次期指導要領作成を前に 先行する高校英語改革
13面記事高校の次期学習指導要領をめぐっては、基本的な教科・科目の大きな再編が予定されている。その一方で、既に高校での英語は現行学習指導要領での「授業は英語で行うことを基本」、高大接続改革と連動した「4技能重視」の大学入試の先取りなどによって、実質的な改革に取り組む状況が生じている。こと英語に関しては、平成25年12月に文科省が公表した「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」を、高校に限らず、小学校の外国語科を含め次期学習指導要領が後追いをしている格好だ。その後にまとまった中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」(28年12月)なども踏まえると、改革はどこまで進むか―。
求められる4技能、言語活動の高度化
教員の英語力確保不可欠に
「初等中等教育段階からグローバル化に対応した教育環境づくりを進めるため、小学校における英語教育の拡充強化、中・高等学校における英語教育の高度化など、小・中・高等学校を通じた英語教育全体の抜本的充実を図る」「2020年(平成32年)の東京オリンピック・パラリンピックを見据え、新たな英語教育が本格展開できるように、本計画に基づき体制整備等を含め2014年度から逐次改革を推進する」とうたったのが「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」である。
同計画は、グローバル化に対応した新たな英語教育の在り方と、新たな英語教育の在り方実現のための体制整備―の2本柱で構成した。
グローバル化に対応した新たな英語教育の在り方については「現行の学習指導要領による英語教育」と比較する形で「新たな英語教育」の目標や内容を「案」としたまま示した=図参照。「小・中・高等学校を通じた英語教育全体の抜本的充実」である。
同計画の中では、小学校中学年への活動型、小学校高学年への教科型が提案され、新学習指導要領では、それぞれ「外国語活動」「外国語科」として位置付くことになった。
中学校も同様で「授業は英語で行うことを基本」とすることを提案。達成目標は従来のCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)A1程度(英検3級程度など)から、CEFRのA1〜A2程度(英検3級から準2級程度)へと強化することを求めた。ただ、国の目標として掲げている、中学校では英検3級程度など50%は、現状では36・1%と十分ではない状況が続く。
高校段階では、授業を英語で行うことに加え「言語活動を高度化」することを求めた。高度化の内容は、発表、討論、交渉などである。「目標」として「英語を通じて情報や考えなどを的確に理解したり適切に伝えたりするコミュニケーション能力を養う」を掲げ「ある程度の長さの新聞記事を速読して必要な情報を取り出したり、社会的な問題や時事問題について課題研究したことを発表したりすることができる」を例示した。
現行学習指導要領での達成目標CEFRのA2〜B1程度(英検準2級〜2級程度など)から、新たな英語教育ではCEFRのB1〜B2程度(英検2級〜準1級、TOEFL iBT57点程度以上など)へと強化した。
国の目標の英検準2級〜2級程度などが50%に対し、現状では36・4%の達成と、これも目標には到達していない現実がある。
こうした新・英語教育の在り方を実現するために、中・高校での指導体制を強化するため「英語教育推進リーダーの養成」「英語科教員の指導力向上」を掲げるとともに「外部検定試験を活用し、県等ごとの教員の英語力の達成状況を定期的に検証」することを提案。
具体的には「全ての英語科教員について、英検準1級、TOEFL iBT80点程度等以上の英語力の確保」を求めている。
ただし、高校教員の英語力の現状を見ると「英検準1級、TOEFL iBT80点程度等」を達成しているのは62・2%(28年度英語教育実施状況調査・高校)と半数は上回ってはいるが、まだ目標の途上にある。
科目見直しへ
総合的に「5領域」扱う
スピーチやプレゼンで発信能力を強化
中教審答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」の中では、外国語について「小・中・高等学校を通じて育成を目指す資質・能力を明確にし、『外国語を使って何ができるようになるか』という観点から、外国語の資質・能力の具体的な内容を明確にした上で『聞くこと』『読むこと』『話すこと(やり取り)』『話すこと(発表)』『書くこと』の領域別の目標を含む一貫した教育目標を学習指導要領に設定すること」などとした。
