「全国学力・学習状況調査」下
NEWS教育界を揺るがせたトピック 平成の30年(4)
2007(平成19)年度から始まった全国学力・学習状況調査は、2009(平成21)年度まで「悉皆調査」として続いていたが、2010(平成22)年度に「抽出調査及び希望利用方式」へと変更した。
それは、2009(平成21)年8月の衆議院選挙で、民主党が圧勝し、政権交代を果たしたためだ。
政権交代後、脚光を浴びた政治手法に「事業仕分け」がある。
文科省を対象にした仕分け作業でも、全国学力・学習状況調査も取り上げられた。
その様子を日本教育新聞の2009(平成21)年12月7日付から抜粋する。
行政刷新会議 「事業仕分け」/全国学力・学習状況調査 大幅縮減 調査意義認められず/「復活望む」「役割終えた」自治体の反応さまざま
政府の行政刷新会議は11月30日、作業部会による事業仕分けの結果を了承した。仙谷由人・行政刷新担当相は、「最大限評価結果を尊重してほしい」と訴えた。文部科学省は今後、予算編成に向けて財務省などと折衝する。仕分け作業では、一部の自治体が義務教育費国庫負担金を上限まで使い切っていないことが判明。教育関係者からも仕分け人からも全額国庫負担制に改める声が上がっている。また、理数系の教員増など文科省の予算要求の実現への期待感も強い。
全国学力・学習状況調査は、来年が4回目に当たる。2年前、小6で受けた生徒にとって2度目の調査になる。そのため、文科省では「前回との比較をする上でも大切な調査」と意義を訴えてきた。しかし、事業仕分けの評価は「予算要求の大幅縮減」だった。
「この調査で子どもの学力の変化がなぜ分かるのか」。仕分け人の質問が集中したのが調査の目的だ。全国の児童・生徒の学力の経年変化を調べたいのか、それとも個々の子どもの学習状況を知りたいのか―。
前3回の調査でも、調査問題をめぐって、「レベルがやや難しくなった」「問題量が多くなった」などと、年ごとのばらつきが指摘されていた。全国の児童・生徒の学力の変化を把握するためには、こうした点が統一されなければ正確な結果は得られない。
一方、全国学力調査に否定的だった民主党政権に交代後、文科省は悉しっ皆かい調査を改め、40%の抽出調査に方針を転換。来年度分の予算では、前年度の6割程度の約36億円を要求していた。が、「全国的な傾向を調べるには40%という抽出率は多すぎる」「実施するなら、抽出率をもっと下げるべき」とはねつけられた。
概算要求では、抽出方式に変えた後も、希望する市町村や学校には無料で問題を配布するとしている。だが、今回の仕分け結果からは、そのための予算を確保できるかどうかも不透明だ。
全国学力・学習状況調査の開始を踏まえ、それまで独自に実施していた学力調査をやめたり、休止したりした自治体は、今回の仕分け結果をどう見たのか。
「学力の把握はもとより、学習状況調査を非常に参考にしていたのに」。条例改正によって調査結果を公開し、授業改善につなげようと試みてきた鳥取県教委小中学校課の担当者は悔しさを口にする。「もともと文科省が抽出調査に変えたことが残念。悉皆だからこそ意味があった」と指摘する。もし、希望利用が可能なら、市町村教委に参加を呼び掛ける方針だ。
宮城県教委の義務教育課でも、「全国学力調査の問題はとても良くできている。あれだけの完成度の調査を県が独自で作るのは非常に手間と時間がかかる」と復活を望む。
同県では、17、18年に4県合同で学力調査を実施し、19年には単独で実施、問題作成にかかるコストは並大抵ではないと強調する。
一方で、全国調査は役割を終えたと見る自治体もある。
群馬県教委の担当者は「県独自の調査は必要に応じてやってきた。全国調査の結果は活用できないこともないが、5教科で実施する県の調査の方が学習状況をはるかに細かく把握できる」と話し、県内の学校にはほとんど影響ないとしている。
