大学入試改革授業案 初見の文学で考査、達成度測る
10面記事国語
渡邉 久暢 福井県立若狭高校教諭
単元を構想する際には「生徒にどのような力を付け、その力をどう評価するか」を意識している。すなわち「目標と指導と評価の一体化」という考え方を重視してきた。単元を構想する際にはさまざまな選択肢が存在するが、一単元でその全てを包括することは不可能であり、実際にはさまざまな要素を捨てていくことになるからだ。
普段の単元構想において「どれを残し、どれを捨てるか」の判断基準を「今、目の前にいる生徒に対して、付けたい力」に置いているが、この紙面ではプレテストの結果を判断基準とした上で、文学を素材とした単元を構成するプロセスを具体的に述べる。
登場人物の関係性・心情理解へ
今回注目したのは、プレテスト第3問の小説を題材とした問題。入試センターによると「本文に即して登場人物の心情や言動の意味を捉えるなど、テクストを的確に読み取る力を問うとともに、文章に示された原作の粗筋と創作された内容との比較を通して、文学的な文章における構成や表現の工夫を読み取る力」を問うた。
問3では「テクスト全体における人物相互の関係の変容や心情の変化を適切に捉えたり、言動の意味を解釈したりすることができる」かが問われた。
三択問題であったにもかかわらず、正答率はそれほど高くなく、特に「あたし」の心情を問う?群(解答番号6)では、成績上位者と下位者との正答率の差が20ポイント以上あった。「どのようにすれば初見の文学作品に描かれた登場人物の関係性や心情を理解することができるのか」を分かっていない生徒が多く存在することが考えられる。
目標設定→教材決定→評価構想
この結果を踏まえ、本単元の目標を設定する。目標設定のポイントは「この単元を通して何ができるようになるのか」を明確にすることだ。
今回は「登場人物の関係の変容や心情の変化とその理由を、人物像、場の状況、情景描写などに即して読み深める」と設定する。もちろん、現行学習指導要領(国語総合)における「読むこと」領域の指導事項ウ「文章に描かれた人物、情景、心情などを表現に即して読み味わうこと」に基づいている。その上で、対象学年を、プレテストを2年後に受験する現高校1年生とし、主たる教材を芥川龍之介の『羅生門』とした。
教材選定の理由は、どの教科書にも載っているものであると同時に「下人」「老婆」「老婆に髪を抜かれた女」の関係性や心情を捉えるための言語活動を通して、目標の達成が期待できる題材だからだ。
単元の目標と、主たる教材が決定したならば、次は評価の構想だ。私の所属する若狭高校国語科では、定期考査の問題は「授業で扱わなかった素材」に基づき作成する。つまり『羅生門』を用いて授業を展開したとしても、『羅生門』を素材とした考査問題は作らない、ということだ。「既存の知識を発揮したり授業を通じて身に付けた思考力等を発揮したりして、設定した目標を超えることができるかどうか」というパフォーマンスを評価するための工夫である。
考査問題は、単元開始前にあらかじめ構想する。2012年に実践した『羅生門』を主教材とした単元では、芥川作の『偸盗』の一部を素材とした考査問題を想定したが、今回設定した目標の達成度合いを評価するには『偸盗』を用いることは困難だと考え、同じ芥川作『沼地』を素材として問題を作成する。このように、同じ教材を扱ったとしても、目標に応じて考査問題の素材を変えることで、「目標と指導と評価の一体化」を図っている。
この考査問題では、先述の単元目標を踏まえ、評価の規準をA「情景描写の効果を理解している」、B「登場人物の設定を理解している」、C「登場人物の関係や心情の変化とその理由を理解している」の三つに設定した。その上で、問一で情景描写の効果、問二で登場人物の設定、問三・問四で登場人物の心情を問うている。
こうして単元開始までに目標を絞り込み、評価の構想を持つ。急いで断っておくが、プレテストの形式をまねて作問するわけではない。共通テストのような大規模で結果の問われるハイステイクスなテストは、授業の総括的評価として行う考査とは大きく性質が異なる。安易にまねることは避けたい。
もちろん「単元目標」と、初見の問題を用いて評価規準の達成度を確認する考査を行うという「評価構想」を生徒と共有することが前提だ。このようなプロセスを経て、次に指導の構想へと移る。
文脈に応じ、読解方略選ぶ力を
ここで注意してほしいことがある。評論や小説の読解指導において、単元冒頭から「読みのテクニック」を教えることは避けるべきである。
「より良く小説を読みたい」という意識が高まらないままでは、ただ単にその「テクニック」(と呼ばれるもの)を生徒に伝授したところで、なかなか読む力は育まれない。「今まで通りの読み方ではどうもうまくいかない、どういうことに気を付けていけばよいのか」という読みへの意識の高まりがあってこそ、読みの方略が一人一人の生徒の中に培われていく。まずは自分の「読み方」を自覚させた上で、個々の生徒が自分なりに設定した課題や観点に基づいて読みを実践させることが重要である。
さらに重要な点がもう一つある。指導者が生徒に対して読解方略を提示したり、個々の読解方略を個別的に使う練習をしたりするだけでは「良い読み手」になることはできない。
大事なのは生徒に対して「どのような場合に、どの方略を使うべきかを判断して用いる能力」(メタ認知)を育てられるように指導を仕組むことだ。『羅生門』を読む際に有効な方略が、そのまま安部公房の『棒』を読む際にも有効だといえないことは自明であろう。
生徒自身が「文脈に応じて使うべき方略を判断して用いる能力」を育むことが、読む力を培う上で重要になる。それ故、教師が特定の方略の用い方をパターン化して教え込んだり、文脈を無視してドリルのように方略の使い方を反復練習したりしても効果は薄い。どういう文脈であれば、どの方略を使うべきかを判断して自覚的に選択することができるような学習活動を組織する必要がある。
特に有効となるのが、自己評価としての「振り返り」を組織化することだ。テクストの解釈を交流するだけでなく、自身の方略使用の在り方を言語化し、他者と交流した上で、その生徒なりの読解方略を編み出すことまで促せるように活動を仕組むことが望ましい。
新共通テストに向けて「AL型授業」の重要性を唱える方もいるが、大事なのは「型」ではない。「何をどのように学び、何ができるようになるか、その成果をどう評価するか」という「目標と指導と評価の一体化」である。
定期考査などの詳細はhttp://www.mitene.or.jp/~kkanabe/をご覧ください。