保護者からの欠席連絡にICTを活用
14面記事教員と保護者双方に利便性が高い仕組み
シンプルな画面で誰でも直観的な操作が可能 教員の長時間労働の常態化の解消に向けた「学校の働き方改革」が課題になる中で、ICTを活用して業務を効率化することが期待されている。ここでは、文部科学省学校業務改善アドバイザーであり,保護者からの欠席連絡にICTを活用した効果を分析した東京学芸大学の高橋純准教授に話を聞いた。
高橋 純 東京学芸大学准教授
達成感を味わえる活動
教員の業務負担を減らす取り組みの1つに、横浜市が昨年7月から実施している勤務時間外における留守番電話の設置があります。保護者とのコミュケーションを充実させつつも,業務改善にどのように取り組むべきかが課題となっているといえます。
そこで、本調査では児童数992名の神奈川県内の小学校を対象に、保護者からの欠席連絡を従来の電話利用に加えて、インターネットでも連絡を行えるようにしたことで、学校の業務及び教員や保護者にどのような影響を及ぼしたかについて検証しました。
今回、欠席連絡のために活用したシステムは、本来は総合的な学校・保護者間のコミュニケーション機能が実装されているものでした。しかし、こうしたシステムの導入の際は、不慣れな操作からトラブルが生じたり、保護者からの連絡がメールになったりすることで、かえって業務負担が増えてしまうことも考えられます。そのため、まずは実際に運用を始めることを優先し、欠席連絡の機能のみを活用できるようにしました。
利用方法は、保護者から学校への一方向の連絡のみにするほか、欠席の理由も含めて選択肢のみに限定。保護者からの欠席連絡を学校が確認すると、既読状態となることで保護者が確認できる仕組みにしました。また、利用者は1名の児童に対し、父、母、祖父母、親族等の続柄を登録。欠席理由は、病欠、事故欠、出席停止、忌引きから選択できるほか、病欠はかぜ、下痢、頭痛、発熱等、出席停止はインフルエンザ、水痘、麻疹等が選択できるようにしました。その上で、合意してくれた保護者を対象に865名の児童が本システムを活用しました。
約3割がシステムを活用
本調査では、2017年6月12日から2019年2月19日までのログを分析対象とし、自動的に記録されるログのうち、連絡の日時、連絡者属性について分析することにしました。その結果、期間中に本システムを通じて欠席連絡が行われたのは3680件で、土日を含めた平均は1日あたり6・0件。月別では2017年度で最も多かったのは1月の340件で、これは翌年度も354件と同様でした。また、8月は両年度とも0件でした。
さらに、曜日別で最も多かったのは火曜日で、少ないのは土曜日。時刻別で最も多かったのは7時台の1775件でした。連絡者の続柄では母親が9割を超えており、その次に父親、親族という結果になっています。
では、肝心の活用率はどうかというと、2019年1月8日~2月19日の調査期間における欠席数は1725件で、システム経由は498件でした。この時期はインフルエンザで連続して欠席することを考慮すると、活用率は32・4%と試算できました。
なお、教員へのインタビューでは「感覚的には半数以上が本システムによる連絡と感じている」「朝の時間帯に電話対応が減った実感はあるが、多忙感がなくなったということはない」という意見が聞かれました。
朝の多忙時の業務改善に貢献
本システムで3680件の欠席連絡があったということは、その数だけ電話連絡が削減できたと考えることができます。 また、土日や真夜中など電話であれば連絡が難しいタイミングでの連絡も見られたこと。欠席連絡のピークになった朝7時台は教員にとっては勤務時間外であり、多忙な朝の時間帯に時間が拘束される機会が減ったことを踏まえると、教員の業務改善に貢献できたといえるのではないでしょうか。私自身色々な事例を観てきましたが、教員の働き方改革には特効薬がない、できるところから1つ1つ改善していく必要があるというのが率直な感想です。
一方、保護者にとっても、都合のよい時刻に連絡できることは利便性が高いと思います。実際、欠席連絡を友達に持たせる学校も多く、保護者から見れば学習塾や習いごと教室は欠席連絡をアプリで行っているのに、いかにもアナログだと感じているはずです。しかも、両年の2学期の合計件数の比較では1年後の方が2割ほど増えていることを考えると、教員と保護者双方から利便性が認められ、その結果、定着が始まっているといえるのではないでしょうか。