問題解決型授業とは? 暗記教育を脱皮して「生きる力」を育成
トレンド中学、高校、大学で社会の課題解決を生徒、学生に考えさせる授業が広がってきました。「問題解決型授業」や、「課題解決型授業」と呼ばれるもので、知識の暗記に代表される受動的な教育を脱し、自ら問題を見つけて解決する能動的な学習を目指しています。新しい学習指導要領では、目標に掲げた「生きる力」を構成する要素の1つとして問題解決ができる学力を挙げています。今後、さらに増えそうな問題解決型学習の現状をまとめました。
学習指導要領で従来から推奨へ
学習指導要領の総則では、従来問題解決型学習を重視することが記されてきました。現代は新しい知識や情報、技術が日進月歩を繰り返し、社会や経済が大きく変わろうとしています。こうした激動の時代では常識とされる知識を学ぶだけで生き残ることが難しくなります。
そこで、学習指導要領は自らが課題を見つけて解決する力を子どもたちに求めています。問題を自分で解決するには疑問を持って情報を収集し、問題点を理解したあと、対策を考えて実行する必要があります。人生は毎日が問題解決の連続です。先が読めない時代になればなるほど頼れるのは問題解決能力といえます。
課題解決に導くまでの過程を重視
問題解決型授業は生徒や学生の主体性を育み、多面的に考えるきっかけを与えることが目的です。正しい答えにたどり着くことを目指すのではなく、課題を解決に導くまでの過程を重視しています。
問題解決型授業は20世紀に、米国の教育学者ジョン・デューイが初めて教育現場で実践しました。デューイは教育の本質を個人が社会環境との相互作用という経験を改造することだとし、そのための手法として問題解決型授業を提唱しています。
ジョン・デューイの個性観とは教育の対象となる児童、生徒は成長の可能性がある存在だと考えられています。
アクティブ・ラーニングと同じ着地点
問題解決型授業は、文部科学省が推奨するアクティブ・ラーニングを実現する方法として注目されています。アクティブ・ラーニングは児童、生徒や学生が受動的となる授業ではなく、能動的に学ぶ学習方法を指します。
欧米ではアクション・ラーニングや参加者中心型学修などと呼ばれ、子どもたちから社会人まで幅広い層を対象とした教育手法として確立されています。目指すのは正解のない議論のなかで問題解決に向けたアプローチ方法を身に付けることです。問題解決型授業と同じ着地点を目指しているわけです。
代表的な事例がチュートリアル型授業
問題解決型授業の進め方はいろいろと考えられますが、代表的な例の1つがPBL(Problem―based learning)チュートリアルです。
浜松医科大学で実践しているPBLチュートリアルでは数人の小グループに1人のチューターと呼ばれる担当教員を置き、チューターから課題を提示します。それを受け、一人ひとりが問題点を見つけて解決策を考えます。
問題を把握して問題点の性格を明らかにする能力、科学的な根拠に基づいて論理的な思考と科学的な検証で問題を解決する方法、チームの一員としての協調性などを身に付けることなどを目標としています。
企業や自治体と連携する実践体験型も
実際に社会と連携しながら学習を進める実践体験型と呼ばれる進め方もあります。連携する相手は地方自治体や民間企業です。学校外の組織と連携するため、十分な準備と調整が必要となり、実施のハードルが高くなってしまいます。
しかし、実社会で役立つ知識を身に付けられ、通常の授業で学べる以上の成果を上げることが可能です。生徒や学生自身がプロジェクトを発案するケースと、学校側から与えられたテーマについて取り組む方法が考えられます。
ディベートやロールプレイングも有効
問題解決能力を高められる方法は他にもあります。
討論ゲームのディベートを英語や社会の授業で取り入れるのも効果的です。ディベートで良い討論をするためには、単に知識を示すだけでは不十分。聞き手が納得できる明快な説明と同時に、論理的な思考と課題発見能力、問題解決力が欠かせません。
小さな子どもにはロールプレイング、つまり「ごっこ遊び」が良いでしょう。アドバイスしても聞き分けてくれないときに、問題となりえそうな状況を想定したごっこ遊びをすれば、子どもも理解しやすいです。別の人の立場を演じることで多様な視点から物を見る力を身に付けられます。
小・中・高等学校は総合的な学習の時間で生きる力を育む
総合的な学習の時間では1つの教科にとらわれず、主体的に問題解決能力の習得や生き方を自覚させ、自分にとっての学ぶ意義を認識させることで「生きる力」を身に付けます。
高等学校の場合は「総合的な探求の時間」と名称が変わり、より質の高い学習として授業を行います。自己の在り方・生き方を探求しながら、問題解決能力を育成することが目的です。
実際に行われた総合的な学習の時間では、中学校3年生を対象に地域の環境について調査し、問題点を見つけ、解決策を考える授業がありました。主な活動内容は、調査やデータの整理・分析、プレゼンテーションなどです。この環境調査を通して、子どもたちに主体的な問題解決の態度と道筋を考える能力を高める狙いがあります。
はこだて未来大学が地域課題解決で実践
北海道函館市にキャンパスを置く「公立はこだて未来大学」は、3年生必修の授業としてプロジェクト学習を取り入れています。異なる学科やコースの学生でチームを編成し、解決する地域の課題を選びます。
問題点の抽出、検討を進めて問題解決の方向を示したあと、実際にシステム開発や作品づくりを行って実践し、最後に発表会で成果を報告しています。学生が選んだ課題も地域に根差すプラネタリウムの開発や函館紹介の番組制作などさまざまです。
日ごろの授業に少しの工夫で効果が期待
生徒や学生の問題解決力を高めるには、さまざまな手法があり、実際の教育現場で次々に取り入れられています。日頃の授業に少し手を加えることで効果を高めることが可能です。教員もセミナーや研修に参加して指導方法を身に付けておくと良いでしょう。