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世界基準テスト「TOEFL Primary®,TOEFL Junior®」を小・中・高共通の外部評価指標として活用

21面記事

企画特集

英語の授業でネイティブ教員から指導を受ける生徒たち

 英語の4技能を評価できる外部テストの活用を含めた大学入試改革や、小学校高学年での教科化など、日本の英語教育は2020年度から大きく変わる。新たなカリキュラムの検討や教員の指導力育成が進むなか、TOEFL PrimaryやTOEFL Juniorなど国際的な英語能力テストを導入する学校が増えてきた。今年度から小学校でTOEFL Primaryを採用した香里ヌヴェール学院で、小・中・高の英語教育と、同テストの活用意図を取材した。

新たに小学校でもTOEFLを導入

 香里ヌヴェール学院(大阪府寝屋川市・石川一郎学院長)では、小学校および中学・高等学校で、課題解決型授業(PBL)、英語教育、ICT教育を軸にした「21世紀型教育」を通じてグローバル社会に対応する人材の育成に取り組んでいる。
 中学・高校は、能動的に学ぶ力を高める「スーパーアカデミーコース」と英語力を重点強化する「スーパーイングリッシュコース」(以下、SEC)、理工系への進路ニーズに対応する「スーパーサイエンスコース」(高校以降)の3コース編成。
 小学校でも、2017年の校名変更に伴うカリキュラム再編でSECを設置した。これにより、イマージョン・プログラムを軸にした質の高い英語教育を、小学校から中学・高校まで12年間継続して受けられる環境が整った。
 SECでは、小学校から英語イマージョン教育を全面的に採用。国語や社会などを除くほとんどの教科で、ネイティブ教員と日本人教員がオールイングリッシュの授業を行う。
 また、小学校段階から全員参加の海外研修を実施。中学・高校でも語学研修と修学旅行で海外を訪れるほか、1か月から最長1年の海外留学にも対応する。常に英語を使う環境に身を置くことで、4技能をバランスよく伸ばすことができる。
 同学院では以前から、中学・高校で英語能力テストTOEFL Primaryおよび TOEFL Juniorを活用してきた。さらに今年度からは、小学校でもTOEFL Primaryを導入する。
 TOEFLを小・中・高共通の外部評価指標として運用することにより、目標や課題を持って継続的に学ぶ力を育てたい考えだ。
 学院長補佐を務める江藤由布教諭は、TOEFL採用のポイントとして、「全世界で幅広く使われている世界基準のテストであること。結果が点刻みで評価され、小・中学校から高校、大学以降にまでつながる体系であること」を挙げる。


学院長補佐 江藤由布教諭

「点刻み」評価が学び続ける意欲に

 TOEFLは、英語を母語としない人々の英語コミュニケーション能力を測るテストとして開発され、世界130か国、1万以上の教育機関等で活用されている。主に小中学生対象のTOEFL Primary、中高校生対象のTOEFL Junior、大学生・社会人レベルのTOEFL iBTなどがあり、目的や学習者の能力に合わせて利用できる。
 TOEFLの特徴として、結果は合否判定ではなく、セクションごとの得点が点刻みで示される。各セクションのパフォーマンスやCEFRレベル(英語の言語能力を評価する国際指標)、TOEFL Primary,TOEFL Juniorのスコアレポートに表示されるLexile指数(英語の読解力を測定する指標)など、様々な指標によって受験者の英語能力の現在値を正確に把握することができる。
 「点刻みなので目標の級に合格して終わりとはならず、英語力のセルフチェック的に大人になっても受けることができます。言語は生涯にわたって学び、磨きをかけていくべき力ですから、学び続ける力をつける上でもTOEFLは有意義なテストだと思います」
 さらに江藤教諭は、リスニングやリーディングのスキル、文法知識などがバランスよく測れることや、根拠を示して意見を述べるといった構造に留意した読解力が求められる点も、テスト問題として質が高いと評価する。

