求める能力から卒業要件まで 三つのポリシー明示
9面記事「高大接続システム改革会議」最終報告 下
大学教育改革
高校教育、大学教育、大学入試の三位一体の改革を目指す高大接続システム改革。「高校」は学習指導要領改訂、高等学校基礎学力テスト(仮称)の導入、「入試」は大学入学希望者学力評価テスト(仮称)の導入などでの制度変更と、改革の道筋は示されている。「大学教育」そのものの改革はどう進めるのか。高大接続システム改革会議(座長=安西祐一郎・(独)日本学術振興会理事長、文部科学省顧問)の「最終報告」(平成28年3月31日)では卒業認定・学位授与、教育課程編成・実施、入学者受け入れの「三つの方針の重要性」をうたった。既に中央教育審議会大学分科会大学教育部会が三つのポリシーの策定と運用についてのガイドラインを公表。文科省では全ての大学が三つの方針を一貫性のあるものとして策定、公表することについて学校教育法施行規則を改正して、29年4月施行と法的に位置付けた。
教育内容の見直し
能動的な学修を重視した指導へ
三つの方針とは、卒業認定・学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー)、教育課程編成・実施の方針(カリキュラム・ポリシー)、入学者受け入れの方針(アドミッション・ポリシー)である。
ディプロマ・ポリシーは、各大学などの教育理念に基づき、どのような力を付けたかを卒業時に認定、学位を授与するか方針を示し、学生の学修成果の目標にもなる。
カリキュラム・ポリシーは、卒業認定・学位授与の方針を支える。どのような教育課程を編成し、教育内容・方法を工夫することによって、必要とされる力を育み、評価するのに必要な方針のこと。
アドミッション・ポリシーは、前出の二つのポリシーを実現するために、受け入れる学生に対して大学側が求める「学力の3要素」などの成果を明確に示したものである。
最終報告では大学でのカリキュラム構成の見直し、学生の能動的な学修を重視した指導方法の導入、学生の学修時間増加に向けた指導、学習成果に関わる評価の充実などが取り組まれるようになっているとしながらも「現状では一部の大学にとどまっており、多くの大学においてはいまだ課題」と指摘。
その上で「各大学は、能動的学習の方法を身に付けてきた多様な入学者の能力を更に向上させるための、実効性ある教育方法を確立しなければならない。大学への入学は単なる『入口』に過ぎず、充実した大学教育を通じて学生一人一人が能動的に学び、鍛えられ、『出口』である卒業時点で社会の各分野で活躍できる人材に成長することこそが重要」として、三つの方針を一体的、明確な内容を持つものとして策定し、同方針に基づく充実した大学教育の実現と、責任を持って卒業生を社会に送り出すことを求めた。
ガイドライン策定
大学でもPDCAサイクル
既に策定、公表した「三つのポリシーの策定と運用についてのガイドライン」では、3ポリシーの一体的な策定の意義について、例えば、大学にとっては「自らの定める目標に照らし、自大学における諸活動についての点検・評価を行い、その結果に基づいて改革・改善を行い、その質を自ら保証する営み(内部質保証)を教育活動において確立するための指針となる」、あるいは「大学がどのような個性・特色、魅力を持ち、どのような有為な人材を育成できるかということを対外的に示すことができる」。
入学希望者にとっては「どのような教育研究が行われているのかをあらかじめ認識し、入学後の学修方法・学修過程や卒業までに求められる学修成果についてあらかじめ見通しを持ち、学びたい内容に照らして大学を選ぶことが可能になるとともに、大学が初等中等教育段階におけるどのような学習成果を求めているのか、入学までに何を身に付けなければならないのかが明確になる」。高校関係者にとっては「個々の大学の強みや特色などを踏まえ、生徒一人一人の将来目標を実現するという観点からの進路指導が促進される」などの意義を列挙した。また、3ポリシーの策定単位として、授与される学位の専攻分野の課程ごとに策定することが基本的に望ましいとした。
同ガイドラインでは、ポリシーごとの配慮事項、運用留意事項などもそれぞれ挙げている。
運用に当たっての配慮事項では、まず「三つのポリシーに基づく大学教育のPDCAサイクル」に言及した。
入学者選抜、教育の実施および卒業認定・学位授与の各段階における目標(P)が、入学者選抜、体系的で組織的な教育の実施(D)を通じて達成されたかどうかを自己評価・点検(C)し、各学位プログラムについて必要な改善・改革(A)を行っていくことを一つのサイクルとして回していくことを求めた。その際、PDCAサイクルを回す者は、各学位プログラムの教学マネジメントの担い手である。
次いで挙げたのが「三つのポリシーに基づく、入学者選抜及び体系的で組織的な教育の実施」。「アドミッション・ポリシーを具現化し、学力の3要素を多面的・総合的に評価するための適切な評価方法の活用」や「カリキュラムを構成する授業科目の目標、内容、教育方法、評価方法などを記載したシラバスの作成と組織的なチェックによる、各科目間の関係や内容の整合性、評価基準や評価方法などの確認、及び教員間や教員と学生間での共有化」などを具体的に挙げた。
卒業認定・学位授与などで説明責任が果たせるよう、「学修ポートフォリオの活用など個々の学生による学修履歴の記録、振り返り、学修デザインの支援」などを求め、質の高い教育のため、教員の教育活動に関する評価の充実と、その結果の処遇などへの反映、教学マネジメントに関わる専門的職員の職務の確立・育成・配置なども求めた。
また、3ポリシーの策定単位ごとに取り組みの適切性への自己点検・評価に言及するなど「三つのポリシーに基づく大学の取組の自己点検・評価と改善、情報の積極的な発信」の必要性も指摘した。
各大学では28年度中に三つの方針の見直しなどを行い、29年度には各方針を踏まえた卒業認定、カリキュラム改革、入学者選抜改革などの取り組みに着手することになる。
新認証評価制度
30年度から接続改革の推進も視野
各大学への第三者評価制度として、平成16年度に導入された認証評価制度。各大学は7年以内ごとに、また、専門職大学院は5年以内ごとに評価を受けることを義務付ける。
「最終報告」では「引き続き、認証評価機関と連携して、高大接続システム改革の目的、内容が具体化されるように、適切な評価を実施するための方策に取り組むべきである」と、「認証評価制度の改革」を提案した。
認証評価制度自体は30年度に3巡目に入ることから、中央教育審議会大学分科会大学教育部会を中心に制度の改善に向けて検討してきた。その際、PDCAサイクルのP(計画)としても重要となる三つのポリシーについては一体的に策定されているかなど、高大接続システム改革を推進するための評価内容なども議論し、「審議まとめ」に至っている。文科省では、これを受け、省令改正した。30年4月に施行する。