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赤ちゃんには愛情が不可欠 看護の出前授業通し、いのちの尊さを学ぶ

8面記事

企画特集

妊婦ジャケットを着てその大変さを実感

埼玉・上尾市立上尾中学校

 公益社団法人日本看護協会と日本教育新聞社が共同で主催する「みんなで話そう―看護の出前授業」は、主に中学・高等学校に、看護職(保健師、助産師、看護師、准看護師)が出向き、生徒にいのちの大切さや看護の役割についての授業を行っている。7月に埼玉県内で行われた授業の様子を取材した。


761名の生徒たちを中心に行われた出前授業

 「みなさんの『命』は、はるか昔から脈々と受け継がれてきているとても大切なもの。今日はこのかけがえのない命について現場で直接携わっている、助産師の方からお話をうかがいます」
 冒頭の校長の言葉に否応なしに高まる、生徒たちの期待感。
 7月17日(水)の3時間目。埼玉・上尾市立上尾中学校(西倉剛校長、生徒数761人)の体育館に2、3年生の生徒たちと、保護者(母親たち)や学校薬剤師・薬学部実習生らが参加して、2年連続の“命の授業”が始まった。
 この授業は日本看護協会と埼玉県看護協会が実施する「みんなで話そう―看護の出前授業」。それぞれの地域の看護職の方々が学校に出向いて「いのちの大切さ」や「こころとからだ」、またキャリア教育にも役立つ「看護職に向けた進路」などについて授業を行うもの。これまでに全国で年間約400校以上のべ4万人の児童生徒が活用している。
 今回の講師は県内の戸田中央産院の助産師・嵯峨晴恵氏。昨年も同様に同授業の講師を務めている。

特殊ジャケットで男子も妊婦体験
 「上尾市では昨年何人の赤ちゃんが生まれたと思いますか? 3000人? 4000人?」。嵯峨氏の質問に考え込みながらも挙手で答える生徒たち。「正解は1513人です」。加えて、一人の女性が出産可能とされる、15~49歳までに生む子どもの数の平均=「合計特殊出生率」といった専門的な話にも触れていく。また自身の助産師という仕事についても「助産師とは、読んで字の如く赤ちゃんが生まれてくるのを助ける職業です」と分かりやすく説明する。
 さらには「命の始まり」として妊娠の仕組みから、望まない妊娠と人工妊娠中絶についても解説しながら「私は24~29歳の間に子どもを産みました」と話し、この自身の“人生の選択”についてとても満足していることを紹介。こうした充実感を得るには「正しい妊娠の知識を持つことが大切」と強調し「みなさんには、今から将来を見つめて考えてもらいたいですね」と呼びかけた。


生きている証=心音を聞く

 次は胎児の成長の過程。ご自身のお子さんをモデルに、PPTを使って説明していく嵯峨氏。次に1人の生徒を呼んでマイクを心臓に近づけると、ドクンドクンと生きている証=心音が体育館内に響き渡る。続いては「ぜひやってみたい!」と挙手した男子生徒を呼んで、妊婦ジャケットを着てもらい、にわか妊婦体験。着用した生徒は歩いたり跳んだり、下に落ちているものを拾ったり、洗濯物を干すしぐさをしながら、妊婦の大変さを実感した様子だ。さらには男子生徒や男子教諭に、赤ちゃんと同じ大きさと同じ重さの人形を抱っこしてもらう体験も。すると「抱っこ」とひと言でいっても、予想以上に重くいかに大変かを実感していた。

フリードリヒ2世から愛情の重要さ学ぶ
 次は出産の説明。経腟分娩と帝王切開の違いを説明した後、出産のDVD映像を上映(事前に西倉校長に許可済み)。出産時のお母さんの様子から、無事生まれた時の周囲の大人たちや、兄弟姉妹が笑顔で祝福している様子を見せ「みなさんが生まれた時も、周りの大人はみんな喜んでくれたんですよ」と語りかける嵯峨氏。その雰囲気とスキンシップがどれほど重要なのかを「フリードリヒ2世の実験」を示しながら語りかける。
 これは、800年前に神聖ローマ帝国の皇帝・フリードリヒ2世が、50人前後の赤ちゃんに行った極めて残酷な人体実験。乳母や看護師が赤ちゃんの面倒を見る際に、十分な栄養=ミルクを与える一方で

 ・目を見てはいけない
 ・笑いかけてもいけない
 ・語りかけてもいけない

 ―と、触れ合い=愛情を一切禁じて育てると、赤ちゃんは全員が死んでしまったというもの。この話を紹介しながら「赤ちゃんは、栄養が満たされても“心”が満たされないと育たないんです。つまり中学生になったみなさんは、『愛された歴史を持つ人』でもあるんですよ」と語る。
 そして最後に「いのちのつながり」について取り上げる。「今、ここにいるみなさんの命は、途切れることなく先祖から受け継がれてきた命なのです。人類誕生以来、200万人以上の尊い命を受け継ぎ引き継いで、今、ここにあなた方がいるのです」と嵯峨氏。「ですから人には一人一人違いがあって、それは良い事であり尊重すべきこと。みなさんはそんな多様性を認める柔軟な大人になって、世界に向けて羽ばたいていって欲しい。そして何よりも生まれてきてここまで育ってくれて有難う」と呼びかけ授業を締めくくった。
 終了後には嵯峨氏に対して、生徒たちから花束と「赤ちゃんにはたくさんの愛情が必要なことがよくわかりました。本日は本当に有難うございました」という感謝の言葉が贈られた。

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