知財創造教育【第8回】教員や保護者等へのアプローチ
NEWS知財創造教育の推進に対する理解を促進するため、パンフレット(注1)、専用ウェブサイト(注2)及びFacebook(注3)を活用した情報発信を行う一方、知財創造教育の関係者に対する直接的なアプローチも行っています。今回は、その状況について紹介します。(文=仁科雅弘・内閣府知的財産戦略推進事務局参事官)
(1)教員へのアプローチ
知財創造教育の推進のためには、学校教育の現場を担う教員が知財創造教育の必要性や内容、指導方法について理解が不可欠との指摘が知財創造教育推進コンソーシアム等においてなされてきました。
これを受け、知財創造教育の体系化の成果(第5回連載参照)や教材等の一覧表(第6回連載参照)の普及に加え、特許庁の協力を得て、教員免許状の更新講習や将来の教員を育成する教職課程等の講義での活用を念頭に、小中高等学校において知財創造教育を行うことのできる人材の育成に資するテキストを策定する調査研究事業(注4)を実施しています。このテキストには、学校教育の現場でアクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び)を実践できるように配慮された教材や指導案を含めることとしています。
また、地域コンソーシアム(第7回連載参照)の設置に向けた実証事業において、学校で実施された授業の内容や指導方法を、教員間のネットワークを活用して広めていく試みも行っています。
(2)保護者へのアプローチ
子どもたちに普通教育を受けさせる義務は保護者が負っていることから、保護者の理解なくして知財創造教育を推進することはできません。子どもたちが将来、創造性豊かな人間となることについては多くの保護者の間で異論はないと考えられますが、授業に創造性を育むための仕掛けを導入した結果、本来学ぶべき事項の学習に割く時間が削減され、基礎学力が低下することを懸念する声が一部にありました。
しかしながら、知財創造教育は取組みを開始して間もないこともあり、上記の懸念に直接答えられる材料はありません。ただ、全国学力・学習状況調査の結果(注5)として、児童・生徒に対して、様々な考え方を引き出したり、思考を深めたりするような発問や指導を行ったと回答した小中学校の方が、知識に関する問題と知識の活用に関する問題の双方において平均正答率が高い傾向が見られたことが示されており、知財創造教育の推進が基礎学力の低下につながるものではないことを示す材料として提示しています。もちろん、知財創造教育は、学力テストの正答率向上自体を目的に推進するものでないことはいうまでもありません。
また、地域コンソーシアムの設置に向けた実証事業を行うに当たり、全国国立大学附属学校PTA連合会の保護者の皆様のご理解を得て、知財創造教育を実践していただける学校や先生をご紹介いただいています。
(3)教育関係団体等へのアプローチ
知財創造教育推進コンソーシアムに参画いただいている全国市町村教育委員会連合会、全日本中学校長会及び全国連合小学校長会の各理事会、並びに、日本教育大学協会の評議員会にて、知財創造教育の内容を紹介し、その推進についての理解と協力を求めました。各県の教育委員会に対する周知についても検討しています。
知財創造教育を推進していくためには、これに共感していただける方を少しでも増やす必要があると考えます。今後も多くの方々と対話をしていきたいと思っています。
次回は、知財創造教育の今後の課題について触れます。
(注1)知的財産戦略本部、「知財創造教育」パンフレット
(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tizaikyouiku/pdf/s-1.pdf)
(注2)知的財産戦略本部、「知財創造教育」ウェブサイト
(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tizaikyoiku.html)
(注3)知財創造教育/内閣府フェイスブック
(https://m.facebook.com/知財創造教育-1810185749248516/)
(注4)平成30年度産業財産権制度問題調査研究、「小中高等学校において知財創造教育を実施できる人材の養成に必要なテキストに関する調査研究」
(注5)国立教育政策研究所、「平成29年度全国学力・学習状況調査の結果(概要)」、2017年8月28日、p.6
(http://www.nier.go.jp/17chousakekkahoukoku/index.html)