冷凍食品の活用で豊かな学校給食の提供を
10面記事福岡県・佐賀県から、栄養教諭ら学校給食関係者36名が集った
福岡市 冷凍食品を献立に活かす研修会
冷凍食品はとれたて・作りたての状態のまま食品を保存できる活用度の高い食材で、栄養のバランス、安定した調達、豊かな献立作りの面で学校給食に広く利用されている。一方、冷凍食品の活用法や正しい扱い方はまだ学校給食関係者に十分に知られていない。冷凍食品を活用し、豊かな献立を実現するための研修会が8月10日に福岡市にて開催され、栄養教諭ら36名の学校給食関係者が集った(主催=日本教育新聞社、共催=一般社団法人日本冷凍食品協会)。金田雅代・女子栄養大学名誉教授の基調講演、冷凍食品調理コンサルタントによる調理デモンストレーション、冷凍食品メーカー等による商材展示試食会が開催された。冷凍食品の学校給食への活用について講師と参加者らが積極的に意見交換し、今後の課題と展望を共有した。
食育推進に果たす栄養教諭の課題と役割
学校給食は、子どもたちに正しい食習慣や食文化を伝え、心身の健康作りを促す役割から、「生きた教材」といえる。そんな学校給食の献立の充実に貢献しているのが冷凍食品だ。調理時間の短縮や食の安全の確保などの利点があり、積極的に活用する自治体が増えている。
冷凍食品の正しい知識を持ち、学校給食の役割を再認識し、豊かな献立作りの参考にしてもらおうと今回の研修会は企画された。
開会にあたり一般社団法人日本冷凍食品協会の木村均専務理事は「本協会は冷凍食品に関する正しい知識の普及活動や、品質・技術指導を行ってきた。豊かな献立の考案、調理工程の短縮化など学校給食に携わる方に冷凍食品に関する正確な知識と活用方法を知っていただきたい。受講者の方とメーカー担当者が直接顔を合わせて意見交換をすることで、互いにより良い学校給食を目指すための場として生かしてほしい」とあいさつした。
金田 雅代 女子栄養大学名誉教授
新学習指導要領への対応
研修会は▽基調講演▽調理デモンストレーション▽試食・意見交換会の3部構成で行われた。
基調講演は女子栄養大学名誉教授で栄養教諭食育研究会代表幹事の金田雅代氏が「食育推進に果たす冷凍食品の役割」と題して行った。
平成32年からの新学習指導要領全面実施後、栄養教諭が教育活動においてその役割を果たしていくためには、新学習指導要領のねらいや食育に関する改訂のポイントを押さえておくことが重要だ。
金田氏は中教審答申の「現代的な諸課題」に食についての課題があがっていること、また食に関する全体指導計画は作成するだけでなく、評価や改善も重視されていることをあげ「新学習指導要領の全教科・全学年に目を通し、国が食に関して目指すところを理解すること」と参加者に語った。
新学習指導要領の「総則」では前回に比べ踏み込んだ記述となっている。「体育(保健体育)科、家庭(技術・家庭)科及び特別活動の時間はもとより、各教科、道徳科、外国語活動及び総合的な学習の時間においてもそれぞれの特質に応じて適切に行うように努めること」と、食育の推進をすべての教育活動にわたり行うことが明記された。体育科や家庭科、特別活動での指導は当然行うものとし、そのうえで各教科などでの実施を意味する。
さらに第6章特別活動では「食育の観点をふまえた学校給食と望ましい食習慣の形成」に「給食の時間を中心としながら、健康に良い食事のとり方など、望ましい食習慣の形成を図るとともに、食事を通して人間関係をより良くすること」(小学校)とこれまで解説にあったものが追記された。栄養教諭の果たす役割に大きな期待がかかっているとし、栄養教諭制度発足から13年が経過した今こそ、長年取り組んできた実践等を「エビデンスに基づいて発信していくことが大切」と、論拠や発信力の必要性を説いた。
水産品・農産品で冷凍食品を活用
学校給食における冷凍食品の利用状況はどうなっているだろうか。金田氏は日本冷凍食品協会が平成23年度に行った「給食事業者冷凍食品利用実態調査」の結果を紹介しながら、その利用の現状を示した。
学校給食で用いられる水産品は魚やえび、いか、たこが多く、農産品ではとうもろこし、グリーンピース、ほうれんそう、ブロッコリーなどが多い。
さらに子どもに好評の献立例として冷凍さといもを使ったポテトフライを紹介。冷凍さといもに片栗粉をまぶし、油をからめてスチームコンベクションオーブンで焼くと簡単にできるという。「摂るのが難しい『いも類』も、冷凍食品を使うことで提供しやすく、また子どもが喜ぶ献立ができる」と話す。「新しい調理機械が導入されたら、単純な使い方だけではなく、よりよく活用できるよう発想を広げて工夫することで、豊かな献立が実現できる」
担任の知識が深まるよう栄養教諭が関わる
