「高大接続改革」を先取りへ 全国セミナー始まる
10面記事(株)ナガセ・本社主催
全国12会場で展開する「教育改革先取り対応セミナー」の皮切りとなる千葉会場(1日)、東京会場(2日)でのセミナーが相次いで開催された。高大接続改革を主とする基調講演、アクティブ・ラーニングをテーマとした講演、分科会など、受講者となった高校教員の関心は高く、両会場は活気にあふれた。
基調講演
思考力測る選択式を検討
鈴木 寛 文部科学大臣補佐官
文科省の鈴木寛・大臣補佐官は、高大接続改革が求められる背景とこれまでの検討の経緯などを説明した。人工知能の台頭による社会の変化に伴い、学校教育で問題解決学習が求められると強調した。そのために、今後は高校教員の数や施設などの体制を整えることが必要になるとも語った。
大学入試の新テストをめぐっては、各大学でも改革が始まっているとしながらも、毎年50万人が受験する「センター試験を変えなければ思考力を重視した入試にならない」と説明し、新テスト導入の必要性を強調。また、誤答から一つの選択肢を選ぶセンター試験が、日本のイノベーションや創造性低下の要因になっている、との見方を示した。
現在検討が進められている新テストの問題設計について、記述式の開発だけでなく、選択式でも思考の過程を評価できるような問題を専門家と開発していると述べた。
各大学の個別入試改革も鍵
伯井 美徳 大学入試センター理事・副所長
(独)大学入試センター理事・副所長で、前文科省大臣官房審議官(高大接続・初等中等教育担当)の伯井美徳氏が、高大接続の改革の理念と経緯、背景と現状について講演した。
「高大接続改革の必要性は国際化、情報化の急速な進展に対応するものだ。知識基盤社会の中で新たな価値創造ができるよう、生徒たちの想像力・思考力・判断力を学校教育で身に付けさせる必要がある」と語った。
長らく「入試が変わらないと変わらない」と言われてきた高校教育。センター試験に替わって導入する「高校基礎学力テスト」「大学入学希望者学力評価テスト」(共に仮称)に加え、各大学の個別入試改革も非常に重要と指摘。より多面的、多元的な尺度で子どもたちを見るために入試改革を実施し、学習指導要領改訂と機を同じくして、高大接続と大学・高校教育を一体的に改革すると述べた。
来賓挨拶
ALは「型」より方法論を
前川 喜平 文部科学事務次官
来賓として挨拶した文科省の前川喜平事務次官は改訂学習指導要領で重視されるアクティブ・ラーニング(AL)について「型ではなく、生徒たちを主体的な学びに向かわせる方法を考えてほしい」と参加者に求めた。「大学入学希望者学力評価テスト」(仮称)については、記述式問題と英語の4技能評価の二つをどう進めるかが大きな課題と指摘。記述式問題の採点にかかる時間や手間を考えると、200文字以下になるという見方を示した。
特別講演
推薦入試の実績など報告
南風原 朝和 東京大学理事・副学長
文科省の新テストに関する有識者会議委員も務めた南風原朝和・東京大学理事・副学長は、28年度入試から導入した東大の推薦入試の実績と文科省の入試改革について話した。
有識者会議でも新テストの考え方に対して慎重な意見を述べてきた南風原氏は、新テストの設計で基となった「学力の3要素」の構成について疑義を呈し、「思考力を取り出して測るのは難しい」「思考力や判断力が低いと言われた受験生が、その後どうしたらよいのか」などと話した。
また、思考力に焦点を当てた問題とすることで難易度が高くなる恐れがある、とも述べた。その上で、新テストは「分かりやすい最終的な目標を提示することで受験生の努力につながる」と話した。
講演 アクティブ・ラーニング
3段階で実践を高めて
山内 祐平 東京大学大学院教授
