「長寿命化改修」のための補助制度を活用して、学校に快適なトイレ環境を
12面記事老朽化対策の最優先課題としてリニューアルが進む
公立小中学校の約7割が建築後25年以上を経過しているなど、学校施設の老朽化が著しい。文部科学省では、厳しい財政状況の下で効率的・効果的に老朽化対策を進めるため、従来のように建築後40年程度で建て替えるのではなく、コストを抑えながら建て替えと同等の教育環境を確保する「長寿命化改修」への転換を進めている。
こうした中、改修を進める自治体が最優先課題として挙げているのがトイレ改修になる。トイレは子どもが一日に何度も使う場所で健康面にとって重要になるとともに、「明るいトイレで学校の雰囲気がよくなった」「生活マナーが向上した」など教育効果も大きいことが指摘されているからだ。
洋式化や多目的トイレのニーズが高まる
日本教育新聞社が全国の自治体に実施した「学校施設・設備整備の課題に関する調査」でも、建物の性能向上と防災機能の強化の両面から、トイレ改修への取り組み意識が高いことが分かっている。本調査で学校施設の性能向上について「すでに整備に取り組んだこと、今後取り組む予定のあること」(複数回答)について聞いたところ、最も多い482自治体が「洋式トイレの整備」と回答した。これは、夏の猛暑対策に向けて急ピッチで進められている「空調(冷房)設備の導入」より多い。
もともと高度成長期に建てられた校舎では、トイレの大便器に和式が占める割合が高く、今や時代にマッチしていないこと。しかも、築年数が経つにつれて「臭い、汚い、暗い」といった声も多くなっていくことから、なるべく早期に改修する必要性が指摘されている。だからこそ、学校施設の性能向上として「トイレの洋式化」を真っ先に進める意図はよく理解できる。
また、災害時に避難所を兼ねる学校には防災機能の強化が求められているが、ここでも同じ質問に対し、最多の328自治体が「多目的トイレ」と回答した。避難所では高齢者や車いす使用者など多くの人たちが共同で利用するため、こうした点を踏まえたトイレ改修を進める必要性が、これまでの災害の教訓からも指摘されているからだ。
ふだん当たり前のように使っているトイレが使えなくなったり、不衛生で使いづらくなったりすることは避難者のストレスを高め、健康悪化の引き金になる。その重要性は、政府が進める防災・減災、国土強靱化のための緊急対策でも示されているが、マンホールトイレなど災害用のトイレと併せて整備に力を入れてくことが必要になる。
国庫補助で地方の負担率は26・7%に
トイレ改修にかかる財政面の手当てとしては、「長寿命化改修」の補助金がある。国の補助率は3分の1だが、地方財政措置も合わせると、実質的な地方の負担率は26・7%になることから、自治体においてはぜひ積極的な活用を期待したい。
文部科学省でもトイレの改修は学校施設全般の環境向上や機能改善にもつながり、改修の効果を期待しやすい場所と捉えており、「学校施設の長寿命化改修の手引」の中で、学校のトイレを改修する際の注意すべき点や空間づくりのヒントなどについて解説をしている。
その上で、特に注意すべき点としてトイレ改修は配管・天井・壁面等の本体工事以外の整備に係る割合が大きく、実質的には老朽化対策と同様の整備実態となっていることを示唆。そのため、自治体においてはトイレを含めた建物全体に係る中長期計画を策定すべきとしている。
学校生活を豊かにするトイレ改修の工夫
では、洋式化以外でトイレ改修には、どんなことに配慮すればいいのか。「学校生活を豊かにする空間づくり」としては、荷物置場やプライバシー性の高い個室ブースを設置することで、子どもたちの憩いの場や落ち着く場としたり、ベンチや対面式の手洗いを設置したりすること。明るく楽しい色や仕上げとすることや、木材を使って落ち着いた雰囲気にすることなどが考えられる。また、使用する子どもの体格に応じて手洗いの高さや便器のサイズなどを検討することなど、発達段階に応じた設計も大事になる。
あるいは、「自分たちのトイレ」という意識を高めるため、計画段階で子どもたちが参加したワークショップを開催したり、児童生徒によるデザインを採用したりする取り組みをすること。いつもきれいにしておく工夫としては、汚れの落ちやすい特殊タイルや出入口の扉をなくして通風を確保すること、ドライ方式の床で履き替えなしで利用できるようにすることも有効だとしている。なお、「手引き」ではこうした工夫を取れ入れた学校の改修例も紹介されている。
令和2年度の概算要求で改修予算を大幅増
文部科学省の令和2年度の概算要求では、学校施設の長寿命化改修を含めた「教育研究環境の改善」として前年度から約2千7百億円増となる予算を要求している。
トイレは重要なライフラインであり、子どもたちが伸び伸びと学校生活を行う上では、豊かな環境を提供することが不可欠だ。しかし、これまで学校のトイレ環境はお世辞にも大事にされてきたとはいえず、むしろ光が当たっていなかったといえる。
こうしたなか、文部科学省の令和2年度の概算要求では、学校施設の長寿命化改修を含めた「教育研究環境の改善」として前年度から約2千7百億円増となる予算を要求している。せっかく手当てされた予算を無駄にしないためにも、今の時代にふさわしい、明るくて楽しくなるようなトイレ環境を学校に整備してほしい。