信じて　引き出して　生かす
井上　信子　著
幼から大　各段階の事例紹介

　本書は「自己実現の心理学」を足元から堅実に発展させようとするもので、「事例にみる自己実現への誘い―教育相談と授業・心理臨床」と「教育相談と教育実践の底にあるもの」の２部構成、全８章からなる。
　I部の１章から５章までは、幼稚園児とその母親から小・中・高・大学生における自己実現の様相を、発達段階に即しつつ、主として教師とカウンセラーの関わりを視野に入れて報告。このうち２章「小学生」では、小学校教諭とカウンセラーが相談を担当したケースを著者がスーパーヴィジョン（SV）、さらにそれを著者の臨床の師である精神科医の神田橋條治氏がSVした新しい試みを収載。また各章の終わりで、ベテラン教師がそれぞれの段階で子どもたちを自己実現に導くための課題と対処を執筆している。
　II部の６章から８章までは教育と相談の基礎となる内容で、例えば「対面して教育を受けるための姿勢はいつ、どのように確立するのか？」「信頼し相談したいと思う教師は、親と子で異なるのだろうか？」「ずっと心に残り、教え子の人生の道標となるような先生とはどんな先生で、その出会いは何を生むのか？」などについて明らかにしている。
　著者のもう一人の師である梶田叡一氏は、今後、人間としての本質的な高次な在り方の追究にまで自己実現研究が進められていくことに期待を寄せている。
（３４５６円　金子書房）
（規）