大学入試改革 首都圏の4大学に聞く
10面記事日本教育新聞社と(株)ナガセによる夏の教育セミナーでは、各大学の入試改革や教育改革などについての講演もある。首都圏の主要大学の関係者に、入試改革や問題意識を聞いた。
一橋大学
三隅 隆司 学長補佐
4学期制で海外留学につなげる
―学部教育を最近、見直しました。
人材の国際流動化時代を視野に入れたグローバル化への対応と単位制度の実質化が軸です。
―グローバル化にどのように対応しましたか。
二つありますが、最も大きな変更点は4学期制を導入したことです。海外の大学に留学するには語学学校とサマースクール(短期語学研修プログラム)に参加してから3〜4年次に1年間長期留学することが効果的なのですが、国内の大学で一般的な2学期制では、6月から8月に開かれるサマースクールに参加しにくい状況でした。4学期制にして、夏学期(6〜7月)には2年生の必修科目を置かないようにしたことで海外の大学のプログラムに参加しやすくなりました。導入したのは昨年度で、すぐに留学する学生が増えたわけではありませんが、数年のうちに増えてくれればよいと思っています。
―もう一つの対応とはどのような内容ですか。
1年生で英語のスキル科目を年間8単位必修化したことです。知識は持っていても、それを海外で伝えられないのでは困ります。1クラス18人程度に分けてコミュニケーションを重視した科目をネイティブの教員が教えています。
―単位の実質化は具体的にどのように進めたのですか。
卒業単位を144単位から124単位に減らしました。授業で学んだことを力とするには、自ら考え、友人同士で話し合う時間が必要です。また、クラブや学外の活動にも時間は費やしてもらいたいと思っています。授業の数は減らして、勉強時間は同じくらい確保できるような形にしたいと考えました。
―入試の変更は検討していますか。
一橋大学は、いずれの学部も英語・数学・理科・地歴公民を全て課していて、2次試験では大量の文章を読んだ上で記述式の問題に答える問題を4教科で実施しています。その方向自体は、新しい共通テストが始まっても基本的に変わりはありません。
―英語の資格・検定試験の利用についてはどのように受け止めていますか。
現在は推薦試験の出願要件にしていますが、一般入試でどのように利用するかは決めていません。国立大学協会の方針では、複数の選択肢の中から各大学が判断するとしていますが、他大学の考えも踏まえて不公平が出ないように判断していくつもりです。
東京大学
南風原 朝和 高大接続研究開発センター長
時代にとらわれぬ基礎学力を
―2015年の「東京大学ビジョン2020」では「多様性」と「卓越性」という基本理念を示しました。アドミッション・ポリシー(入学者受け入れ方針=AP)にどう反映していますか。
入学者の多様性を活力として卓越性を目指し、そこからさらに知の多様性を豊かにしていくのが目標です。高いスタンダードを求めることは変わっていません。その中で、さらなる多様性を求めて、16年度から推薦入試を導入しました。
―過去3回の推薦入試を振り返って、手応えはいかがですか。
各学部にとっては、高校生に直接会って選ぶ、初めての制度なので、どうやって合格者を決めるか、まだ経験を蓄積しているところです。1期生は今春3年生になりました。学年100人に満たない数ですが、それぞれの学部で周りにも活力を与えるような活躍を期待したいです。ただ、学部にとっても志願者にとっても手間暇のかかる選抜方法なので、すぐに定員を大きく増やすようなことはないと思います。
―国の大学入試改革の流れをどう見ていますか。
なぜ改革が必要なのかが、高校・大学の関係者の間で十分に共有されているとは言い難いと思います。もともと、学力不問で大学に入れることや、センター試験が複雑化・肥大化しているといった現実的なことが共通の課題だったはずですが、国語・数学の記述式問題や英語の外部試験の導入など、入試、特に共通テストに対する要求が逆に膨らんできています。その一方で、本当に課題だった高校生に基礎学力を付けさせるための方策は、「学びの基礎診断」という名称ですが、実質、民間に丸投げのように見えます。
―学力の3要素を多面的・総合的に評価する大学入試に変えるため、ポートフォリオの活用なども検討されています。
日々継続して学んでいることを把握し、評価すること自体は悪いことでありませんが、部活をしている生徒が夏までは部活に没頭し、引退後に集中的に勉強して入試を突破するケースもあります。学習態度や校内の活動を一つ一つ評価されるというのは生徒にとって窮屈で、結果的に生徒の主体性を失わせるのではないかと心配です。高校生には大人の言う「これから求められる学力」に振り回されず、基礎学力をしっかり付けて「自分が伸ばしたい能力」を伸ばしていってほしいと思います。