千葉県教委でも「これまで3回やってきて、県全体の傾向は把握できた。今後はその結果をどう生かすかを考えたい」として、市町村や学校への影響を否定した。
<掲載日・2009(平成21)年12月7日>
結果、2010(平成22)年度と2012(平成24)年度は、抽出率約30%の抽出調査、及び、抽出調査の対象外となった学校で学校設置者が希望した場合の希望利用方式での実施となった。
2011(平成23)年度は、これまでで唯一、全国学力・学習状況調査そのものが行われなかった。東日本大震災の影響を考慮してのことで、実施が見送られた。
再び、自民党へと政権交代(2012(平成24)年12月衆院選で勝利)が行われ、抽出調査及び希望利用方式は、2013(平成25)年度には、きめ細かい調査(対象学年の全児童生徒を対象とした本体調査により、すべての市町村・学校等の状況を把握するとともに、(1)経年変化分析(2)経済的な面も含めた家庭状況と学力等の状況の把握・分析(3)少人数学級等の教育施策の検証・改善に資する追加調査等を新たに実施)が取り入れられ、2014(平成26)年度からは再び、悉皆調査が行われるようになった。
折に触れ、悉皆調査の費用対効果が話題に上ることがある。各県が実施する学力調査なども、対象学年を重ならないようにするなど、県によっては効率化を図っているところもある。
学力の実態をつかむために、対象教科も広がってきた。
まず理科が2012(平成24)年度から加わり、3年おきに実施されるようになった。
初めて理科での調査が実施された2012(平成24)年度に、日本教育新聞は次のような記事を掲載し、全国の自治体がどう対応しようとしていたかを報じた。
理科授業改善へ機運高まる/観察・実験指導集や教材開発
国語、算数(数学)に初めて理科を加えた全国学力・学習状況調査が17日、小学校6年生と中学校3年生を対象に全国の2万5868校で実施された。新学習指導要領で授業時数が大幅に増えた理科では、記述式調査で観察や実験に関する知識を測った。そんな中、全国の自治体では教員の苦手意識の強いとされている小学校での理科を含め、理科教育を充実しようという動きが活発だ。
小学校の専科教員増、特別採用枠
福井県教委は本年度から、小学校教員向けの「観察・実験指導集」の作成を始める。3~6年生用の計4冊。授業に観察・実験をどうやって効果的に取り入れるか。導入のポイントや効果的な発問の例などを紹介する。
小・中学校の教員で作成チームを立ち上げ、年度内に完成予定だ。教員の意見を反映させた改訂版の作成も視野に入れている。県教委の担当者は「観察や実験を中心にした授業づくりを広めるために、教員同士の研究会のネタ本として活用できるものにしたい」と話す。
高知県教委は、理科の授業を見直すきっかけにしてほしいと「理科思考力問題集」(小5・中2)を作成し、昨年度から県内小・中学校の教員に配布を始めた。本年度は小6・中3向けを作成する。県内の学校からだけ接続できるイントラネット上からも入手できる。子どもの説明力向上にも役立ててほしいと期待する。
県内の素材を使った観察・実験で生徒の興味を高めたい。そんな狙いで茨城県教委が本年度開発を進めるのが「いばらき理科アイテム」と名付けた学習教材。中学校・理科の学習単元に合わせてツクバベニシダやサクラダコなど、県内にゆかりの深い素材を選定、研究機関と連携して作成するワークシートや映像教材などで学習する計画だ。
科学技術振興機構(JST)と国立教育政策研究所が平成20年に共同で実施した調査によると、小学校で学級担任として理科を教える教員の約半数が理科全般の内容に対して苦手意識を持っていた。また、約7割の教員が指導法についての知識が「低い」「やや低い」と感じていることが明らかになっている。
文部科学省は本年度予算で小学校の専科教員を増やすため、400人の加配定数を措置した。
