大学入試改革新テストの動向 記述題の導入、民間試験活用も
9面記事大学入試センター試験に替わり、2021年1月から実施される「大学入学共通テスト」。この春、高校に進学した1年生が3年生になった時、最初に受けることになる。何が、どのように変わるのか。新テストの仕組みと今後のスケジュールをまとめた。
全教科、思考力など重視
現在の大学入試センター試験からの変更点は大きく三つ挙げられる。一つ目は、国語と数学での記述式問題の追加。次に、全教科で思考力・判断力・表現力を問う問題の重視。そして、英語での資格検定試験の導入だ。
記述式問題は当面、国語と数学の2教科に3問程度入れる。それに伴い、試験時間を現在より延長し、国語は100分、数学は70分程度となる見通しだ。
思考力・判断力・表現力を重視した問題は、マークシート式問題にも取り入れる。英語は、入試センターが作成した試験か、センターが認定した各種試験の中から生徒が受け、各大学が結果を選考に利用する仕組みにする。
新テストは、21年1月に実施する試験から導入されるが、その後に見直すことも既に決まっている。高校では、22年度から始まる学習指導要領で学んだ生徒が対象となる25年1月の試験からは、記述式問題を地理歴史、公民や理科などでも導入する方向だ。さらに英語は入試センターが作る試験を廃止し、資格検定試験のみに一本化する。
実施方針は21年度をめどに公表するという。試験の実施日は1月中旬の2日間で、現在と大きく変わらない予定だ。
大学入試改革の背景にあるのは、グローバル化と少子高齢化が進み、人工知能の進歩などによって人が担う仕事も変わるとされる中、これからの社会に通用する学力を付けなければいけないという問題意識だ。中央教育審議会が14年末に答申し、それを受けて開かれた「高大接続システム改革会議」が16年にまとめた最終報告が原型になっている。
センター試験の抜本的な見直しは、過去にも提言されてきた。中教審の答申をさかのぼること14年前、大学審議会(現在の中教審大学分科会)がまとめた中間報告も「受験生の能力や適性の多面的な判定」や「受験機会の複数化」など、今回の答申とほぼ同様の方向性を示した。
具体的には、センター試験を資格試験のような位置付けにして、一定以上の成績を取った受験生には個別試験で合否を決めることや、教科・科目横断型の問題を出すことなどを求めた。ただ、英語でのリスニングテストの導入以外は、大学側の反対もあって実現には至らなかった。
今回も中教審の答申以降、主に技術面の課題を理由に多くの懸念が示されてきたが、実現に向けた関係者の意向は強かった。
記述式 試行試験では低正答率
新テストで導入される記述式問題は、どのような内容になるのか。昨年11月に実施された試行調査(プレテスト)では国語と数学ともに3問ずつ出題された。
「国語総合」で解答の字数が80〜120字と最も多かったのは、部活動の練習時間についての生徒会役員の会話を読み、一人の生徒の発言を予測する問題だった。複数の資料から必要な情報を読み取り、条件に沿って根拠を示しながら説明する力を評価した。
問題で提示された資料は三つ。生徒会への要望の中で、部活動の終了時間の延長を求める内容が多かったことを示した資料、市内の他の高校と比べても終了時間が早く、延長が認められていないことが分かる資料、そして通学路が狭く、部活を延長すると交通量のピーク時間に重なることが書かれた校内新聞だ。解答は、練習時間を延長することの課題を「確かに」で書き始め、2文目は「しかし」から始めることなどが条件とされた。
結果は無解答率が低かったものの正答率は1割に満たなかった。問題文では生徒会としての「立場」と「根拠」、延長を提案した場合にどう判断されるかを盛り込むよう聞いていたが、条件を全て満たした解答が少なかったことが原因だった。
「数学I・A」では、正答率がいずれも低く1割未満。無解答率は5割近かった。最も低かったのは、設問で書かれたことが起きた理由を数学的に説明する問題。2次関数の三つの係数のうち、一つの値だけ変化させたところ、頂点の位置は第1、第2象限(y軸が0以上)には移動しなかった理由を、不等式を使って説明するよう求めた。数学的に誤っていたり、正答条件を欠いていたりしていた答案が多かったという。
入試センターは試行調査の結果を踏まえ、今後平均正答率が3割程度となるよう調整を図るという。
新学習指導要領でも重視している思考力・判断力・表現力をマークシート式問題でも評価するのが新テストの特徴だ。試行調査でも、そうした出題が目立った。
「日本史B」では、仏教の社会的役割を説明した時代の異なる三つの説明文を読み、仏堂内の配置を年代順に並べる問題が出た。歴史的知識よりも社会背景と仏堂内の配置との関連性を見つけられるかが重要になる問題で、正答率は3割を下回った。
新テストでは、従来のような択一ではなく、複数の正答がある出題が予定されている。これまでより正確に内容や問題の意図を理解することが求められる。
「数学I・A」で出題されたマークシート式問題では、正四面体についての会話を読み、性質として正しい選択肢を全て選ぶよう求めたが、正答率はわずかに3・2%にとどまった。「出題の形式に慣れていなかったことが影響した」。3月に記者会見した入試センターの担当者は、正答率の低さをそう分析した。
英語の4技能が必須に
24年までは入試センターが作る試験と資格検定試験を併用することになる英語。センターは3月、民間試験の中から新テストに採用した「認定試験」を公表した。参加要件を満たした実用英語技能検定(英検)の新型検定など8種類の参加が認められた。
民間試験導入の目的は「聞く、話す、読む、書く」の4技能を測るためだ。これまでも学習指導要領では4技能をバランス良く育成することを掲げてきたが、大学入試で評価しないこともあり、授業での扱いには偏りがあった。入試に必須にすることで高校の授業改善を促す狙いがある。ただ、「書く」「話す」の試験の開発や採点には多大なコストがかかり、ノウハウも必要となるため、既存の試験を活用した形だ。
一方で民間試験の導入には、幾つか課題が指摘されている。一つは、異なる目的や難易度の試験をどのように統一的に扱うか。センターは、各種試験の成績を国際基準の「CEFR」に当てはめることにより相互に比較できると説明している。
これに対し、国立大学協会は「公平性が担保できない」と採用に慎重な姿勢を崩さず、センターによる試験と民間試験の両方を課す方針を示した。
具体的には(1)一定水準を満たしていることを各大学の出願資格とする(2)マークシート式試験の得点に加点する―のいずれか、または両方を組み合わせる。センターの試験を廃止し、民間試験に一本化する25年以降は「入試としての実効性を十分に検証しつつ、引き続き検討する」との見解を示した。
また、東京大学は民間試験を受けることを必須としながらも、合否判定には使わず、入学後の教育に役立てる考えを表明した。
受験生への経済的負担も増す。検定料は最も高い試験で約2万5千円。離島や山間地域に住む受験生にとっては試験会場までの交通費もかさむ。政府の財政支援とともに、文科省と大学入試センターには、受験生に不利益が生じないよう、関係機関に協力してもらうことが求められる。