日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

学校の“暑さ対策”に向けた備えと対処

10面記事

企画特集

災害レベルの暑い夏がやってくる

 これから迎える夏の季節は、学校管理下における熱中症事故が気がかり。特に気温が急に上がって湿度が高い日や屋外でのスポーツ活動は危険性が一層高まるため、指導者には事前の知識と適切な対処への備えが必要になる。そこで、本特集では子どもたちを熱中症から守る、さまざまな「暑さ対策」を紹介する。

喫緊の課題に位置づけられた熱中症対策

年々酷暑が増す日本の夏
 政府は熱中症搬送者数や死亡者数の急増する7月を「熱中症予防強化月間」と定め、国民や関係機関への周知等を強化して、熱中症の発生を大幅に減らす予防の取り組みを推進している。事実、昨年の7月23日には、埼玉県熊谷市で観測史上最高の41・1度を記録。東京都内でも観測史上初めての40度超えとなるなど、この7月に最高気温を更新した地点は全体の1割強に達する113地点に上った。
 しかも、現実的には都心に近づくほどビルの冷房排気熱や車の排気熱、アスファルトの照り返しなどによって気温・湿度が上昇しており、夜中になっても気温が下がらないなど肌感覚としての不快感も大きくなっている。また、昨年の4月末~9月末の熱中症による救急搬送者数も全国で9万5千人を超え、2008年の調査開始以降で最多となった。
 すなわち、猛暑日(最高気温35度以上)や真夏日(最高気温30度以上)がもはや当たり前に続くといったような災害レベルに近い異常な事態が、日本の夏に起きていることを自覚する必要が生まれているのだ。

全教室エアコン整備 に向けて822億円を計上
 このような夏季の気温上昇により、児童生徒の熱中症事故への危険性が高まっている。しかし、公立小中学校の普通教室における空調設置率は5割にも達していないこと。また、都道府県別のエアコン設置率も「予算付けの優先順位の問題」という側面が大きいことから、平均気温の高さに関わらずバラつきがあるなど、地域格差が生じている。
 そのため、政府は平成30年度の補正予算で全普通教室17万室を対象にエアコンを設置するための費用として822億円を確保。熱中症対策を喫緊の重要課題に位置づけ、全国の地方公共団体に今年の夏までの設置完了を求めているところだ。
 さらに、学校の体育館や武道場など屋内運動場にいたっては、ほとんどの施設でエアコンが整備されていない。学校行事やスポーツで日常的に活用するのはもちろん、災害時は地域の避難所となる大事な拠点でありながら、その手当てが遅れている。とはいえ、普通教室へのエアコン整備が優先されていることや、これだけ広い空間にエアコンを導入するとなれば教育予算だけでは賄いきれないところも多い。そこで、地域によっては防災対策の予算を使って、大型扇風機やスポットクーラー、冷水機などを導入する動きが広がっている。

運動中には水分と塩分の補給を
 学校管理下における熱中症予防には、こうした環境面での対策はもちろん、指導者がその時の気温・湿度を把握し、常に子どもたちの状況を観察することが重要になる。そのためには暑さ指数(WBGT)などを参考に運動を制限するなどの対応を図るとともに、いざというときの適切な処置にも知識をもっておくことが必要だ。
 熱中症とは、高温環境下で体内の水分や塩分(ナトリウムなど)のバランスが崩れたり、体内の調整機能が破綻したりするなどして発症する障害のこと。しかも、真夏の気温が高いときだけでなく、梅雨明けの急に暑くなったときなど季節の変わり目に多く発生する傾向があるため、熱中症の要因となる脱水状態を引き起こす高温多湿な室内の環境にも注意を配りたい。とりわけ、子どもは年齢が低いほど体温調節機能も未熟で、発汗量が少ない傾向にある。したがって思わぬ事故となる場合があるため、大人以上に注意する必要がある。
 また、脱水症の症状としては、軽度ではめまい・ふらつきなど、口の中が渇いたように感じるほか、中等度では頭痛・吐き気など、汗や尿の量が減ることで体温が上昇する。高度になると、意識障害・痙攣など臓器不全を引き起こす恐れもある。
 こうした脱水症を予防するには、「汗によって失われた水分を補うこと」がポイントになることから、こまめな水分補給を心がけることが大切になる。特に体育やクラブ活動などで気温が高いときに運動する場合は、水分と塩分の両方を補給でき、汗で失われた電解質を適切に補えるスポーツドリンクや経口補水液(OS―1等)などの飲料を飲ませることが重要だ。
 なかでも、経口補水液はカラダが失った体液を補う水として、軽度から中等度までの脱水症への使用に効果があり、点滴治療よりも安全かつ簡便に扱えるメリットがある。そのため、最近では保健室や部室などに常備しておく学校も増えているほか、子どもでもむせにくいゼリー・タイプも発売されるなど用途も広がっている。


大塚製薬工場の経口補水液「OS-1」シリーズ

減らないスポーツ活動中の救急搬送
 近年では、このような熱中症予防に対する理解が学校の指導者にも広がる中で、国内全体では増加している熱中症死者数だが、学校管理下においては減少傾向にある。しかし、気温が上昇しているためかスポーツ活動中の救急搬送は減っていないため、指導者はもちろん、子どもたち自らが熱中症などの事故を回避できる能力を育成することにも、より一層力を入れていく必要があるだろう。
 なお、学校の管理下における熱中症死亡者は、6月から10月にかけて多く、特に7月~8月の2ヶ月で全体の約9割を占めている。また、野球やラグビーなど屋外で行うスポーツに多く発生しているが、屋内の防具や厚手の衣服を着用する剣道や柔道でも多く発生している。しかも、長時間にわたって行うスポーツ活動で多く発生していることから、部活動全般で気温の高い日はランニングを控えて、休憩や水分補給を多くするなどの対処が必要であり、マラソンや遠足、登山などの学校行事においても同様に配慮しなければならない。加えて、学年別の発生では中・高等学校とも下級生が多く、高校1年が最多になるほか、全体では男子が9割を占めていることも覚えておきたい。


気温の高い日はランニングを控えよう

 このような学校現場における熱中症予防の強化には気象庁も乗り出しており、「熱中症ゼロへ」プロジェクトの一環として、WBGT値が計測できる黒球付熱中症計を全国の学校100箇所に提供するキャンペーン(応募締切5月17日)を行っている。
 いずれにしても熱中症は、気温・湿度の上昇に注意し、こまめな水分補給に気を配るとともに、運動するときは水分や塩分の補給ができる環境を整え、適切な摂取を行うことを心がければ十分防ぐことが可能になる。今年も厳しい夏になることが見込まれている中で、子どもたちの命と健康を守る環境づくりに努力するのが、学校の使命である。ぜひ、暑さ対策に対する正しい知識と備えを持って指導にあたり、気温の上昇するこれからの季節を乗り切ってほしい。

企画特集

連載