。そこで、教育総務課・服部稔課長代理と施設管理グループの北村慎太郎主幹に、改修工事の概要について聞いた。
屋内運動場以外での「特定天井」施設を対象に
東日本大震災では屋内運動場などの天井材が崩落する事故が150件以上も発生したため、文部科学省は2013年以降、各学校設置者に対して屋内運動場等の天井などの総点検と落下防止対策の推進を要請している。こうした脱落によって重大な危害が生じるおそれがある天井は、高さが6mを超える、または面積が200平方mを超える吊り天井である。
その中で、長浜市が昨年5月~9月上旬にかけて「不燃膜天井システム」への改修を行ったのが、余呉小中学校と高月小学校のランチルーム、及び東中学校の多目的室だ。
市では全小・中学校に調査を実施し、2016年度から2カ年計画で吊り天井を有する体育館と武道場を「膜天井システム」や「軽量天井システム」に改修してきた経緯がある。服部課長代理は「今回の改修は、残り3校の施設(部屋)を対象にしたものになります。これまで屋内運動場で改修してきた実績とその後の評価から、ここでも膜天井を採用することに決めました」と話す。
安全性を保ち、短工期&コスト削減を実現
不燃性のガラスクロス製シートと小型化された独自のレールで天井を張る本システムは、「特定天井」の基準を大幅に下回る2kg/平方m以下を実現しているため、たとえ落下しても衝撃が少なく、安全性が高いのが最大の特徴だ。しかも、柔軟な素材によって地震時の振動を吸収しやすく、従来の天井材に比べて落下しにくい特性を持つ。
「実は、膜天井を採用する以前に軽量ボードで天井改修を行った体育館では、ボールが当たって破損するケースもありました。柔軟性のある膜天井には、そうした心配もありません」と、日常の運用面での意外なメリットも口にする。
さらに、従来の天井材と比べて圧倒的に下地材が少なく、スピーディーに施工を完了できるのも、学校にとっては大きな魅力だ。「なるべく学校活動への影響が少なく済むよう、今回の改修にあたっても各学校と相談しながら工事を進め、予定通り9月上旬にはすべて工事が完了しました。このように工期を短縮できるのは、学校現場へのメリットも大きいと思います」
多様な形状の天井にも、軽くて柔軟な素材で対応
今回、改修した3施設のうち、県下初の施設一体型小中一貫教育校(義務教育学校)として2018年に開校した余呉小中学校のランチルームは、全児童生徒140名が一斉に給食をとることができる広さ。高さ9mほどの船底型の天井が、より開放的な空間を創り出している。
また、1993年に竣工した高月小学校のランチルームも、同じように広々としたスペースを誇るが、天井全体がすり鉢形になっている。こうした個性的なデザイン形状をそのまま生かして施工できるのも、軽くて柔軟な「膜天井」ならではの長所の1つだ。
北村主幹も「体育館と違って空調の吹き出し口があったり、意匠的に照明を埋め込む必要があること、なかでも高月小は中央柱上部の“明かり取り”に向かって四方から勾配があり、膜シートを張るのにも苦労したと思いますが、きれいに仕上げていただきました」と振り返る。
一方、東中学校の多目的室は、集会や吹奏楽などの部活動で活用しているスペースである。前記のランチルームに比べると規模も小さく、天井高も4mほど。だが、面積が200平方mを超えていたため、今回の改修を行うことになった。
「既存の天井材だけを取り除く方法もありましたが、単独棟で鉄骨平屋の寄棟造りのため骨組みの形状が複雑で空調機の配管なども多く、それだけだと見栄えが悪くなってしまいます。意匠性や安全性、工期などを含めて考え、他の施設と同様に膜天井に改修することにしました」と語る。
その上で、改修した3施設の全体的な印象としては、「膜シートの白さや照明もLEDに変わったことで、きれいで明るくなったと児童生徒や先生方も喜んでいます。特にランチルームは憩いの場としての魅力が向上したように感じました」と評価。加えて、余呉小中学校のランチルームは空調が入るとともに、プロジェクターなどのOA機器も揃っているため、学年集会やPTAの総会など利用頻度が高いことを挙げ、「学校施設の機能強化という面からも、安全対策を施す意味がありました」と続けた。
長寿命化の課題に応える新しい提案に期待
学校施設の老朽化対策を効率的・効果的に進めるための新しい改修方法として、これからの学校施設には「改築中心から長寿命化へ」と転換を図り、トータルコストを縮減することが求められている。
その中で服部課長代理も、これまで学校施設の機能強化としては、校舎や特定天井の耐震化、空調設備の設置やトイレの洋式化改修など、子どもたちが安全・安心で健康的な学校生活を送ることに優先的に取り組んできたが、一定の目途が立ち、今後は中長期的な視野に立った計画的な修繕のもと、建物全体を維持・管理していく必要があることを明かす。
「しかし、市内の小中学校には高度成長期に建てられた古い校舎が多く存在するため、財政的な面から今後どの学校から順番に改修していくかを含めて計画を立てているところです」と課題をもらし、「そうした意味でも、安全性を担保した上で、トータルコストや工期短縮にも対応した『膜天井システム』のような新しい手法や建材が出てくることを期待します」と強調した。全国の学校施設のおよそ7割が老朽化している中で、こうした自治体の抱える課題に応える新しい提案が待たれている。
高月小学校のランチルーム(改修後)
「膜天井」なら、LED照明や空調の吹き出し口に合わせて施工が可能