高校の教科・科目はこう変わる 上
15面記事学習指導要領改訂の基本的な方向性を検討している中央教育審議会の特別部会が、高校の各教科の新科目を検討素案として示した。具体的な内容は秋以降に開かれる教科ごとの専門部会で議論するが、特別部会で大枠を固める見通しだ。
公民
自立、社会参加を視野に
公民科で提案されたのは、自立や社会参加などに関する新科目。公共的な事柄に自ら参加しようとする意欲や態度の他、社会の複雑な課題を協働して考え、判断できる力などの育成を目標にするという。自民党が提唱する新教科「公共」がベースにある。
政府・与党の強い意向を受けているためか、新科目の検討素案では内容構成まで例示された。「なぜ公共を学ぶのか」「様々な主体としての私たちの生き方」「持続可能な社会づくりの主体としての私たち」の3分野(いずれも仮称)。既存の「現代社会」や家庭科、道徳の時間とキャリア教育を統合したイメージだ。
授業は、弁護士や企業など関係する専門家や機関を活用しながら、討論や模擬裁判、新聞を題材にした学習、インターンシップなどを行うことを例示した。
日本の高校生の社会参加意欲が国際的にも低く知識重視で課題解決的な学習ができていない。新科目の導入を求めた背景には、もともとそんな課題がある。選挙権年齢の引き下げも導入を後押ししそうだ。
授業は、既に研究開発学校や自治体が独自に実践している。兵庫県立舞子高校は道徳やキャリア教育を柱にした「公共」を実践、東京都では本年度から同様の内容の「人間と社会」を全校で試行実施する。
歴史
世界史・日本史 近現代史を統合
歴史科目をめぐっては前回改訂時にも大きな議論があった。世界史を改め、日本史を必修にする案や世界史と日本史の統合科目を設ける案だ。
今回、文科省は世界史と日本史の近現代史部分を統合した科目の新設を提案した。それを「自国のこと、グローバルなことが影響しあったり、つながったりする歴史の諸相を学ぶ科目」と位置付けている。
特徴に挙げるのは、現代の課題につながる「歴史の転換点を捉えた学習を中心にする」ことや、各時代の因果関係など「歴史の考察を促す概念を重視する」などで、一言で言えば、従来の年号や人名、出来事を覚える学習からの転換だ。
同省は指導方法を変えるため、デジタルアーカイブなど公文書資料の活用や、学び合い学習の導入を挙げる。
ただ、最も大きな課題は、教科書の内容を網羅的に扱うこれまでの授業を見直せるかどうかだ。その意味で、今後の大学入試改革とも連動して見直すことが求められている。
地理
持続可能な社会の視点
地理では「持続可能な社会づくりに必須となる地球規模の諸課題や地域課題を解決する力を育む科目」を提案した。
選択必履修の地理をめぐっては、選択する生徒が少ないため、最低限の地理の知識・技能を持たずに卒業する高校生が多いことが指摘されてきた。
検討素案は、地図データの活用技能やグローバルな視点からの地域理解などを新科目の狙いに位置付ける。
これまでの地理の授業では、観察や調査・見学といった体験的な学習の取り組みは少なかった。地理情報データを視覚化し、災害対策などに利用される地理情報システム(GIS)も活用しながら、課題解決型の学習を導入する考えだ。
理数
数学・理科の統合科目提案
理数系科目に関して、日本は国際的にもトップレベルの学力を誇ってきた。PISA2012では、科学的リテラシーはOECD諸国の中で1番目、数学的リテラシーは2番目の成績だった。
その一方で、学力上位層の割合が他のトップレベルの国・地域と比べて低く、数学の重要性に対する意識も低い現状にある。科学についてもこうした傾向が見られる。学ぶことに興味を持っている生徒の割合は、OECD平均以下にとどまっている。
今回、こうした課題を背景に、数学と理科の統合科目の導入が提案された。生徒の研究を中心とした選択科目とする案だ。
専門領域で分かれていた両教科を横断的に研究することで、科学の探究能力を育てる。探究テーマには「物理現象の測定方法の研究」や「バーコードと国際図書標準番号の研究」など、自然事象や社会現象に関わる分野も幅広く対象にする。
スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の実践成果を参考に、多くの高校で取り組めるようにする狙いだ。
検討素案で示された新科目の概要
公民
自立・社会参加に向けた意識などを育てる。社会保障や政治参加、持続可能な社会づくりについて、討論や模擬投票、外部の専門家の講演を通して学ぶ。
歴史
世界史Aと日本史Aを関連付け、現代につながる歴史の転換点等を捉えた学習を中心にする。歴史の考察を促す概念を重視する。
地理
持続可能な社会づくりに必須の地球規模の課題や地域課題を解決する力を育てる。地理情報システム(GIS)などを活用する。
理数
数学と理科の知識・技能を活用して探究活動を行う(選択科目)。テーマは自然事象や社会現象、先端科学や学際領域に関する研究を想定する。
現代高校生の課題
自己肯定感の低さから卒業後の進路まで
高校生の課題について、これまでさまざまな形で指摘されてきた。
例えば、自己肯定感に関して、海外と日本の高校生の違いを浮き彫りにした(財)日本青少年研究所の平成24年調査はよく知られるところ。「自分を価値ある人間だ」と考える生徒が、中国・韓国の86・7%、米国79・7%に対し、日本は39・7%と低率だった。
また、文科省教育課程実施状況調査(17年)で、授業の理解度を聞いたところ、14年調査より改善。「だいたい分かる」は国語で54・5%、数学で37・3%。だが、小、中に比べ低い傾向にあった。
18歳への選挙権引き下げをにらめば、総務省の26年12月の年代別投票率で、60代の68・28%の半分以下に、20代の投票率(32・58%)が位置付いていることが判明し、十代の投票率への懸念が広がっている。
学校基本調査(25年度)などから高校卒業後の進路を見れば、進学も就職もしていない者の割合は、専門学科が3・8%、総合学科が5・1%に対して、普通科は5・3%と最も高かった。人数で見れば、普通科卒の進学も就職もしていない者の数は約4万2千人に及んでいる。
また、今焦点となっている「論理的思考」に関して、国立教育政策研究所が「特定の課題に関する調査」として調べたところ、「学校が重視している取組」の中でも、下位に位置付いたのが、「思考力・判断力・表現力等を育成する指導の校内研修を行う」ことなどだ=表参照。「各教科で論理的・科学的な思考力が必要な場面を設ける」ことなども必ずしも重視はされていない。今後の大きな課題だろう。
学校で重視している取り組みのうち下位のもの
今夏、共に創ろう「先取りセミナー」
分科会のテーマなどに「知りたいこと」大募集
日本教育新聞社は今夏、(株)ナガセと共に「大学入試改革先取り対応セミナー」を開催する。昨年度の「英語教育改革先取り対応セミナー」に次いで第2弾となる。
特に、平成32年度実施を目指し、検討が進められている「大学入学希望者学力評価テスト」(仮称)などを主眼に置いたセミナーを開催するに当たって、高校現場を中心に大学入試改革、高大接続改革などで「知りたいこと」や、分科会テーマで取り上げてほしいことなどを大募集します。疑問と感じている点、こうしてほしい点、ご意見など、幅広くお寄せください。
皆さまの声を反映しながら、セミナーを共に創っていくことを目的にしています。
ご意見などは、ファクス(03・5510・7812)へ、「大学入試改革先取り対応セミナー」係と宛名を明記いただき、お送りください。