富山県教委は小学校約35校に理科の専科教員を配置。そのうち8校には、これまで県の負担で行ってきた加配を活用し、正規教員を充てる。
採用時から専門の教員を確保しようという動きも広まる。静岡県教委では小学校高学年の理科授業を充実させようと、22年度から専科教員の特別枠を設け、毎年5人を採用している。本年度、非常勤講師を合わせ、46校に配置している。東京都教委も中学・高校の理科免許を持つ受験生のための小学校での特別採用枠を新設する。
全国学力・学習状況調査は、昨年度は東日本大震災の影響で中止され、今回は2年ぶり。国が抽出対象にしたのは、国公私立合わせて9709校(30・5%)、希望利用を含めると、2万5868校(81・2%)の178万8千人が参加した。
<掲載日・2012(平成24)年4月23日>
また、10回を超えて実施してきた全国学力・学習状況調査だが、ここにきて大きな転機を迎えている。
鳴り物入りで登場した主に「活用」に関する問題(B問題)は、なお課題を抱えたまま、A・B問題を一体化した出題方式へと変わることになった。
これまで調査教科となっていなかった英語が、理科に続いて中学生を対象にした今年4月の全国学力・学習状況調査では加わることになる。
英語そのものがグローバル社会を見据えていわゆる4技能重視へと変化し、高大接続システム改革や、小学校の中学年へと外国語活動は広がり、高学年では教科化がされるなど、英語教育の充実が図られてきていることが背景にはある。
31年度からの全国学力調査「知識」「活用」問題一体化/専門家会議が了承
全国学力・学習状況調査をめぐり、文科省の専門家会議が16日、平成31年度から国語、算数・数学について「知識」「活用」の問題を一体化して出題することで了承した。新学習指導要領で知識・技能と思考力などとの相互の関係が重視されていることや、調査時間が学校現場の負担になっていることが背景にある。
31年度に実施する中学校の英語は「聞く、読む、書く」の3技能を45分間で実施した後、質問紙調査を挟んで「話すこと」の調査を実施する案も示された。今後の予備調査の状況を踏まえ、さらに検討する。
また問題作成に当たっては、次期指導要領の柱の一つとなった「学びに向かう力、人間性」を、質問紙調査だけでなく教科の問題の中で測ることも課題として挙がった。国際学力調査の手法などを参考にしながら検討を続けるとしている。
<掲載日・2018(平成30)年3月26日>
「話す」を音声録音で/全国学力調査の英語/文科省専門家会議最終報告
全国学力・学習状況調査の改善方策を議論してきた文科省の専門家会議が3月29日、中学校の調査に英語の4技能の問題を加えるよう求める最終報告をまとめた。平成31年度から3年に1回程度実施する。また、今年の調査から、結果の分析方法などを変更することも決めた。
英語の調査のうち「聞く」「読む」「書く」は国語、数学と同一日に実施するが、「話す」は学校ごとに別日程で行う。コンピュータやタブレット端末による音声録音方式で実施、調査時間は生徒の入退室を含めて10分程度にする。
「話すこと」の調査をめぐって、専門家会議では教員による対面方式での実施も検討してきたが、教員の負担や専門性などが課題として挙げられ、今回は見送った。
学力調査全体についても結果分析や公表の仕方を見直す方針を固めた。
学校ごとの詳しい実態を把握して授業改善に生かせるようにするため、今年からSP表の提供を始める。また校内の子どもの学力分布を明らかにし、学力の低い層の割合を教委に提示する。教職員配置や予算配分に活用することを期待した。公表方法では、都道府県以外にも政令指定都市ごとに結果を示す。
<掲載日・2017(平成29)年4月3日>
今年4月に実施する全国学力・学習状況調査の結果が公表されたとき、従来の主に「活用」に関する問題(B問題)への対応力が改善したか、中学生の英語の実力と、指導方法の点検・改善の嵐が巻き起こるかも知れない。
(編集局)