「大学入試改革」授業案 多様な視点でテクスト構造化
11面記事国語
湯尾 健児 三田国際学園高校校長
「ふるさと」考える意義
教育界でグローバル化が叫ばれて久しい。ただ「グローバル」の意味を真剣に考え、自分なりに解釈し、行動している高校生は果たして日本にどのくらいいるだろうか。
世界標準語となっている英語ではなく、世界で見れば極めてローカルな日本語を国語として教育を受けている生徒には、日本というローカルをしっかりと考えた上で、グローバル化と呼ばれる時代を批判的に捉え、そこから新しいものを創造していってほしい。
今回、「ふるさと」を考える授業を展開する。多様な視点からの教材ということを重要視した。
三つの教材を通して
「自分自身で『ふるさと』を定義しよう」
冒頭、生徒にこのように聞いてみた。すると出てきたのは自然、海、山、緑、田舎…といったイメージに基づいた回答がほとんどだった。
資料1としてカズオ・イシグロのインタビュー記事を読ませる。彼の「ふるさと観」を捉え、自分のそれと比較をするのだ。
多くの生徒は、イシグロが小説家になった動機とも言える「自分の日本が脳裏から消える前に、小説に安定的に書き留めておく」という記述から、言葉で世界を構築しようとしたイシグロの考えを読み取り、自分たちのイメージだけの答えとの違いに気付いていく。
ただ、記事の中で、英国の国籍を選んだ彼が「日本からの『亡命者』」という表現で自分自身を見ている部分に言及する生徒は、ほとんどいなかった。
次に総務省資料「これからの移住・交流施策のあり方に関する検討会中間とりまとめ」を読んだ。総務省がアピールしたい「ふるさと観」を捉え、ここまで自分が考えてきたものと比較をさせる。
人口減少・少子高齢化による地方の弱体化と東京一極集中の是正のため、「これからの移住・交流政策の提案」を考え、グループで発表する。その過程で五つの表と三つの図を含んだ省庁の文章を読解する。
これは、プレテストの第1問で狙いとした「現代の社会生活で必要とされる実用的な文章・複数資料を的確に読み取る力」、第2問の「図表が含まれた論理的な文章を図表と関連付けながら的確に読み取る力」に対応できるのはもちろん、今回のプレテストでは出題されていない「テクストの精査・解釈を踏まえて発展させた自分の考えを解答する自由記述式または小論文形式の問題に対応できる力」の育成につながる。
資料には現在、認知度が高まり定着してきた「ふるさと納税」の記述もあり、身近に感じられたのかもしれない。ふるさとを故郷という漢字ではなく、あえて「 」を付けた「ふるさと」というひらがなで表現しているところに、総務省の意図している方向性が読み取れた、という意見とともに、「ふるさと」を定義するには「人」という、もう一つの重要な視点があるとの意見もあった。
最後に読むのは坂口安吾の「文学のふるさと」。そして、この単元を学習して「ふるさと」を再定義し、「これからの移住・交流政策」の提案をレポートにまとめさせる。
「我々のふるさとというものは、生存それ自体が孕んでいる絶対の孤独のようなものであり、むごたらしく、救ひのないものだ。人間のふるさとをここに見ます。文学はこゝから始まる」という一読すると暗い気分になりかねない坂口安吾の思いを受容し、自らの考えを再構築できるのかも確認したい。
今回、発表年も人も文体・形式も全く違う三つの文章を通して既有知識を更新し、テクスト内容を構造化し、総合的に解釈する力を育みたいと考えた。
持続可能な社会を創っていく一員であることを自覚し、他者に社会に貢献するには、どう自分自身の考えを打ち出し、道を切り拓いていけばいいのか。国語の日々の授業で培った力を土台として、自由な発想をもって創造していく人になってもらいたい。
プレテスト問題(http://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?f=abm00011239.pdf&n=5-01_%E5%95%8F%E9%A1%8C%E5%86%8A%E5%AD%90_%E5%9B%BD%E8%AA%9E.pdf)
大学入試センターが公表しているねらいは以下の通りであるが、テクストの精査・解釈を踏まえて発展させた自分の考えを解答する自由記述式または小論文形式の問題が検討中で出題されていない。そのような問題に対応できる力の育成までを見据え、今回の授業案を構成した。
第2問・問題のねらい
図や写真が含まれた論理的な文章を題材としている。図表や写真と文章とを関連付けながら、構成や展開をとらえるなど、テクストを的確に読み取る力を問うとともに、設問中に示された条件に応じて考えを深め、テクストの内容と結び付く情報とそれらの適切な論理の展開を判断する力を問う。
問5
【主に問いたい資質・能力】
情報の扱い方に関する知識・技能。テクストを踏まえ、推論による情報の補足や、既有知識や経験による情報の整理を行って、テクストに対する考えを説明することができる。テクストに含まれている情報を統合したり構造化したりして、内容を総合的に解釈し、テクストに対する考えを説明することができる。
【小問の概要】
テクスト全体の要旨を踏まえ、条件として示された場面設定(異なる視点を加えて議論すること)に応じて、情報を統合して論じることができる内容を適切に判断する。