食育は幼児期に進めたい?食への知識を深めて命の大切さを知る教育
トレンド時代の変化とともに日本人の食生活が大きく変わるなか、食事や食べ物に関する知識を教える食育へ注目が集まっています。国や地方自治体など、さまざまな団体が食育に取り組んでいますが、朝食をとらない子どもや若者が後を絶たず、小児肥満も増えたままです。今こそ幼児の段階から食育と向き合う必要性が高まっているといえます。
食育基本法で政府が活動を推進
食育という言葉が広く知られるようになったのは、2005年に制定された食育基本法がきっかけです。
食育基本法は食育について、食に関する適切な判断力を養い、生涯にわたって健全な食生活を実現できるための教育と規定しました。地域や学校、保育所などあらゆる場所で活動を実践するよう求めています。
食育は子どもだけを対象としたものではなく、国民全体が対象です。
農水省では6月を「食育月間」、毎月19日を「食育の日」と定め、幼児から大人までを対象としたイベントや講演会を全国各地で開いてPRしています。
増え続ける朝食抜きや小児肥満が背景に
子どもたちの食生活に乱れが出てきたのは高度経済成長期からといわれています。核家族化や夫婦共働きの家庭の増加などによって、子どもが1人で食事する機会が増えました。
1970年代には米国発のファストフード店やコンビニエンスストアが相次いで日本に上陸し、手軽に食事をとれる環境になりました。その結果、子どもたちが好きなものばかりを食べ、栄養が偏る傾向が表面化してきました。
また、朝食を食べない子どもや小児肥満が増加したのもこの年代からです。
農水省の2018年度食育白書によると、朝食を抜く小学生は全体の5.5%、中学生は8.0%に上り、増加傾向が続いています。小児肥満については急増に歯止めがかかりつつありますが、日本小児内分泌学会は子どもの約1割が肥満傾向とみています。
食育効果はさまざまなデータで実証
食育では家族と一緒に朝食をとることや、農林水産業の体験を推奨しています。これらを実践することでどのような効果があるのでしょうか。
農水省は家族といっしょに朝食をとることで規則正しい生活ができ、栄養バランスが整った食事をできるとしています。農林漁業の体験をすることで、食に対する関心や感謝の気持ちが高まり、食事の好き嫌いが減るという効果もあります。
さらに、朝の疲労感や体の不調が少なくなり、ストレスが減少するほか、食に関する知識が豊富になることで健康を考えた食事選びも期待できるでしょう。
文部科学省の調査では、朝食をしっかりとる子どもほどペーパーテストの得点が高い傾向が見られました。どうやら食育はさまざまな効果を秘めているようです。
全国の幼稚園、保育所が食育に工夫
食育基本法の制定から15年近くがたち、幼稚園や保育所でもさまざまな食育が進められるようになってきました。厚生労働省は食育推進のため、保育所保育指針で次のような子どもに育てることを掲げています。
1・お腹がすくリズムのもてる子ども
2・食べたいもの、好きなものが増える子ども
3・一緒に食べたい人がいる子ども
4・食事づくり、準備にかかわる子ども
5・食べものを話題にする子ども
こうした姿に育つことを目指して保育所では食育に工夫を凝らしています。
・最初の一歩に効果的な絵本や紙芝居
幼稚園や保育所で最初に食育と接する際、よく使われるのが絵本や紙芝居です。
絵やイラストで表現すれば、言葉が十分に分からない段階の幼い園児の興味を引きやすく、食育の第一歩になります。
神奈川県相模原市の保育所では、絵本の読み聞かせをしたあと、絵本に出てきたおやつを出しています。食育用の絵本は多数出版されるようになり、家庭でも入手しやすく、幼稚園や保育所に入る前から親子で一緒に学べます。
・クイズやゲームで楽しく学ぶところも
クイズやゲームで遊びながら、食べ物について学ぶのも園児の興味を引くのに効果的です。
千葉県柏市の保育所では3歳児クラスで野菜当てクイズを出し、どのような野菜があるのか学んでいます。玉ねぎやキャベツなど本物の野菜に触れたあと、箱の中に隠された野菜を手で触り、当てていきます。実際に野菜に触れているからか、野菜に対する関心が大きく高まったようです。
・収穫や調理体験で知る食と命の大切さ
園児がある程度食べ物について知識を持ったあとは、農業や調理を体験するとより興味を高めてくれます。
福島県鏡石町の幼稚園では、園児が米やトマト、柿の栽培を体験しています。収穫後には保護者や先生とともに、トマトを使ったパンケーキや干し柿づくりに挑戦。自分が育てた農作物を食べるとおいしさも格別で、命や食の大切さを知る大きなきっかけにもなるでしょう。
・「早寝早起き朝ごはん」で規則正しい生活習慣
子どもの健全な成長に必要な要素として文部科学省が提唱した「早寝早起き朝ごはん」国民運動。
家庭での生活習慣の教育が十分に子どもへ行き届いていないことをふまえ、社会全体で改善することを目的とした「早寝早起き朝ごはん」全国協議会も設立されました。
「早寝早起き朝ごはん」全国協議会の調査によると、朝食や睡眠といった生活習慣が整っている子どもは、学力・体力テストの成績が良いというデータがあります。
健康な身体と心の育成に幼児期から食育を
食べ物に対する知識を深めることは体と心を健康に保つ第一歩です。大人になってから食生活や生活習慣を変えるのは難しく、幼児期に食育で正しい食生活や生活習慣を身につける必要があります。
さらに、命の大切さを学ぶことは人間としての成長につながります。保護者も協力して幼児期の食育を進めていきましょう。