山内祐平・東京大学大学院教授の講演では、次期学習指導要領のキーワードでもあるアクティブ・ラーニング(AL)をテーマに語った。山内教授はALの教授法として、レベルを3段階に分ける。まずはリアクションペーパーなどで学習者の理解度を把握し、知識の共有と反すうをさせる。さらに学習者同士が自分の知識・技能を教え合い、学ぶ段階を経て、最終的には、現実社会の課題に対して解決方法を探す「問題設定型学習」などへ向かう。ただし「ALは生徒に知識も応用力も両方求めるもので、教師にも非常に時間や手間が掛かる」と解説。「いきなり高度な段階をやろうとせず、スモールステップで徐々に実践を高めて」とアドバイスした。
子どもの自己評価生かす
松下 佳代 京都大学教授
松下佳代・京都大学教授は、アクティブ・ラーニングとその評価について講演した。
松下教授は学習形態に注目されがちな「アクティブ・ラーニング」の呼称を避け、人工知能の学習でも使用されている理解の質に着目した「ディープ・アクティブ・ラーニング」を提唱。既有の知識や経験と学びを結び付ける学習と説明した。
一方、評価方法については、ペーパーテストに代表される「直接評価」だけでなく、児童・生徒自身による自己評価を生かす「間接評価」の重要性を指摘。生徒による話したり書いたりする活動自体に評価機会が埋め込まれているとしながら、「学習評価を通じて、自律的な学習者を育てる役割もある」と訴えた。
分科会
英語4技能指導
15分のモジュール組み合わせて授業
英語の4技能指導について分科会を開いた東進ハイスクールの安河内哲也氏。15分程度のモジュールを組み合わせた授業づくりを提案し、参加者にも体験してもらった。安河内氏は「生徒のレベルより難しいテキストを使っているから、説明するために講義型になる」と指摘。生徒にとって難しければ「全てやらなくても一部だけを扱えばよい」と提案した。また発表やスピーチのためには「アサーション」(主張)、「リーズン」(理由)、「エビデンス」(根拠)の「ARE」を磨かなくてはならないと語った。
高校AL実践例
協働で実験、「納得感」生む
達成目標を示して話し合い
千葉会場では、開成高校の小松寛教諭(化学)が「金属イオンの分離」の単元を紹介。生徒たちは学んだ知識を活用して話し合う中で、実験が実は「海洋の生成」の疑似体験であることに気付く。こうした「納得感」を上げるツールとして協働学習が有用と語った。
東京会場で「ALの目的と評価」をテーマに講演した東京都立国立高校の大野智久教諭(生物)は、生徒の課題プリントに「〜の違いが説明できる」などの達成目標を示しながら、ディスカッションやプレゼン資料の作成に取り組ませていることを説明。ALの基盤は生徒を挑戦に向かわせる「安心感にある」とも語った。
大学教育・個別入試改革
千葉大 「飛び入学」でグローバル化
一橋大 初年次英語8単位必修へ
「大学教育改革・個別入試改革」分科会。1日開催の千葉会場では、千葉大学の渡邉誠理事が「グローバル」「イノベーション」「インタープロフェッショナル」の三つのキーワードから同大学の教育改革の現状などを紹介。特に、「飛び入学」を活用したグローバル化対応などについて言及した。
個別の入試改革については、佐藤智司副学長が他大学に先駆けアドミッション・ポリシーなどを定めたことに触れた。また、平成29年度に入試を大幅に変更。学部によりAO入試導入や、外国語の外部検定試験などを活用する現状を報告した。
東京会場では、一橋大学の沼上幹理事・副学長がグローバル教育の強化、入試改革の現状について触れ、例えば、29年度入学生からは少人数のクラス編成で初年次英語スキル教育を8単位必修化や、金銭的なサポートを厚くしながらの長期海外留学などの強化策を説明した。
講演
高校生の海外経験を後押し
「トビタテ!留学JAPAN」制度説明
文科省などが進める官民協働の海外留学支援「トビタテ!留学JAPAN」の担当者により、高校生向けコースの制度説明が行われた。
学習の他にもスポーツや芸術、ボランティアなど、さまざまな分野の留学を生徒自身が考えて応募し、奨学金や事前事後の研修などで支援するプログラムだ。
昨年度の第1期では、多くの生徒が留学経験を通して「今後の目標が見つかった」と言い、学習へのモチベーションが非常に高くなったという。
来年度出発の第3期生の募集は本年10月ごろから開始する予定。