大学入試改革 英語民間試験の動向は
10面記事2020年度に始まる大学入学共通テストの英語で導入される民間試験を使った「成績提供システム」。大学入試センターが今年3月、参加要件を満たした7種類の試験を公表した。現行のほとんどの試験が参加を認められる形になった。成績提供システムの実施体制や主な試験の特徴をまとめた。
成績集約、活用求める
今回、入試への参加が認められたのは「ケンブリッジ英語検定」(ケンブリッジ大学英語検定機構)、「実用英語技能検定」(日本英語検定協会)、「GTEC」(ベネッセホールディングス)、「IELTS」(ブリティッシュ・カウンシル、IDP)、「TEAP」(日本英語検定協会)、「TOEFL」(ETS)、「TOEIC」(国際ビジネスコミュニケーション協会)の7種類。各試験のレベルやテスト形式を踏まえると23種類になる。大学入試センターが参加要件に照らして審査した。
成績提供システムは、受験生の資格・検定試験の成績を大学入試センターが集約し、大学に提供する仕組みだ。受験生の出願手続きが簡素化され、大学にとっても業務負担が軽減されるメリットがあるとされる。
大学に提供するのは英語力の国際基準である「CEFR」の段階別表示とスコア、合否判定を出している場合はその結果だ。現在でも大学では英語の資格・検定試験の成績をセンター試験の得点に加算したり、個別試験の出願要件にしたりする方法で利用が進んでおり、2020年度の共通テスト開始以降も同様の方法で導入が広まるとみられる。
英検、3方式で「話す」
2016年度に約340万人が志願した国内最大の英語試験の英検。共通テストには新方式で参加する。新たに始めるのは「英検2020」と銘打った2日型・1日型とコンピュータ方式の「英検CBT」の3種類。本番の導入を前にCBT方式は今年8月から、それ以外の二つは来年度から実施する。
従来は「読む、聞く、書く」の3技能試験の合格者しかスピーキングテストを受けられなかったが、新方式では全ての受験生がスピーキングテストを受けられるようにした。
「英検2020」の2日型は、対面式のスピーキングテストを他の3技能のテストとは別日に実施。それ以外の1日型とCBTの二つは録音式のスピーキングを同一日に行う。会場は、2日型は従来型と同じ約400会場、1日型は47都道府県に設置予定。CBTは大都市19会場で毎月実施するという。
一方、面接官や録音機器の確保に費用がかかるため、受験料は値上げされる。「2級」の場合、5800円から7500円、「準1級」では6900円から9900円に変更される。
英検は現行の方式が認定外となったが、日本英語検定協会はこれに対し「新方式でも運営方法以外は、従来の英検と問題構成や認定、技能別スコアなど全く同じ」などとする声明文を公表し、学校関係者に新方式への理解を求めた。
GTEC、大学利用実績に
高校生を中心に受験者が急拡大し、昨年93万人(1550校)が参加したGTECは、大学入試での利用が多いのが大きな強みだ。
試験はタブレット機器を使ったスピーキングテストを含め、従来通り同日一斉実施する。レベル別の3種類(コア、ベーシック、アドバンス)と幅広いレベルに対応したCBTの計4種類がある。実施回数は、B2に対応した「アドバンス」やCBTでは年4回に増やして対応する。
運営するベネッセコーポレーションによると、試験会場はセンター試験の会場数を目安に47都道府県の700会場を設置する。GTECは英検同様、これまで試験監督に教員の協力を得てきたが、大学入試では配置できなくなる。そのため会場責任者や教室監督者を自前で手配するよう見直す。民間試験を使った授業改善に取り組んでいる都立高校のある教員は「民間試験によっても求められる英語力は少しずつ異なるが、高校にとっては、英検とともに授業になじみやすいのではないか」と話す。
TOEIC、北陸に新会場
ビジネス英語の試験として知られるTOEICは、S&W(スピーキング&ライティング)試験を北陸で初めて実施する。受験会場は石川県金沢市。これまでL&R(リスニング&リーディング)を47都道府県で実施しているのに対し、S&Wには北陸は含まれていなかった。本年度は8、11、3月の実施を予定している。
4技能を一つのテストで測る試験が並ぶ中、TOEICは唯一、S&WとL&Rの2種類で実施しており、受験生は、大学入試で利用するためには両方受けなければならない。ただ、運営する国際ビジネスコミュニケーション協会では、北陸が新たに加わることで「全国主要都市で受けられるようになる」と強調し、主要な試験以外を選ぶ受験生のニーズに対応していきたい考えだ。
英語圏への留学時の利用が多い「TOEFL iBT」も参加要件を満たしたことを受け、試験の実施期間を4〜11月に変更。入試センターへの成績提供期間に合わせる見直しを明らかにした。
国立大、導入に道筋
民間試験の導入を踏まえて、大学でも活用のための検討が進んでいる。国立大学協会は3月末にガイドラインを作成。2023年度まではセンターが実施する英語と民間試験の両方を受験生に課すという内容ながらも、活用に向けた道筋が見えてきた。
ガイドラインでは、試験の活用については各大学の判断に委ねられるとした上で、(1)一定水準以上の認定試験の結果を出願資格とする(2)新テストの英語試験の得点に加点する―のいずれかか両方を組み合わせて使うこととした。
国大協での議論を経て、それまで導入に反対の姿勢を貫いてきた東京大学も一転、4月末には導入に向けて学内で課題の検証を始める方針を出した。国立大学がやっと一枚岩となったことについて、文科省担当課職員も「東大が参加しないとなると他大学に及ぼす影響も大きい。これでやっと活用のための議論が前に進む」と胸をなでおろした。
試験運営にこそ公平性を
吉田 研作 言語教育研究センター長
大学入試での英語の民間試験の活用について、受け止めや課題を上智大学の吉田研作特任教授に聞いた。
―入試センターが示した成績提供システムをどう評価しているか。
国が成績を統一した形で管理するのは、受験生にとっても大学にとっても都合がよい。受験生が個人で管理しようとすると、どこかで抜け落ちる恐れがある。事業者にとっても、受験生一人一人に対応しなければならないのは作業が煩雑になる。
―各テストの性格の違いを理由に公平性を疑問視する声がある。
本来、共通テストに七つも八つも種類の違うテストが入っていること自体が問題で、1種類なのが理想。ただ、現実問題として国が4技能、特にスピーキングやライティングのテストを開発することは難しい。かといって民間のテストの中から国が1種類だけ選ぶのも不可能だ。テストの実施団体に協力してもらおうという方針になったのは、そうした理由がある。
また試験の「公平性」が疑問視されるが、その理由が分からない。基本的には受験生が複数のテストから選べる体制になっている。
―例えば、スピーキングテストの方法が試験によって違うことなどを指摘する声がある。
異なる方法でも、例えばCEFRの「B2」なら、どのテストでも一定の幅の中で対応する範囲を示し、同じレベルであるとされている。CEFRのレベル決定にはマニュアルがあり、専門家会議でも検証作業をした。各テストのスコアとCEFRとの対応には妥当性はあると考えている。
―試験の運営面に課題はないか。
テストの内容よりも試験会場が整っているか、試験官がそろうかといった運営面の公平性の方が課題は大きい。これまでのように会場ごとに環境が異なっているような自由度で実施することはできなくなる。入試として適切な形で実施されるかが一番の課題だ。
―大学ではどのように民間試験の利用が進むか。
国立大学は国大協の実施方針に沿って利用が進むはずだが、出願資格にするのが最も導入しやすい。私立大学でも、有名校は受験者が国立大との併願が多いので、国立大と同様の方法で利用するのではないか。