ライフライン・エネルギー教育に取り組む意義と可能性
全国小学校社会科研究協議会研究大会と中間発表会の開催
第57回全国小学校社会科研究協議会研究大会が、10月31日、11月1日の2日間にわたって岐阜県で開催され、1日目(場所・長良川国際会議場)には全体会指導講評や記念講演が、2日目(場所・岐阜県内の小学校3校)には公開授業・学年別授業研究会・学年別課題研究会が行われた。その翌日の11月2日には、岐阜市立長良東小学校(鵜飼高男校長)にて中間研究発表会が行われ、県内外の教師を含む600名以上が参加した。
エネルギー(飲料水・電気・ガス)を、子どもたちに教えるということ
長良東小学校の中間研究発表会では、授業講評を行った北俊夫・元文部省教科調査官が「社会科の授業がレベルアップしている姿が見ることができ、とても感激している」と述べたように、いずれの教室でもレベルの高い授業が展開された。
エネルギー教育に関する公開授業も行われ、単元内では東邦ガス・倉橋氏が児童からの質問に答えたり、授業者である各務将也教諭の要望に応えてガス供給の工夫について事業者目線で説明したりする場面もあった。東邦ガスは、「地球温暖化とエネルギー」をテーマに環境とエネルギーの関わりについて学ぶことができるガスエネルギー館の運営も行っており(https://www.tohogas.co.jp/gas-enekan/)、倉橋氏は同館館長を務めている。同館は学校からの要望に応じて、出前授業も行っている。
北氏によれば、社会科でエネルギー教育を実施する意義・ねらいは、次の3点であるという。
(1) エネルギーを供給している事業者や自治体が、私たちの生活や産業を支える重要な役割を担っていること。
(2) エネルギー問題は、子どもたち自身の生き方、ひいては日本の在り方にもつながっており、「生き方教育」ともいえること。
(3) エネルギー供給に携わって働いている人たちへの理解につながり、キャリア教育の一環にもなること。
現在、多くの学校では4年社会科の単元「住みよいくらし」において「飲料水」が取り上げられている。これは、飲料水が目に見えるものであり、子どもに教えやすいものであること、また既存の教材で飲料水を扱ったものが多いことが背景にある。
北氏は、こうした現状に対し、当該単元では「『飲料水』『電気』『ガス』と3つの選択肢があり、どれを選んでもよいことになっている。だが実際には、十分な検討がされないまま『飲料水』を選んでいるというケースも多いのが実態なのではないか」と述べたうえで、快適な生活を送るために欠かせない飲料水・電気・ガスというライフラインやエネルギーについて理解を深めるための指導の流れを提案した。
(1) 1時間目のオリエンテーションでは「生活に必要なものは何か?」と子どもたちに問いかけ、エネルギーを含めた社会全体を概観させる。
(2) 2時間目以降は、飲料水を供給するための技術や工夫について教えながら、具体的な事実をもとに電気やガスなどの「エネルギー」にも共通する「安定性」と「安全性」という2つのキーワードを子どもたちが発見できるように導いていく。
(3) 最後に、これまでの授業を振り返りながら電気やガスについても「安定性」と「安全性」を理解させる。
社会科におけるエネルギー教育の可能性
北氏は最後に、社会科における今後のエネルギー教育の在り方について、現在のエネルギー教育からはライフラインに関する教育が抜け落ちている点に触れ、「ライフラインを入り口に、さらには自然災害時のライフライン復旧の取り組みにまで広げることで、自然災害への備えや心構えを指導することも重要だ」と述べた。
そして「まずは、我々自身が、『地域で使われているガスは、都市ガスなのか?プロパンガスなのか?』『地震時に電気やガスなどのライフラインがどう復旧していくのか?』など、日頃から飲料水・電気・ガスといったエネルギーに関心をもって、そうした基礎的な部分を子どもたちに伝えていくことが大切である」と指導者側の意識変化への取り組みを訴えた。
北氏が提案した、エネルギー教育の指導の流れについては、日本ガス協会と日本教育新聞社が共同開発した『単元「住みよいくらし」授業支援パッケージ』を活用して実践することが可能だ。
「住みよいくらし」授業支援パッケージ
http://www.kyoiku-gas.com/
「自然災害からくらしを守る」授業支援パッケージ
https://www.lifeline-kyoiku.com/