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「生活科」「総合」「外国語」―続く小学校教員試練の季節 下

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教育界を揺るがせたトピック 平成の30年(6)

 「国際的には、国家戦略として小学校段階における英語教育を実施する国が急速に増加している。例えば、アジアの非英語圏を見ると、1996年にタイ、97年には韓国、2005年には中国が必修化を行っている。また、フランスにおいては2007年から必修化されている」(2008<平成20>年1月の中央教育審議会答申)

 グローバル社会に対応するという方向にかじを切った日本としては、使える英語教育は、ある意味必然だったのだろう。
 「音声を中心に外国語に慣れ親しませる活動を通じて、言語や文化について体験的に理解を深めるとともに、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育成し、コミュニケーション能力の素地を養うことを目標」に、2011(平成23)年度から、小学校の新学習指導要領全面実施によって、第5・第6学年で年間35単位時間の「外国語活動」を必修化してきた。
 移行措置の初年度に、日本教育新聞は、教育委員会を対象に緊急調査を実施している。「指導形態」と「課題」の部分についてのみ、紹介する。

本紙緊急調査/年間授業時数「26―35時間」が57%/「指導できる教員の研修」が最大の課題/小学校「外国語活動」導入の実態/全国461教委が回答

指導形態
 現在の外国語活動の指導形態の全体的な傾向について、教委の担当者に聞いたところ、「担任が中心となって指導」が全体の74・4%、「ALTや外部講師が中心となって指導」が25・6%となった。
 新学習指導要領では、「指導計画の作成や授業の実施については、学級担任の教師又は外国語活動を担当する教師が行うこととし、授業の実施に当たっては、ネーティブ・スピーカーの活用に努めるとともに、地域の実態に応じて、外国語に堪能な地域の人々の協力を得るなど、指導体制を充実すること」とされている。
 既に、多くの学校では「担任が中心」の授業が実践されているものの、「ALT、外部講師中心」も全体の4分の1を占めており、今後の課題となっている。
 自治体別に見ると、「担任中心」の割合が最も高かったのが特別区で85・7%。次いで、政令市が76・9%、市が76・2%、町が76・2%、村が66・6%となっていた。
 特に村では約3分の1がALTや外部講師が中心となっていることが分かった。
 自治体別では、村の場合は、ALTなど外部講師の配置そのものは多くないが、配置されている場合は、その依存度が高い傾向がある。今後は担任などが主導して授業ができるような研修体制の充実などが課題になっている。

今後の課題
 最後に、移行期間中の課題について、(1)ALT配置(2)教員研修(3)教材・教具の整備(4)中学校との連携(5)評価のあり方―の5項目を挙げ、その順位を付けてもらった。
 全体では、1位に挙げたのは、「指導する教員の研修」と回答した教委が281で最も多かった。自治体によって、これまでの施策の蓄積などにも差があるが、「中学校とのつながりなど小中連携」を挙げる教委も多い。全体としてALTなどの配置などが進んできた自治体などでは、教員研修、小中連携なども今後の課題になってくる。またALT配置よりも、「英語ノート以外の教材・教具の整備」などのニーズが高い傾向があった。「評価のあり方」は緊急度は低いものの、3位と5位に挙げる教委が多く、自治体によっては今後の課題になってきそうだった。
 自治体別に見ても、最も課題になっていたのは「指導する教員の研修」だったが、政令市、市、町では、次いで「小中連携」を挙げる自治体が多かった。これに対し、特別区では「評価のあり方」を課題視する自治体がやや多く、村では「ALTなど配置」など、人的な条件整備を課題視する自治体も少なくなかった。
 例えば、北海道のある町では「ALTの切り替えの時期で、新任のALTがうまく機能するか懸念している」、茨城県のある市は「ALTを3人確保したが、その研修も課題」を挙げており、担任などの指導教員の研修だけでなく、ALTの資質向上につながる研修を課題視する自治体もあった。埼玉県のある市では「ALTと教員との打ち合わせする時間の確保」を指摘する回答もあった。
 また、岩手県の町教委、広島県の市教委などからは「外国語活動を複式学級でどう指導すればよいかの研究」など、学校や地域の実態を踏まえた課題意識もあった。
 このほか、北海道の町教委、秋田県の村教委からは、「町の特性を活いかしたカリキュラム内容の開発」「現在取り組んでいる内容との整合性」など、指導内容や方法をこの機会に見直すことを課題に挙げているケースも見られた。
<掲載日・2009(平成21)年5月18日>

 指導者の問題は、当初から課題視されてきた。「国を挙げた免許外指導」との厳しい指摘もあった。
 その一方で、英語スキルを高めるために、行政研修だけでなく、民間の英会話スクールに通う教員も少なくなかった。こうした教員の努力で支えられてもいたわけだが、現況のような「教員の働き方改革」議論が盛んな中でも、小学校での英語教育の推進ができたかどうか興味深いところである。
 教員の指導に対する不安を解消するため、文科省は、教材面でもてこ入れを図ってきた。
 最初に使われたのは、「英語ノート」である。その内容を日本教育新聞は、以下のように報じた(記事抜粋)。