TOEFLの活用を小・中接続の軸に

 同学院は、これまで中学・高校が女子校(2018年度から共学化)だったこともあり、小学校から中学・高校への進学率はさほど高くないという。今回の小学校のコース再編で、一貫性のあるイマージョン教育と、学習者のレベルに合わせて継続的に受けられるTOEFLを合わせて導入することにより、小学校と中学・高校の接続を強化したい考えだ。
 新たにテストを導入する小学校では年2回程度の定期的な受験を予定しており、今秋にもTOEFL Primaryを実施して成果と課題を確認するという。
 同校のSECには、英語を学ぶ幼稚園から入学してきた子どもが多く、1年生段階から話す・聞くはもちろん、一部は英語を読むこともできる。
 TOEFL Primaryは、「Step 1」(英語の初級学習者向け)と「Step 2」(英語で多少のコミュニケーションができる学習者向け)の2レベルに分かれているが、塾などでStep 1をすでに受けて高スコアを取っている子どももいることから、今後は各自の力に応じて受験できる柔軟な仕組みを整えたいとしている。
 中学・高校では、TOEFLの問題形式に慣れる演習以外の対策授業などは行わず、学校生活や海外研修を通じて身につけた英語力を確かめる場としている。小学校でも同様の位置づけで運用していく計画だ。
 「TOEFL問題への対応力は、普段の授業や自主学習で着実に身につきます。重要なのは、いかにして英語を『自分事』として学ぶかです」と江藤教諭。
 その上で、「魅力的な題材やコンテンツ」、「生徒が話したくなる場の設定」、「その引き出しとなる語彙力を培う多読」、「伝えたい内容を整理した見取り図に沿って、構造的に発信する力をつけること」が授業デザインのポイントと説明する。
 「これはまさに大学入試新テストが評価する学力を育てることと同じです。あとは試験前にTOEFLの問題を解いて、形式に慣れておくといった対応で十分です」
 小学校のSECでは、国語と道徳などを除く全体の6割以上の授業を英語で行っている。ネイティブと日本人教員の連携により、「seaとoceanの違い」を英語で考え話し合うといった活動を日常的に行うほか、2年生の出す模擬店で1年生が買い物をする教科横断型の授業なども実践する。英語と生活科だけでなく、算数や国語の力にもつながる言語活動だ。
 中学校のSECでも、英語で映画を見て、登場キャラクターを英語で分析するといったイマージョン授業を普段から実践している。2年生のある生徒は、中学校入学から半年ほど経ったとき、「速くて聞き取れなかったTOEFL Juniorのリスニング問題が、突然ゆっくり聞こえるようになった」と話したという。
 江藤教諭は、「英語のベースを持たない子どもが多い中学校のSECでも、英語を自分事として捉え、興味を持って学ぶ子どもは伸びるし、それはTOEFLでも確かめることができる」と強調する。

“2020年”を見据えた新しい英語教育へ
新たな授業支える校内環境づくり

 同学院では今年度から、異なる教科の教員がグループを組み、授業計画や思考力を問うテスト問題などを作成し、教科の枠を越えて意見交換する研修を増やしている。
 江藤教諭は、各教員の暗黙知を集合知化して共有する活動は、学院が掲げる21世紀型教育の実践だけでなく、大学入試改革への対応でも必要になっていると話す。
 「大学入試新テストのモデル問題を見ても、英語と国語などは傾向が同じ。分量が増え、日常的な言語活動の積み上げが必須です。これに対応する学力を一つの教科や一人の先生だけで育てるのは困難。横断的なカリキュラム・授業デザインと、それを支える校内環境づくりが求められています」
 学院ではこうした授業改革と並行して、中高の学校行事も「何のために行うのか」という原点に立ち返り、ゼロベースで再構築しようとしている。江藤教諭は、「各自の目的に合わせて選択的に受験できるTOEFLを小学校にも導入することは、こうした動きとも合っている」とし、今後の研修体制の見直しなどを通じて、新たな授業像や学校像を模索していきたいと話している。
 大学入試改革への対応に加え、小・中の学びの接続や生涯学習力の育成といった観点から外部テストを活用する同学院の取り組みは、2020年度の英語教科化に向けた準備を進める多くの小学校にとって参考になりそうだ。

研修で他教科の教員と意見交換を行う様子

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