中・高校の外国語に関しては、授業面で「『話すこと』及び『書くこと』などの言語活動が十分に行われていない」、生徒の学力の面では「習得した知識や経験を生かし、コミュニケーションを行う目的・場面・状況等に応じて適切に表現することなどに課題」などと指摘した。こうした課題、あるいは生徒の多様化に対応するとして、科目構成の見直しを提言した。
その一つが五つの領域〔聞くこと・読むこと・話すこと(やり取り)(発表)・書くこと〕を総合的に扱う「英語コミュニケーション」(I・II・III)の設定=図参照。高校卒業段階で求められる「外国語を通じて、情報や考えなどを的確に理解したり適切に伝えたりすることができる力」(必履修科目でCEFRのA2レベル相当、選択科目で同B1レベル相当を想定)を育成するという。
また、中学校での学び直しの要素を、必履修科目に入れることも求め、「英語コミュニケーションI」が高校への橋渡しの役割を担い、中学校段階での学習の確実な定着を目指したものになる。
外国語科の授業では言語活動の比重が低い現状から、その改善・充実のために「論理・表現」(I・II・III)を設定して、「話すこと」「書くこと」を中心とした発信能力の育成をさらに強化する。
具体的には、スピーチ、プレゼンテーション、ディベート、ディスカッションなど言語活動を中心にする。聞いたり読んだりして得た情報、考えなどを活用してアウトプットする統合型の言語活動に位置付ける。
さらに専門教科の「英語」の各科目も「留学や進学などの目的に応じて高い英語力を目指す高校生もいるといった多様性を踏まえ」て「総合英語」(I・II・III)や「ディベート&ディスカッション」(I・II)、「エッセー・ライティング」(I・II)などと見直していく。
大学入試に民間検定
高校現場 指導へ影響
「大学入学者選抜全体として英語の四技能の評価を重視する観点から、各大学の判断により、民間の英語の資格・検定試験について、『大学入学希望者学力評価テスト(仮称)』の英語の代替として活用したり、個別選抜において活用したりすることも有効である」と、高大接続システム改革会議「最終報告」(平成28年3月)が提言するなど、民間の英語の資格・検定試験活用が目立ち始めた。入試の変化によって、現場は実質的な改革が求められるようになった。
例えば、筑波大学は、30年度の推薦入試でCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)のB1相当以上について「総合評価」に反映する。医学群・医学類では29年度推薦入試から反映させ、求めるレベルは熟練した言語使用者を位置付けるCEFRのC1相当以上とした。
広島大学では29年度入学者のAO入試(総合評価方式)に英語外部検定試験を利用。レベルによって「出願資格を与える」「加点」「合否判定の際に評価」などの方法を示す。例えば、教育学部第三類(言語文化教育系)英語文化系コースでは、複数の英語外部検定試験を受検している場合、適用区分の最も高い1項目を加点対象とする。CEFRのC2であれば60点、C1・40点、B2・20点の加点。
さらに31年度入試(30年度実施)から、大学入試センター試験を利用する一般入試前期日程・後期日程、AO入試総合評価方式II型、推薦入試の全ての募集単位で、英語外部検定試験を活用できる。
その要件は、大学入試センター試験の外国語のうち、英語(筆記、リスニング)を受験していること、および各入試の出願期間最終日までに、CEFRのB2以上レベルに相当する外部検定試験などのスコア・等級を証明する書類の原本を提出することを条件に、全て満たせば、受験する年度の大学入試センター試験の外国語(英語)の得点を満点と見なす。
上智大学では27年度入試から一般入試を実施する全学部で、同大学と(公財)日本英語検定協会が共同で開発した「アカデミック英語能力判定試験」(TEAP)を導入した。各学科が設定した同試験のスコアを満たすことを出願要件にするものの、スコアそのものは合否に影響しない点に特徴があるという。試験当日は英語の試験はなく、学科指定の選択科目を受験する。合否の判定は選択科目の点数、調査書などの書類で行われる。
早稲田大学は文化構想学部、文学部の29年度入試から英語4技能テスト利用型を一般入試に加えた。募集人員は文化構想学部70人、文学部50人。英語4技能テスト(TEAP、IELTS、実用英語技能検定、TOEFL iBT)のいずれかで基準点を上回っている者について、学部一般入試の国語・地歴2教科の合計得点により判定するという。
同大入試速報によると、文化構想学部では英語4技能テスト利用型に528人が受験、293人が合格。同様に文学部では350人が受験し、182人が合格している。