新指導要領に準拠した共通教材/小学校「英語ノート」試作版/文部省配布/近く教師用指導資料も

 新教育課程で小学校第5、6学年に週1コマ導入される「外国語活動」をサポートするため、文部科学省は3日、新学習指導要領に準拠した共通教材として「英語ノート」の試作版を作成し、全国550校の拠点校と教育委員会に配布した。教師用のマニュアルとなる指導資料も近く、配布する。
 「英語ノート」(試作版、B5判、80ページ)は、5年生用と6年生用各一冊で「レッスン1」から「レッスン9」まで35時間分の内容。「聞く・話す」を中心に5年用では「世界のこんにちはを知ろう」で、英語、中国語、ポルトガル語など、多様な言語や文化に対する理解が深まるようにした。6年用では「アルファベットで遊ぼう」など英語とともに、アラビア語やロシア語の文字などに触れる内容も。5年用は語数で130語、6年用は150語程度、慣用的な表現は各学年で25程度登場する。
 本年度は、付属CDや教師向け指導資料とともに拠点校などで先行的に使用してもらい、結果をフィードバック、来年4月に、すべての小学校で使用できるように、第5、第6学年の全児童と学級担任などに配布する。
 また英語ノートに準拠した絵カードなどの教材や全国の実践事例などの情報を提供する「小学校外国語活動サイト」を文科省のホームページ内に開設した。
<掲載日・2008(平成20)年4月7日>

 ただ、この共通教材も、教員同様、試練に遭っている。「事業仕分け」の影響が直撃した。

「英語ノート」継続へ意見書/全連小、川端文科相らに提出/「事業仕分け」の廃止判定受け

 全国連合小学校長会(向山行雄会長)は、行政刷新会議の「事業仕分け」で、英語ノートなどの教材整備を進める「英語教育改革総合プラン」が廃止と判定されたことを受けて、11月25日、川端達夫・文部科学大臣と仙谷由人・内閣府特命担当大臣に意見書を提出し、事業継続を要望した。
 要望書は、本社が4月に実施した外国語活動に関するアンケート調査(5月18日付に掲載)の結果を引用しながら、全国の区市町村の6割以上が、学習指導要領の移行1年目で外国語活動を年間26時間以上実施しているのは「英語ノートの力と言っても過言ではない」と強調。特にALTなどの人的資源が少ない町村部ほど英語ノートは活用されており、大きな道標になっているとし、廃止は教育格差の拡大にもつながりかねない重大事と問題点を指摘している。また、実践研究校や研究開発学校の指定事業が廃止された場合、全国規模で外国語活動の進展・充実が大きく後退することは明らかとしている。
<掲載日・2009(平成21)年12月7日>

 「英語ノート」の後継として、作成、提供されたのが「Hi,friends!」である。

小学校英語で新教材/コミュニケーション活動多く/文科省

 小学校の外国語活動の導入に合わせて配布された英語ノートに替えて、文部科学省が新教材「Hi,friends!」を作成した。各単元にグループ活動を取り入れ、子ども同士がコミュニケーションを取る機会を増やしたのが特徴だ。希望した小学校に3月中に直接配布される。文科省が12日正式発表した。
 新教材は1(5年生用)と2(6年生用)があり、各56ページ。前身の英語ノートに比べてイラスト部分が少なく、ページ数にして3割減った。教師用指導書は一部が付属のDVDに移行され、4分の1の40ページになった。
 内容面では、クラスメートへのインタビューや給食のメニュー作りといったペアやグループで行うコミュニケーション活動を各単元の最後に載せている。構成面では、英語ノート2に冒頭に並べてあったアルファベットの大文字・小文字の紹介を新教材では5年生用と6年生用に分けている。子どもの負担軽減を考慮したという。
 英語ノートは平成21年、行政刷新会議の「事業仕分け」で廃止と判定されたが、学校現場から継続を求める声が強かった。今回の新教材は、そうした要望を踏まえて新たに作成された。
<掲載日・2012(平成24)年1月16日<1面>>

 そして、今後は、高学年を「We Can!」が、中学年を「Let’s Try!」が、それぞれ支えていくことになる。

小学校外国語に新教材/6年生で「過去形」登場

 文科省は20日、新学習指導要領で小学校の教科として設ける「外国語科」を来年度から先行実施するための教材を公表し、全国の小学校に配布し始めた。これまでの「外国語活動」のために文科省が作成した教材とは異なり、今回の教材は5年生用でも英文を多く掲載。6年生用では過去形が出てくる。この教材を使って来年4月から外国語活動に加えて15時間は授業を実施するよう求める。
 今回の教材の表題は「We Can!」。新学習指導要領が完全実施となる平成32年度からは検定済み教科書を使って授業を行うこととなるが、30、31年度の授業では、この教材を使う。6年生は英作文もする。
<掲載日・2017(平成29)年9月25日>

小学3、4年の外国語活動「長方形」など単語掲載/文科省が移行措置用の教材

 文科省は8日、来年度から新学習指導要領への移行措置として小学校3、4年生で新たに実施する「外国語活動」の教材を公表した。これまで5、6年生が使ってきた「外国語活動」の教材と同様、英語以外の外国語のあいさつに触れる時間を引き継ぐ一方、掲載した英文・英単語の数は大幅に増やした。新教材名は「Let’s Try!」。
<掲載日・2017(平成29)年12月11日>

 さまざまな支援があるとはいえ、必ずしも英語の専門家でない小学校教員の対応、努力はたたえられるべきだろう。
 新しい学習指導要領ができる前、2013(平成25年)12月に文科省は「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」を策定、公表し、小学校から中学校、高校へと英語教育が充実していく道筋が示されている。
 その先には、高大接続システム改革での大学教育の充実、入試での英語4技能重視が進行中だ。
 各校種がつないだ英語教育の成果が問われるのは、これからだ。
 例えば英語教育、例えばプログラミング教育のように社会の変化、技術の進歩が教育内容の変更を要請することは、今後も予想される。小学校教員の試練に終わりはなさそうだ。せめて人的充実を図り、実質的な負担軽減につなげていきたい。
(編集局)

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