学校給食を食育の教材とすることについて、学級担任は、給食の時間や学級活動で行うべきだと理解はしているものの「目の前の献立から何をどう教えるか、という視点が持ちにくいのが現状」と金田氏は言う。
栄養教諭が作成した献立表や放送資料が上手に活用されるかどうかは、担任の意識にかかっているとした。
「指導資料を活用できるよう、まず担任の先生に食に対する正しい知識を持ってもらうことから始めたい。生活習慣病予防のために塩分摂取量を意識することがなぜ大事なのか、などいわば担任への食育が先決。後は担任の指導力を活用して子どもたちの変化を待つ。ここが近年の食育の最も大きな課題ではないか」と、強調した。
解決の例として、献立表の下に発達段階や年齢に合わせた指導ポイントを加えておくなど、担任が資料を活用しやすい工夫を紹介した。
人間は約6週間でその味に慣れるという。「子どもたちを給食の薄味に食べ慣れさせるのも栄養教諭の力の見せどころ。冷凍食品なども上手に活用し、日常の食事、将来の食事作りにつながる献立を作成してほしい」と締めくくった。
調理デモンストレーション
こんなに違う!解凍方法で仕上がり比較
冷凍食品調理の専門家が指導
解凍の成功例と失敗例を実際に調理する青栁裕子氏
冷凍食品の正しい解凍方法や適した調理方法、献立を参加者にじかに見てもらおうと、今回の研修会では調理デモンストレーションを行った。
講師は料理研究家で日本冷凍食品協会が委嘱する「冷凍食品調理コンサルタント」を務める青栁裕子氏。実際に調理をしながら、冷凍食品の基本的特性や取り扱い注意事項、解凍・調理法を解説した。
冷凍食品はその種類により適した解凍方法が異なる。「上手に解凍し調理することにより、むらなく、風味や形もよく出来上がる」と青栁氏。
フライやコロッケ、シューマイ、グラタンなど調理済みのおかずは、凍ったまま調理するのがポイント。袋などから出してすぐに揚げる、ボイルする、蒸すなどすると型崩れもなくおいしく仕上がる。
肉類などの畜産物、魚やえびなどの水産物はドリップの流出を抑えるため調理前に「半解凍」することが重要だ。半解凍とは外側が柔らかくなっても中心部がまだ凍っている程度の状態にすることを指す。青栁氏はえびを使って半解凍で炒めたものと、全解凍で炒めたものを比較。全解凍のえびは小さく固く丸まってしまったが、半解凍のほうは縮み方が少なく柔らかく仕上がった。
冷凍水産物にはグレーズという薄い氷の膜がある。「食品の酸化や乾燥を防ぐためのものでうまみではない。グレーズをとりのぞくために半解凍で扱うのが正解」と、青栁氏は冷凍食品にまつわる誤解されやすい点を解説していく。
同じ食材でも解凍方法で状態が変わることを触って確かめる参加者
野菜類はそのまま調理
学校給食で多用されるのがほうれんそうやブロッコリーなどの冷凍野菜だ。冷凍野菜は大根おろしや山芋など一部の例外を除き、70~80%程度加熱する「ブランチング」という処理が行われている。野菜の持つ酵素を不活性化させて貯蔵中の変質や変色を防いだり、組織を軟化させて凍結による組織の破壊を防ぐ目的がある。
解凍・調理の際は加熱しすぎないのがポイントだ。「調理で3割の火を通すと考えて」と青栁氏。ほうれんそうを解凍してからゆでたものと、そのままゆでたものでは、仕上がりが異なった。
「解凍してからゆでると、野菜くずが出やすくなる。グラタンやクリームシチューなどには凍ったままのほうれんそうを入れても色が出ない。
かぼちゃなどの根菜類は皮を下にして調理すると煮あがりがよい。ブロッコリーやアスパラガスなどは冷凍のままボイルするのがベストだ。茎の部分に適度な歯ごたえが残る。解凍してからゆでると蕾部分がくずれてしまい食感が悪くなる」
学校給食では大量の食材を扱うため、見学していた参加者からは「冷凍食品で調理しやすい食材は何か?」「半解凍の上手な方法は?」など、積極的に質問をしたり、解凍方法による仕上がりの違いを手で触って確かめる様子が見られた。
試食・意見交換会
子どもの健康を支える学校給食への“思い”共有
解凍や調理法を再確認しひと工夫の意欲を
8社による冷凍食品試食会
講演・調理デモンストレーションの後、日本冷凍食品協会に加盟する8社が試食会を開催した。冷凍食品の選定ポイントや正しい取り扱い方を学んだうえで、学校給食向け冷凍食品の品質やサイズ感を確かめてもらうのがねらいだ。
各社は学校給食製品に対する取り組みポイントを各3分間でプレゼンテーションした後、各社試食品3品を提供。参加者に味わってもらった。1時間後、金田氏、青栁氏、参加者と各社の全参加者が集まり、意見交換会を行った。
金田雅代氏をコーディネーターに、受講者とメーカー等で意見交換会が行われた
金田 調理デモンストレーションや各社の商品を試食してどのような感想を持ちましたか?
