しょうせつ教育原論202X
16面記事相馬 伸一 著
教育の理念や歴史を小説形式で
書名に「しょうせつ」とある。はて? 巻末の著者インタビューで分かった。「小説」と「詳説」なのだ。これを手掛かりに、書評に挑んでみたい。
まず「小説」。本書は、教員を目指す大学生で軽いスマホ依存癖のある開君と、豊富な教員経験を積んだ元校長の祖父ケイさんとの教育を巡るやりとりをモチーフにしている。大学の講義にうまく乗り切れない開が、祖父のアドバイスを受けて学びに目覚めていく様が描かれる。受けた講義内容をブログに立ち上げ、祖父が書き込みをして対話するという今風の構成がユニークだ。
次は「詳説」。本書は、教職課程の必修教科・教育原理の教科書を意図している。評者も担当していたが、教育の理念・歴史・思想等は学生にとって正直、なじみづらいところがある。本書は、ブログに毎週の講義内容を載せるという手法である。易しい語りで高度な内容を親しみやすく理解しやすくしているといえる。
本書は学生たちの教材であるが、教育の根本ともいえる内容が網羅されており、しかも、豊富な読書案内が本文のみならず引用文献、参考文献として提示される。文中の祖父の言も実践人として示唆に富む。それを学生だけが享受できるなんて不公平ではないか。読まなければ損だ。これが今の率直な評者の読後感である。
(2808円 晃洋書房)
(八木 雅之・元公立小学校校長)