教師の悩みは、すべて小説に書いてある
16面記事『坊っちゃん』から『告白』までの文学案内
波戸岡 景太 著
心を軽くするヒント、文学から探る
教師の悩みは尽きない。児童・生徒への対応、増え続ける保護者からの苦情、大量の事務業務、メディアでブラックと揶揄される学校の現状など、数えきれない。こうした教師を取り巻く環境をどう変えたらいいか、何をどう改善したらいいか、多くの教師は茫然と立ちすくみ、取りあえず目の前のことをやっておこうという心境になる。
しかし、本書は、そうした悩みは小説の中にあると言う。確かに小説には、いろいろな先生が登場してきた。その知見を学ぶのは悪くない。
ここでは「坊っちゃん」「銀の匙」「銀河鉄道の夜」「告白」など盛りだくさんに小説が取り上げられている。それをどう料理したかは本書にお任せするとして、一例に田山花袋の「田舎教師」を見てみよう。
「どうせ教えずには済まされぬ身である。どうせ自分のベストを尽すより外に仕方がないのである。人が何と言おうが、どう思おうが、そんなことに頓着していられる場合ではない。こう思ったかれの心は軽くなった」。その記述に著者は、「田舎教師」が1909(明治42)年に発表されたとは信じられないと書く。確かにこの心情は今の教師の心情と同じだ。
本書は現代の教師の心情を酌み取り、それをサポートしていきたいという姿勢である。それが文面からあふれていることが、うれしい。
(2052円 小鳥遊書房)
(手島 純・星槎大学教授)