「冷凍食品、とくに野菜類は旬の食材の栄養価が損なわれていないと知り価値観が変わりました。その冷凍食品に適した解凍方法を考えて現場に生かしたいです」
「製造から保管までをマイナス18度以下に保つコールドチェーンが大事だと研修を通して分かりました。納品時の検温にも気をつけたいと思います」
金田 コールドチェーンを保つにはかかわる人たちの意識向上が必要です。納入時配送業者に冷凍車の温度を確認することも、注意喚起につながるでしょう。
「水産物の冷凍食品は半解凍が適していると理解しましたが、他の現場の方はどのような方法で調理をしているのか知りたいです」
「前日に冷蔵庫に入れて半解凍にすると、翌日きれいに調理できます」
「調理スペースが狭いので自然解凍です。下味を付けるころに半解凍になるようにしています」
「調理員が生野菜を洗うのが苦手なので冷凍野菜は重宝しています。ただ葉物などは調理後、筋が多い食感です。解凍や調理方法に問題があるのでしょうか」
金田 メーカーに気になる事を質問したり、他のメーカーのものと比較をしてみるのも一案です。
「冷凍食品の定義や学校給食に使うメリットを改めて考えさせられました。食材により正しい解凍方法があることも分かりました。自分の学校に戻って解凍方法をもう一度見直したいと思います」
「調理デモンストレーションを見て、職場の調理場のえびの解凍方法が長すぎるかもしれないと思いました。戻ってから調理員と試行錯誤しながら改善していきたいです」
金田 異物混入防止のため、冷凍ほうれんそうを洗っている、という声を聞きます。メーカーの方にお聞きします。どのような扱い方が望ましいでしょうか。
「基本的には洗う必要はありません。もし不安であればメーカーに問い合わせてみてください(メーカー担当者)」
金田 現場での悩みや、それを冷凍食品がどのようにサポートして解決できそうか、ご意見をお願いします。
「スチームコンベクションオーブンがなく冷凍食品はボイルパックをよく活用しています。アレルギー代替食にもボイルパック対応のものが増えてくれると嬉しいです」
「試食もできて参考になりました。小中学校で同じ献立を提供していますが、中学校では量を増やすだけでなくもう1品加えるなど変化をつけたいと思っています。そうしたときに使える冷凍食品があると助かります」
金田 カルシウムを補うのにチーズを付けたりする例ですね。ただ今の意見を参考に冷凍食品が開発されると理想的です。
本日は生の声をメーカーさんに直接聞いていただいていますが、日頃から現場からの意見を出していくことが大切です。栄養教諭、メーカー双方ともに多くのヒントを得たのではないでしょうか。ありがとうございました。
冷凍食品の4条件
(1)前処理している
凍結前に前処理をしてあるので、捨てるところがなく無駄がない。
下ごしらえが不要なので調理時間が短くなる。
(2)急速凍結している
マイナス30度以下の低温で急速に凍結するので、栄養、風味や食感等が保たれる。
(3)適切に包装している
細菌の侵入を防ぐだけでなく、乾燥や色の変化を防ぎ品質を保持する。
(4)品温をマイナス18度以下で保管している
腐敗や食中毒の原因になる細菌は、低温状態では活動できない。
生産から販売までマイナス18度以下で管理されているため衛生的。
冷凍食品は安全・安心、多様な使い方も
DVD紹介
金田氏の講演後、会場では日本冷凍食品協会作成のDVD『学校給食充実のために冷凍食品ができること』が上映された。このDVDは金田氏が監修し、学校給食関係者向けに冷凍食品に関する基礎的内容や学校給食での活用事例を解説したもの。
前半は冷凍食品の製造工程と品質管理を解説。
後半は学校給食への活用事例として、福島県・川俣町学校給食センターの献立例を紹介している。生肉の二次汚染リスクを回避し、調理時間の短縮化をしたうえで、組み合わせの献立を実現できる事例となっている。
17分間のコンパクトな内容で冷凍食品に関する知識が把握できる映像資料だ。
日本冷凍食品協会では、学校給食関係者を対象に、冷凍食品に関する講演会や調理講習会を実施している。
詳細・お申し込みはこちらから https://www.reishokukyo.or.jp/about/instraction/