早稲田大学
沖 清豪 入試開発オフィス長
政経学部入試、数学を必須に
―この数年、早稲田大学が大きく変わっていると聞きます。
かつては良くも悪くも自由な校風が早稲田らしさでしたが、2000年ごろから学生の極端な多様化が起きて、大学教育にさまざまな支障が生じるようになりました。そこで、12年に中長期計画の「ビジョン150」をまとめ、経営資源を教育に集中する方針を打ち出しました。
―具体的には、どのような計画ですか。
象徴的なのは少人数教育です。かつては600人を超えるようなマスプロ教育が当たり前でしたが、現在は多くても100〜200人、実際には8割以上の授業を50人以下で行っています。それに合わせて施設も変えました。学生の自主的なゼミを求める授業が増えたこともあり、ラーニング・コモンズ(学習スペース)などのスペースを、この4〜5年で大幅に増やしました。
―政治経済学部を中心に入試改革も進めます。
政治経済学部は、海外からの留学生のレベルが極めて高く、学部教育を成立させるには日本人学生も同等のレベルが求められます。これまでの私大文系3教科型の入試では、入学後の教育についていくことが難しくなっており、一般入試については21年度入試から「共通テスト」「英語外部検定試験」「学部独自試験」の合計点で選抜する方式に変更します。共通テストは外国語、国語、数学I・数学Aを必須にします。
―一方で18年度入試から、地方出身者を対象にした「新思考入試」も始めました。狙いは何ですか。
卒業後、地域に戻り、そこでリーダーとして活躍する学生を育てることを狙いとしています。入学後は所属学部の授業に加え、全学共通の「地域貢献」演習に参加してもらいます。本学の入学者に占める地方出身者の割合は減り続け、現在、1都3県で7割に上ります。学生の多様性の観点から危機意識を持ったことが新思考入試を始めた理由です。
―共通テストの導入以降、主体性や協働性も評価する方針を公表しました。
学習指導要領で求める学力の3要素が本当に身に付いているのかを確かめるのが狙いです。一般入試の出願時に、主体性・多様性・協働性に関する経験を受検生本人に記入してもらいます。出願要件にはしますが得点化はしません。今後、JAPAN eポートフォリオも含めて、どのように活用するかを検討したいと考えています。
慶應義塾大学
大石 裕 常任理事
小論文課し読解力を測る
―入試の現状を教えてください。
慶應義塾大学では、全学的に同一歩調を取るのではなく、各学部の意向を尊重するという基本方針があります。その上で、他大学に先駆けて多様な入試を取り入れてきました。(理)工学部が1966年度に導入した指定校推薦、SFC(湘南藤沢キャンパス)が90年度に導入したAO入試。いずれも日本で初めての試みでした。法学部はセンター試験に初年度から参加しましたが、後に撤退して、AO入試に地域ブロック枠を設けました。国際入試も、留学生入試や帰国生入試、IB(国際バカロレア)入試など、各学部が多様な入試を実施しています。
―経済学部では、英語プログラムのための入試も採用しています。
2016年9月に創設したPEARLは、全カリキュラムを英語で行うプログラムです。4年間一貫して英語で経済学を学ぶことで、世界を舞台に活躍できるグローバルリーダーの輩出を目指しています。入試は書類審査のみ。17年度は498人の出願があり、187人が合格しました。
―多くの学部が入試に小論文を課しているのも特徴的です。
知識に加え、論理力や表現力、その前提となる読解力を測るために小論文を課しています。受験生にとって多少負担になるかもしれませんが、将来社会に出ると必ず求められる能力です。日常的に自らの考えを言葉に表す練習をして、受験のみならず、今後の人生に備えるつもりで取り組んでほしいと思います。また、入試において記述式の解答が多いのも、慶應義塾大学の特徴です。各学部の理念が明確に反映されていると思います。
―文科省が進めている「主体性」「多様性」「協働性」の評価について、どのように対応しますか。
国が一定の基準を設定すれば「多面的な評価」に反します。また、基準が大学ごとに、ばらばらであった場合、受験生がどう対応したらよいのか分からなくなる矛盾を抱えていると思います。一般入試において、主体性や協働性を測ることは、大変に難しい問題です。
―21年度以降の入試改革の検討状況を教えてください。
学内にも、改革機運の強い学部と状況の変化を見ながら慎重に対応してきた学部があります。共通テストに参加するかしないかも含めて検討しています。今年の秋をめどに一定の結論を出せればと思っています。